日本代表が“初戦”で「勝てない」理由 「ポジション失うぞ」元主将も指摘した海外組の不安【コラム】

カタールW杯アジア最終予選でオマーンに敗れた日本代表【写真:Getty Images】
カタールW杯アジア最終予選でオマーンに敗れた日本代表【写真:Getty Images】

過去2大会はW杯アジア最終予選の初戦で敗れているが、今回の中国戦はいかに

 いよいよ2026年の北中米ワールドカップ(W杯)のアジア最終(3次)予選がスタートする。森保一監督率いる日本代表は8月29日、9月5日のホーム・中国戦、11日のアウェー・バーレーン戦に向けたメンバー27人を発表した。

 日本代表は2018年ロシアW杯アジア最終予選の初戦、9月1日のホームでのUAE戦に1-2と敗れた。さらに2022年カタールW杯アジア最終予選でも、9月2日に行われた初戦のホーム・オマーン戦に0-1と敗戦を喫している。

 果たして、「二度あることは三度ある」なのか、「三度目の正直」なのか、いずれにせよ中国とはFIFAランキングで大きな差があるものの、細心の注意を払って戦うべき試合と言えるだろう。

 森保監督は「まずはチームとして最大限の力を発揮できるように、選手のコンディションのところも注視して見ていかなければいけない」と語りつつ、前回の反省点として「最初の9月に入りのところでチーム全体のイメージが共有できなかった」ということを挙げた。

 ちなみに、2014年ブラジル、2010年南アフリカ、2006年ドイツ、1998年フランスと、いずれのW杯アジア最終予選でも初戦の敗戦はない(2012年6月3日:3-0オマーン、2008年9月6日:3-2バーレーン、2005年2月9日:2-1朝鮮民主主義人民共和国[北朝鮮]、1997年9月7日:6-3ウズベキスタン)。

 なぜ近年、最終予選の初戦で負けが続いたのか、2018年、2022年と出場した吉田麻也は、前回の敗戦のあとで「9月の試合は難しい」とこう語っていた。

「9月のシリーズは非常に難しい。日本からヨーロッパに行って、わりと早い段階でまた日本に帰ってきて、ヨーロッパは涼しくなっている国が多いなかで(暑い)日本で戦う(難しさがある)。(自分のチームでは)新しいシーズンで、プレシーズンで自分たちのチームのサッカーを落とし込んだあとに、また代表に帰ってきて代表の形に合わせなければいけないっていうこともある」

かつて吉田麻也が指摘した9月シリーズの難しさとは?

 吉田がまず挙げたのは気候の差。しかも初戦は試合の前日、または前々日に全員が揃うという状況なのでコンディションを調整している暇がない。

 次に挙げたのは、新シーズンがスタートし、新しい戦い方を覚えているなかで日本に戻ってきて日本代表の戦い方を思い出さなければならないという切り替えの難しさ。これにはもう1つの要因もあるだろう。

 自分のチームで絶対的な地位を確立している選手ならば、日本代表への合流も肉体的な疲れだけで終わるかもしれない。だが、森保監督は選手が監督から「日本に戻るのだったらポジションを失うぞ」と言われて帰国しているケースもあるのだと明かした。

 新戦術を覚えてしっかり自分の立場を築きたいと思っている選手にとっては、一度日本代表の戦術に戻ることでヨーロッパに戻った時に思い出せるだろうかという不安や、あるいは自分がいない間にライバルがポジションを奪ってしまうという焦りもあるだろう。

 吉田は「1試合目はやっぱり精神的な部分の準備を怠っていた。足りてなかったと正直思います。そこは不足していたと大きな反省材料であったことは間違いないです」とも語っており、やはりうしろ髪を引かれつつ帰国したのではないかと窺わせた。

 吉田の指摘を踏まえて考えると、ヨーロッパ組のほうが少なかった2014年ブラジルワールドカップ以前の予選では9月の試合に負けていなかったことも理屈がとおる。

 今回も、定位置を確保していないという忸怩たる思いを隠しながら帰ってくる選手がいるのではないだろうか。

遠藤航や上田綺世は自チームで先発の座を奪えず

 例えば遠藤航(リバプール/イングランド)、上田綺世(フェイエノールト/オランダ)らは、自チームの先発で使ってもらえないという環境が一致している。鎌田大地(クリスタル・パレス/イングランド)はゴールを挙げて戻ってくるものの、せっかくカップ戦で力を見せつけ、リーグ戦の長時間出場に結びつけたいタイミングで帰国することになる。日本にとって必要不可欠な選手がどのような状態で日本代表戦に臨むかは試合に大きく影響する。

 今回の中国戦は、そんなバックヤードも気になる試合だ。幸い、いろいろなチームで先発を確保している選手たちも多い。その選手たちが実力をいかんなく発揮し、今回こそは危なげなくスタートを切ってほしいものだ。

<GK>
大迫敬介(サンフレッチェ広島)
谷 晃生(FC町田ゼルビア)
鈴木彩艶(パルマ/イタリア)

<DF>
長友佑都(FC東京)
谷口彰悟(シント=トロイデン/ベルギー)
板倉 滉(ボルシアMG/ドイツ)
中山雄太(FC町田ゼルビア)
町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ/ベルギー)
菅原由勢(サウサンプトン/イングランド)
望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)*
高井幸大(川崎フロンターレ)*

<MF/FW>
遠藤 航(リバプール/イングランド)
伊東純也(スタッド・ランス/フランス)
浅野拓磨(マジョルカ/スペイン)
南野拓実(ASモナコ/フランス)
守田英正(スポルティング/ポルトガル)
鎌田大地(クリスタル・パレス/イングランド)
三笘 薫(ブライトン/イングランド)
小川航基(NECナイメヘン/オランダ)
前田大然(セルティック/スコットランド)
旗手怜央(セルティック/スコットランド)
堂安 律(フライブルク/ドイツ)
上田綺世(フェイエノールト/オランダ)
田中 碧(デュッセルドルフ/ドイツ)
中村敬斗(スタッド・ランス/フランス)
久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)
細谷真大(柏レイソル)

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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