佳境のJ1残留争い「危険な4チーム」は? 明暗分かれた直接対決も…残り10試合を展望【コラム】
J1リーグは残り10試合で残留争いを展望
今季J1リーグは残すところ10試合となり、優勝争い、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)争い、残留争いなども該当するチームが徐々に絞り込まれてきている。20チーム構成で3チームが降格するレギュレーションとなっており、“ラスト10”の厳しい戦いが予想される。従来は一般的に試合数=勝ち点が残留ラインとも言われてきたが、38試合を戦う今シーズンは夏場に下位チームの巻き返しがあり勝ち点38よりは確実に引き上がりそうだ。
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数字上の可能性だけで言えば、まだどこも残留が確定してはいないが、現実的に可能性があるのは勝ち点40に達していないチームだろう。現在7位のアビスパ福岡が勝ち点38で、得失点差でセレッソ大阪、FC東京、東京ヴェルディが続く。さらに勝ち点37で11位の名古屋グランパス、勝ち点36で12位のアルビレックス新潟、そして勝ち点35ながら、12試合を残す13位の浦和レッズ。このあたりまでは安全圏とは言えないまでも、残留争いの真っ只中にあるとは言い難い。それでも下位相手の連敗など、1つ間違えば、途端に巻き込まれるリスクがある。
勝ち点34で14位の川崎フロンターレは難しい位置付けにある。前節の浦和戦が雷雨のためハーフタイムで中断となり、浦和が1-0でリードしたスコアが生かされる形で、後半45分のみ行われる。残りシーズンのどこに入ってくるかは未定で、まずは直近に行われる北海道コンサドーレ札幌とのアウェーゲームに集中したいところだ。
前半戦は怪我人も多発したなかで、かなり苦しんだ川崎だが、後半戦に限れば8試合で3勝1敗4分け、勝ち点13と悪くはない。夏の移籍で加入したMF河原創がどこまでフィットするかが浮上の鍵を握りそうだが、やはり9月から始まるACLエリートの6試合と前後のリーグ戦をどうこなしていくかがポイントだろう。もちろんアジアの頂点を目指すチャレンジの場となるが、若手を含めた思い切った起用法が求められてくるかもしれない。
川崎と同じ勝ち点34で、15位の京都サンガF.C.は今最も勢いのあるチームであり、後半戦に限れば9試合6勝2分1敗で、2位サンフレッチェ広島と同じ勝ち点19を積み上げている。夏の移籍で加わったブラジル人FWラファエル・エリアスが6試合6ゴールと爆発的な得点力を発揮していること、攻守のバランスワークに優れるMF米本拓司の奮闘など、夏の補強が非常に効果的だった。ハードワークをベースとしたスタイルで、前半戦は終盤に失速して逆転負けなどを喫する傾向にあったが、90分間インテンシティーを維持できるようになっていることも大きい。
京都が残留争いのライバルと大きく異なるのは残り10試合のうち、大半が上位との対戦になること。特に首位のFC町田ゼルビアをはじめ2位広島、3位ヴィッセル神戸、4位鹿島アントラーズ、5位ガンバ大阪、6位横浜F・マリノスとの対戦を残している。傍目に見ればデメリットだが、現在の京都の勢いを考えれば、むしろ優勝を目指す上位側にとって嫌な相手と言える。ただ、8月31日に予定されていたホームの鹿島戦は台風に備えていち早く中止が決定しており、やや水を差された格好だ。現在のチーム状態だけで見れば、降格圏との勝ち点差6はかなり有利ではあるが、代表ウィーク明けに流れがどう向いてくるか。
17位の湘南から下位4チームは厳しい状況に
16位の柏レイソルは勝ち点33ではあるが、8月7日に予定されていた浦和とのアウェーゲームが、悪天候により中止となり、11試合を残している。0-2で敗れた前節の広島戦も、走行距離とスプリント回数は相手を上回るなど、高いプレー強度は維持しているなかで、得点力に課題を残していることは否めない。ここまでFW木下康介が9得点を叩き出していることは頼もしいが、やはりパリ五輪代表のエースで、9月のアジア最終予選を戦う日本代表に選ばれたFW細谷真大が期待どおりの得点力を発揮できるかが鍵を握る。
また夏に鹿島から加入した大型FW垣田裕暉など、攻撃の駒は揃っているだけに、井原正巳監督がどう勝ち切るサッカーを積み上げていけるか。また、京都ほどではないが、首位の町田をはじめ鹿島、神戸といった優勝争いに絡んでいるチームとの対戦を多く残している。上記のとおり、広島戦も内容面では大きく負けていなかっただけに、勝負の際をものにしていけるか。まずはホームの東京ヴェルディ戦で結果を出して、代表ウィーク明けに待つ、ジュビロ磐田との“6ポイントマッチ”に備えていきたい。
残り4チームは残留に向けて、非常に厳しい状況に置かれている。17位の湘南ベルマーレは後半戦、後半アディショナルタイムの逆転劇で勝利した第22節の浦和戦を皮切りに、残留争いのライバル磐田に5-0の大勝、さらに上位のG大阪、町田を撃破するなど、京都にも負けないペースで勝ち点を積み上げていた。しかし、ここに来て柏、名古屋グランパスにホームで競り負けて、足踏みしてしまった。特に名古屋戦は立ち上がりにコーナーキック(CK)から先制点を決められると、その後はほとんど相手陣内でサッカーを進めながらも、5バック気味の守備を崩せずに終わるという悔しい敗戦。結果的に名古屋はこの勝利で残留争いから一歩抜け出す形となった。
2巡目となる後半戦トータルで見ると、4勝3敗2分で勝ち点14と、それほど悪い数字ではない。11得点のFWルキアンを筆頭に、攻撃陣も勝ち点3を狙いに行く役者は揃っているが、やはりプラスアルファの力は必要。その意味では夏にギリシャから加入したブラジル人FWルイス・フェリッピのブレイクに期待したいところ。21歳のFW鈴木章斗や23歳の快速FW福田翔生、後半戦のジョーカー的な存在になっている24歳のFW根本凌など、若いアタッカーも多く、覚醒的な活躍も望まれる。
現在18位の磐田はアタッカー陣だけ見れば、15得点のFWジャーメイン良を筆頭に、FWマテウス・ペイショット、夏にセレッソ大阪から期限付きで加入したFW渡邉りょう、左利きのサイドアタッカーであるMFジョルディ・クルークス、気鋭のドリブラーMF古川陽介と魅力的なタレントは揃っているが、彼らに供給する中盤からうしろのビルドアップで、なかなかJ1のディフェンス強度を上回れていない。横内昭展監督は逃げずにボールをつないで攻めることを説いてはいるが、実態はロングボールがジャーメインやペイショットにうまく収まり、彼らの落としやセカンドボールから高い位置まで運べるかが、攻撃の生命線になってしまっている。
公式データによるとボール保持率は43.8%で、典型的な堅守速攻のアビスパ福岡に次いで低い数字となっている。走行距離やスプリント回数で相手を下回る試合も多く、そうしたデータ面の劣勢はほぼ、そのまま試合結果に表れていると言っても過言ではない。後半戦の成績も2勝2分5敗で勝ち点8しか取れておらず、このままの流れで湘南から上のチームを逆転するのは容易ではないだろう。
なにより、最下位の北海道コンサドーレ札幌にホームで負けたことは痛かった。残された試合のなかで何かを変えていく必要がある。夏に加入したDFハッサン・ヒルが早期フィットしているのは後半戦で数少ないプラス材料の1つであり、DFリカルド・グラッサ、パリ五輪を経験したDF鈴木海音で、横内監督も使い慣れた3バックを形成するというのも有効なプランだ。今後のスケジュールを見ると10月、11月は広島、神戸、G大阪といった1巡目の試合で完敗した相手との対戦が続くだけに、9月中にどれだけ勝ち点を上積みできるかで、残留への道筋が見えてきそうだ。
補強が当たった札幌、最下位ながら復調の気配
その磐田から勝ち点4差の19位サガン鳥栖は現在、残留に向けて苦しい状況に置かれているのは確かだ。川井健太前監督が途中交代となり、木谷公亮監督がチームを鼓舞するが、夏の移籍でFW横山歩夢(バーミンガム・シティ)を筆頭に、5人もの主力がチームを去った。特に中盤を豊富な運動量で支えた河原の川崎移籍は衝撃的で、さらにエースとして攻撃を牽引してきたFWマルセロ・ヒアンが札幌戦で左太ももを負傷。後日、全治8週間と発表された。ただ、夏に名古屋から加入したMF久保藤次郎やFC東京から来たMF寺山翼など、確実にプラスをもたらせるタレントはおり、3バックの導入も良いほうにハマれば逆転残留の芽はある。湘南、京都、磐田との対戦を残していることもプラスに捉えたい。
最下位の札幌は前半戦であまりにも勝ち点を落としすぎた。ただ、後半戦は状況判断に優れるDF大﨑玲央の加入、怪我で出遅れたディフェンスリーダー岡村大八の復調をきっかけに、マンツーマンのディフェンスも大崩れしなくなってきている。また夏に補強した左ストッパーのDFパク・ミンギュが獅子奮迅の働きを見せており、攻撃面も縦に矢印を向けた本来の姿が戻ってきた。相変わらず、得点した直後にイージーな失点をしてしまう傾向はあるが、アウェーで2-0の勝利を飾った磐田戦は90分を通しての集中力も高く、1つの転機になり得る勝利だった。
残留ラインまで勝ち点7差と苦しい状況は変わらないが、元々チームのポテンシャルは高い。次の川崎戦をはじめ京都、湘南、柏など、残留争いに絡む試合を含めて、勝ち点3を取り続けていくしかない。ルヴァン杯は準々決勝で横浜FMと対戦するが、2019年に準優勝した同大会でさらに躍進することは、札幌にとって残留争いのマイナス面にはならないはず。ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ)監督の最終年でもあり、悲願のタイトルを目指すモチベーションをJ1残留へのパワーにも還元していきたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。