電撃解任後、サッカーが一変…J1名門「上昇」の気配 復活の予感漂わせた“後半45分”【コラム】
ハッチンソン暫定監督率いる横浜F・マリノスが見せた圧倒的な攻撃
国立競技場での開催となったJ1リーグ第28節・横浜F・マリノス対セレッソ大阪の前半戦は、相手の出方を伺うように比較的、大人しい展開で進んでいった。C大阪が敵の得点源であるアンデルソン・ロペスを激しくマークして攻撃の起点を作らせなかったことに加え、横浜FMの守備陣も安定したパフォーマンスを見せ、相手に自由にサッカーをさせなかったことがその理由だ。
しかし、16年ぶりに国立競技場の地をホームゲームとした横浜FMの視点から言えば、試合の見せ場は後半にやってくる。シーズン途中からチームの指揮を任されたジョン・ハッチンソン暫定監督は、トリコロールの集団を自身が思い描くスタイルの色に染めつつある。なにより攻撃のスタイルが前任者のチームより明確になっており、その特徴が後半に入ると威力を発揮した。
中盤から後方の選手がボールを持つと、前線でターゲットマンの役割を担うアンデルソン・ロペスへとパスを出す。ボールを受けたブラジル人ストライカーは多くの場面において正確なワンタッチプレーでボールを返すと、自身は素早い動きでゴール前へと進出する。
リターンを受けた選手はドリブル突破や味方へとさらにボールをつなげて敵陣深くに進出し、ゴール前へハイボールのラストパスを供給する。全体の流れとしてはサッカーの定石と言えるシンプルな攻撃だ。
振り返れば成績不振で電撃解任された前任ハリー・キューウェルのサッカーは攻撃の選手を多く投入し、またフォーメーションも前掛かりで臨んでいたが、明確な方向性があまり感じられず攻撃のリズムが悪かった。言ってしまえば大振りのラッキーパンチを当てるようなサッカーだった。しかし、この試合では的確にクリーンヒットを狙うしたたかさが感じられた。
ただ、ハッチンソンが暫定指揮官となっても、8月11日の対ヴィッセル神戸戦では、1-2で迎えた終盤にボールを支配したものの相手の守備が強力だったこともあり、攻撃のアイデアを欠き、最終局面までは崩せずチームに統一感を作り上げるには、あと一歩の努力が必要だと感じていた。
しかし、劣勢のスコアだった神戸戦の終盤と、対C大阪の前半は0-0という展開のため差し迫った緊迫感が違うが、どちらの試合もボールを持ちながら最終局面を崩せないという状況で、今回はペースを握れなくても目指す戦術を焦らずに続けていた。横浜FMは自分たちが展開する戦術の有効性を信じ、繰り返すことで後半は圧倒的な攻撃を見せることになる。
ポジティブな印象を与えた後半45分の試合内容
足もとへの供給に前線へのスルーといったさまざまな状況でグラウンダーのパスを多用し、しっかりとつなぎ、返す、そしてさらに前線に進出するというテンポの良い連続プレーで徐々にピッチを制圧していく。時に見せるミドルシュートも攻撃のアクセントとなっていた。そして、アンデルソン・ロペスを中心とした攻撃陣がゴールを重ねていった。
横浜FMが見せた攻撃はシンプルな方法だったが、前線のターゲットマンとなるアンデルソン・ロペスへと供給された仲間たちのパス、それを受けて返すブラジル人FWのプレーと各選手の蹴る、止めるといったサッカーにおける基本技術の高さは流石だった。定石のスタイルのなかにも少ないタッチ数でゴールを目指すスピーディーなスタイルには、高い基本技術を必要とするプレーが散りばめられていた。
神戸とC大阪の総合力に差があり、前者のほうが上回っていたということもあり、今回の試合ではゴールを攻略するのに、多少はハードルが低かったのかもしれない。それでも神戸戦からわずか2週間という時間の経過で、選手間の意志の疎通と、そこから生まれる攻撃スピードは向上しているように感じられた。
個人の技術力の高さを活かした素早い攻撃でゴールを目指すサッカーには安定感があり、指揮官が交代したことによってチームが上昇へと転じていることも、サポーターに伝わったのではないだろうか。横浜FMの後半45分の内容は、再び強い姿が戻ってきている印象を強く示すものだった。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)