久保建英は「腹を立てていたように感じた」 “救世主”弾も物議…スペインで違和感【現地発コラム】
予想に反してベンチスタート、途中出場の久保が公式戦14試合ぶりのゴール
開幕から2試合目にして初のベンチスタートとなった久保建英だったが、決勝点を挙げてチームに今季初勝利をもたらした。
開幕戦をホームで迎えたにもかかわらず黒星発進となったレアル・ソシエダにとって、1部に返り咲いたばかりのエスパニョールとのラ・リーガ第2節は是が非でも勝ちたい試合だった。
このアウェーゲームに向けたスペイン各紙の先発予想で久保はすべてスタメンだったものの、蓋を開ければベンチスタート。4-3-3の右ウイングに入ったのは、パリ五輪で金メダルを獲得したU-23スペイン代表の主力で、今季マンチェスター・シティから加入したばかりのセルヒオ・ゴメスだった。
試合は大きな動きがないまま進み、久保はハーフタイム直後にアップ開始。出番が訪れたのは0-0の後半22分だった。ブライス・メンデスとの交代でピッチに入り、いつもどおり右サイドを主戦場にした。
最初はボールがほとんど入らなかったが、後半35分に自身の価値を証明する瞬間が訪れる。右サイドでパスを受けると、マジョルカ時代のチームメイトだったDFブライアン・オリバンを股抜きで鮮やかに突破。そのままペナルティーエリアに侵入し、左足を振り抜いてゴール左上隅に突き刺した。これは久保にとって2月18日のマジョルカ戦以来、実に公式戦14試合ぶりのゴールとなった。
ゴール直後、久保は喜びの笑顔を一切見せることなく、険しい表情で味方の祝福を次々と振り払いながら両耳に手をかざし、ベンチ付近まで走っていった。そして背中を向けてユニフォームの両肩部分を掴み、自身の名前を誇示するようなゴールパフォーマンスを見せた。
久保のゴールが決勝点となり、ソシエダは1-0で今季初勝利。しかし、この試合のMVPに選ばれたのは久保ではなく、チームメイトのマルティン・スビメンディだった。
スペインメディアは軒並み高評価「天才的」「名手」「ラ・レアルを救出」
この日の久保に対するスペインメディアの評価は軒並み高いものとなった。
クラブの地元紙「エル・ディアルオ・バスコ」紙は、「天才的なゴラッソ。オリバンへの股抜きとファーサイドへのミサイル。あのゴールパフォーマンスはラ・レアルの選手にはできない」と含みを持たせながら称賛し、チームトップタイの4点(最高5点)をつけた。
もう1つの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」も、「ゴラッソを記録。ラ・レアルにおけるクラック(名手)の1人。今はさらにそのような存在になっている」と高評価し、チーム最高の7点(最高10点)。
全国紙の評価も同様だ。「AS」紙は「久保がラ・レアルを救出」と見出しをつけ最高の3点。「マルカ」紙は「ラ・レアルは低調なゲームのなか、久保のゴールでエスパニョールをアウェーで破った」とし2点(最高3点)をつけた。
ゴールは称賛の嵐だったが、ゴール後のパフォーマンスは物議を醸した。「マルカ」紙は「ベンチスタートに対して自身の正当性を大いに主張して驚かせた」と、イマノル・アルグアシル監督に向けたメッセージである可能性を示唆した。
エスパニョール戦後の会見場では当然、アルグアシル監督にもその質問が飛んだ。「タケはラージョ・バジェカーノ戦で打撲を負い、今日の試合を迎えていた。あの時は交代を求めようしようとしていたし、今日は戦術的な判断だ」と、途中出場の過程を説明した。
続いて久保のゴールパフォーマンスについて、「多くの選手がゴールを祝うのは普通のことだ。タケはカメラに自分の名前とユニフォームを見せていた。私はそう理解している。おそらく特別な人を祝うか、特別な人に捧げたんだと思う。それについては本人に聞いてほしい」とコメントするにとどまった。
物議を醸した久保のゴールパフォーマンス、現地記者も口にした違和感
エスパニョール戦の取材に訪れていたスペインのラジオ局「カデナ・コペ」のフアン・アリアス記者はこの日の久保について、「今日は残念ながら途中出場だったけど、ゴラッソを決めるという決定的な役割を果たした。エスパニョールが久保を抑えるために左サイドの守備を強化していたにもかかわらず、彼はあの狭いエリアで2人の間を突破し、GKの手の届かないところにシュートを決めたのだからね」と大絶賛した。
しかし、ゴール後のパフォーマンスに対しては違和感を覚えていた。「あれは論争を巻き起こすようなパフォーマンスだった。スタメン落ちに腹を立てていたように感じたよ。でもイマノルは久保のパフォーマンスに満足しているし、あのジェスチャーについても特に問題視していないと言っていた。2月以降ゴールを決めていなかったから、今日ゴールを決めたことが重要だったんだ。それ以外、イマノルは本当に何も気にしていないようだった」とコメントした。
現地でもいろいろと取り沙汰されたが、久保は試合後どのメディアにも口を開かず、取材陣の待つミックスゾーンを無言で通り過ぎた。そのため、怒りにも感じられる表情を見せたあのパフォーマンスは、スタメンを外されたことに対するフラストレーションによるものなのか、それ以外の何かがあったのか、理由は誰にも分からないものとなっていた。
久保はこの後、ミッドウィークの8月28日にホームでアラベス、9月1日にアウェーでヘタフェと対戦し、今季最初のインターナショナルブレイクを迎える。さらにその直後、古巣レアル・マドリード戦、UEFAヨーロッパリーグ(EL)初戦を控え、休む暇がない。さらなる高みを目指して戦い続ける新たなシーズンはスタートしたばかりだ。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。