日本代表で「天才」は共存できない? 久保か鎌田か南野か…先発予想困難な激戦区【コラム】

W杯アジア最終予選に臨むサッカー日本代表【写真:ロイター】
W杯アジア最終予選に臨むサッカー日本代表【写真:ロイター】

最終予選・中国&バーレーン戦のメンバー発表、トップとトップ下の争いに注目

 北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選(中国戦、バーレーン戦)のメンバーが発表された。望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)、高井幸大(川崎フロンターレ)が初招集。伊東純也(スタッド・ランス)、中山雄太(FC町田ゼルビア)の復帰があり、もはやサプライズとも言われなくなった長友佑都(FC東京)、何気に復帰の浅野拓磨(マジョルカ)。あとはいつもの常連組である。

 誰がどのポジションでプレーするのか、およそ想像のつくメンバー構成になっていて、各ポジション2人ずつ選んでいる。例外はGK、センターフォワード(CF)、左サイド、トップ下。

 GKの3人はいつもどおり。左サイドは三笘薫(ブライトン)、中村敬斗(スタッド・ランス)、前田大然(セルティック)の3人だが、序列ははっきりしている。誰が先発するのか予想がつかないのはトップとトップ下だ。

 センターフォワード(CF)は上田綺世(フェイエノールト)、小川航基(NECナイメヘン)、細谷真大(柏レイソル)に浅野。浅野はサイドの可能性もあり、前田がCFかもしれない。1つのポジションに4人としても最も数が多い。おそらく序列最上位は上田なのだろうが決定版とは言い難い。マンチェスター・シティへの移籍の噂がある古橋亨梧(セルティック)は今回選出されておらず、ポジション争いはしばらく続きそうだ。代表戦はストライカーの能力が勝敗を左右することも多く、その点ではまだ少し物足りないポジションと言える。

 トップ下は3人。南野拓実(ASモナコ)、鎌田大地(クリスタル・パレス)、久保建英(レアル・ソシエダ)。こちらは誰が出ても問題のない3人であり、その点で最もハイレベルなポジション争いが起きている。2次予選で使った攻撃的3バックなら、3人のうち2人が2シャドーとしてプレーする可能性があり、久保は右サイド、鎌田はボランチでもプレーできるが、その場合はそれぞれ伊東、守田の序列トップがいる。

かつて強豪国でも天才共存「不可」と判断、日本代表も気の抜けない状況

 1974年W杯の前、西ドイツ代表で「オベラーツかネッツァーか?」の議論があった。ボルフガング・オベラーツとギュンター・ネッツァーは、いずれも当時世界でもトップクラスのプレーメーカーだった。どちらにチームの舵取りを任せるかで世論が沸騰していたのだ。

 同じような論争は1970年W杯のイタリア代表でもあり、こちらはジャンニ・リベラかサンドロ・マッツォーラか。ブラジル代表はこの手の議論があまりなく、70年大会はペレ、トスタン、リベリーノの「10番」を同時起用していた。ただ、欧州勢はプレーメーカーの同時起用は難しいと考えていたようだ。

 西ドイツはオベラーツ、ネッツァー、のちにリベロに転向するフランツ・ベッケンバウアーの3人を同時起用するテストもしたのだが、結果はさんざん。それもあって天才プレーメーカーの共存は無理と判断していた経緯もあった。自国開催だった74年はオベラーツが起用され、西ドイツは優勝している。ネッツァーが出場したのはグループリーグの東ドイツ戦の20分間だけ。観客の要求に応じてオベラーツとの交代だったのだが、その試合に負けてしまい、それ以降はネッツァーの出番はなかった。

 日本代表が4-2-3-1システムを採用した場合、トップ下のポジションは1つしかない。

 南野、鎌田、久保の3人はいずれもライン間でパスを受けて的確に捌く能力があり、ラストパスが出せて、裏抜けもできて、得点力もある。それぞれ特徴は違うのだが甲乙つけがたい。出場枠がほぼ倍増した今回の予選は、もちろん油断禁物とはいえW杯に行けない事態は考えにくい。戦うのは相手チームだが、ポジション争いも厳しく、特に激戦区のトップ下は全く気の抜けない状況となっている。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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