J2武者修行で再会…幼馴染が導かれた運命 J1撃破を生んだ会心一撃、ピッチに響いた“合言葉”【コラム】

直接FK弾を決めた千葉・品田愛斗【写真:Getty Images】
直接FK弾を決めた千葉・品田愛斗【写真:Getty Images】

千葉MF品田愛斗が直接フリーキック弾で天皇杯ベスト8進出に導いた

 いつもよりも大きな音量とともに、聞き慣れた声が背中越しに響いてきた。誰が真っ先に抱きついてきたのか。J2ジェフユナイテッド千葉のボランチ、品田愛斗は振り向かなくてもわかっていた。

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 ホームのフクダ電子アリーナに、J1の北海道コンサドーレ札幌を迎えた21日の天皇杯ラウンド16。両チームともに無得点の均衡を破る前半45分の先制点を、鮮やかな直接フリーキック(FK)でゲット。J2の千葉を1-0の下剋上と10年ぶりのベスト8へ導いた品田は、ゴール直後にMF岡庭愁人からこんな声をかけられた。

「愁人が確か『ここから、ここから』みたいなことをずっと叫んでいました」

 ゴール正面からやや左、距離にして約25メートルの位置で獲得した直接FK。セットされたボールの後方には、ゲームキャプテンを務める左利きのDF佐々木翔悟と、右利きの品田が立っていた。最終的に自らがキッカーを担うと決まるまで、佐々木との間かわしたやり取りを品田はこう明かした。

「翔悟は強いキックを蹴れるので、あの距離だと最初は翔悟に任せようかなと思っていました。ただ、ちょうど翔悟が巻きたい側を壁の位置が切ってきたので『じゃあ、ここはオレがいくわ』と」

 壁は向かって左側に、札幌の選手4人で形成されていた。明らかに佐々木の左足を警戒している。裏をかく形で右足を振り抜いた品田は壁の上ではなく、低く、速い弾道で壁の右側を撃ち抜くコースを選択した。

「狙った位置へ向けて自分のリズムで、自分のやり方で蹴ることだけを意識していました」

 結果として札幌のGK児玉潤の逆を突けたと振り返った品田は、前半に4度任されたコーナーキック(CK)の感触が「最初からかなりよかった」ともつけ加えている。

 岡庭はこのとき、壁の前方で両ひざをついていた。品田がキックした直後に振り返り、クロスバーをかすめてゴールへ突き刺さった強烈な弾道を見届けるや、真っ先に品田へ向かってダッシュした。

 もっとも、ここで素朴な疑問が頭をもたげてくる。品田へかけた「ここから、ここから」にはどのような意味が込められていたのか。謎を紐解くには品田と岡庭の関係を知っておく必要がある。

直接FK弾を決めた千葉・品田愛斗【写真:Getty Images】
直接FK弾を決めた千葉・品田愛斗【写真:Getty Images】

 2人は1999年9月にともに埼玉県で生まれた。誕生日がわずか3日違いの幼なじみは、小学生時代は埼玉県八潮市で活動するサッカークラブ、レジスタFCでプレー。中学生年代はFC東京U-15深川、高校生年代ではFC東京U-18へ昇格し、2016、17シーズンはそろってトップチームに2種登録された。

 特に2017シーズンでは、FC東京が当時J3リーグへ参戦させていたU-23チームで、6試合にわたってピッチ上で共演した。そして2018シーズンに品田がトップチームへ昇格し、明治大へ進んだ岡庭は2021シーズンのJFA・Jリーグ特別指定選手をへて、2022シーズンにFC東京へ加入した。

 しかし、プロになってからはFC東京での共演を果たせない。現時点で2022年5月18日に行われた、アビスパ福岡とのYBCルヴァンカップのグループステージ最終戦の一度だけ。スコアレスドローだったこの一戦で品田は先発フル出場し、後半13分から途中出場した岡庭と味の素スタジアムのピッチに立った。

 しかも岡庭は2022年7月に、出場機会を求めて当時J2の大宮アルディージャへ育成型期限付き移籍。昨シーズンも引き続き大宮でプレーし、J3降格を喫した大宮で唯一、リーグ戦で全42試合出場を果たした。品田も昨シーズンは、J2のヴァンフォーレ甲府へ期限付き移籍して20試合に出場している。

 迎えた今シーズン。岡庭は期限付き移籍先を千葉へ変えて、引き続き武者修行を積むと1月に発表された。品田はFC東京の一員として2月の開幕を迎えたが、一度も公式戦のピッチに立てないまま、冬の移籍ウインドーとなる第1登録期間が終わる前日の3月26日に千葉への期限付き移籍が発表された。

 開幕から約1か月がたった段階で、2人が期せずして再び同じユニフォームに袖を通した今シーズン。開幕直後こそベンチ外が続いた岡庭は、品田が選手登録されたロアッソ熊本との第7節から途中出場を中心にコンスタントに試合に出場し、現時点でリーグ戦21試合に出場して3ゴールをあげている。

 対照的に千葉での背番号を、FC東京で最初に託された「44」にした品田はやや不完全燃焼のシーズンを送っている。熊本戦から7試合連続で先発を果たすもその後は途中出場が続き、現時点でリーグ戦14試合に出場して無得点。直近の3試合はベンチ外が続いた状況で、札幌との天皇杯を迎えていた。

 苦しんでいる品田が待望の移籍後初ゴールを、目の覚めるようなゴラッソで決めて実力を証明した。盟友へのエールを込めて、岡庭は真っ先に抱きつきながら「ここから、ここから」と叫んだのだろう。

 天皇杯ももちろん大事だが、千葉が最大の目標に掲げるのは2009シーズンを最後に遠ざかっているJ1への復帰だ。残り11試合となったJ2リーグで、11勝4分け12敗の千葉は8位。J1昇格プレーオフ進出圏内の6位のレノファ山口との勝ち点7差で、直近の5試合で1分け4敗と未勝利が続いている。

 特に7位のいわきFCをホームに迎えた17日の“6ポイントマッチ”で、後半19分以降の10分で3失点を喫して0-3と完敗した。大事な一戦で顔をのぞかせた脆さを「自分が何とかしたいと思っている」と振り返った品田は、札幌に勝った勢いをリーグ戦につなげたいと前を見据えた。

「ピッチ全体を俯瞰して見られる自分が、常に真ん中で冷静にいることで解決できる、自分が周りをコントロールできると思っていた。札幌戦を通じて、そこに関する充実ぶりはかなり感じている。自分がどんなものか、というのを今日でさらに確立できたので、その自信をもって次へ臨みたい」

 札幌戦から中3日の25日には、再びホームに4位のベガルタ仙台を迎える。絶対に負けられない戦いへ。品田と岡庭が共有した「ここから」が、巻き返しを期す千葉の合言葉になる。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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