名門校の双子に明暗…兄と「絶対出たい」 高3で叶った兄弟の夢、心に誓った「揃って選手権」
名門・市立船橋で共闘、ギマラエス兄弟が歩んだ道程
高校サッカーの名門・市立船橋でプレーするギマラエス・ニコラスとギマラエス・ガブリエルは仲の良い双子の兄弟だ。ブラジル人の父とフィリピン人の母を持つ彼らは、CB(センターバック)のガブリエルが兄、GKのニコラスが弟だ。
この2人の間の絆は非常に深い。性格で言うと、強気な弟と温厚な兄。今、2人は同じピッチに立ってプレーすることに大きな幸せを感じている。「ずっと一緒にプレーしたかったんです。本当に今は大事な時間を過ごせていると思います」。こう語るのは兄のガブリエル。彼がそう口にするのには深い理由があった。
ここから物語の主役はガブリエルになる。生まれた時からずっと一緒の2人は、ともにサッカーを始めて小学生までは同じチームでやっていたが、中学生に上がる時に大きな転機が訪れた。兄弟揃って千葉県内の強豪街クラブであるWings U-15のセレクションに参加したが、合格したのは弟のニコラスのみだった。
「悔しかったけど、そんな僕に(こちらも千葉県内の強豪街クラブである)JSC CHIBAが声をかけてくれたので、そこで全力で頑張って、高校はもう一度ニコと一緒にプレーしようと思って意識を高くプレーすることができた」
厳しい現実を突きつけられる形で別々のチームになってしまったが、ガブリエルは再び弟と同じユニフォームを着ることを信じてサッカーに打ち込むことができた。そして3年の月日が過ぎ、市立船橋のセレクションに2人で受けに行った時は、お互い励まし合いながら全力を尽くした。高い評価を受けていたニコラスに対し、ガブリエルも「もう必死でした。練習会では『何がなんでもこのチャンスを掴み取る』という気持ちで臨みました」と背水の陣で臨んだ結果、晴れてともに入学することになった。
高校に入学してもすぐに頭角を表したニコラスに対し、ガブリエルはなかなかトップチームに絡めなかった。それでも2人はU-16フィリピン代表としてU-17アジアカップ2023予選に出場。グループリーグで日本と対戦(0-3の敗戦)するなど、経験を積み上げていった。
高校2年生になると、不動の守護神の座を掴んだ弟に対し、Aチームには絡めるものの、主戦場は弟がプレーするプレミアリーグEASTではなく、Bチームが所属する千葉県1部リーグ。昨年度の選手権も守護神として活躍する弟に対し、兄はメンバーに入ることはできたが、5試合を戦ってベンチ入りできたのは準々決勝の名古屋戦と準決勝の青森山田戦の2試合のみで、いずれも出場はなかった。
不動の地位築く弟に…Bチームの兄は悔しさ見せず「支えたいと思っていた」
弟が試合に出て、自分が出られない悔しさは当然ある。だが、中学時代と同じように彼はこの現実を自分のこととしてきちんと受け止め、かつ弟を心の底から応援し続けていた。
「僕のトップチームでの立場の1つはレギュラーメンバーをサポートすることだったので、チームを支えたいと思っていましたし、なによりニコは一番支えたい人間だった。彼がいいパフォーマンスができるようにしたいと思ったし、実際にいいプレーをしたらめちゃくちゃ褒めていました。それは僕の本心で、僕にとって彼の活躍は嬉しいことなので。支えるべきところは支えて、いざ自分のところにチャンスが来たら掴み取ることをずっと考えていました」
自らの成長、レギュラー獲得に向けて努力する一方で、弟を支え、かつチームの一員として全体に目を配ってやるべきことをやる。心優しいガブリエルならではの心遣いがそこにはあった。
「昨年は何度もニコのプレーに感動することがありました。特に選手権2回戦の帝京長岡戦でのPKストップは本当に痺れましたし、感動しました。普段からニコがしっかりと自分と向き合って努力している姿を知っていたので、それがきちんと形になった瞬間を見たのでなおさら泣けてきましたし、自分もそうなりたいと思って、感動しただけではなく、参考にして自分も自分と向き合おうと改めて強く思えた瞬間でした」
PK戦の末に敗れた準決勝の青森山田戦では泣きじゃくるニコラスに真っ先に駆け寄り、「本当にすごかったぞ、尊敬するぞ」と抱き抱えながら何度も声をかけて寄り添う姿が印象的だった。
そして今年、ガブリエルは得意の空中戦とフィジカルの強さ、フィードの正確性を武器にCBとしてレギュラーの座を手にした。プレミアEASTではなかなか結果が出ずに苦しんだが、インターハイ予選ではニコラスとともに堅守を構築し、決勝では好調の流通経済大柏を倒して優勝。インターハイではベスト8まで勝ち上がった。
「やっぱりうしろにニコがいることが大きくて、安心感が違う」と語るガブリエルに対し、ニコラスもこう笑顔で口にする。
「本当に日に日に良くなっている印象を受けます。競り合いもそうだし、対人もそうだし、見ていて安心感があるし、信頼感もある。悔しい思いもあった中で、本当に凄い選手だと思っています」
お互いを信頼し合い、支え合いながら成長している2人。紆余曲折があったからこそ、今、こうして2人でピッチに立てている喜びと価値はとてつもなく大きなものがある。
「2人揃って選手権のピッチでプレーすることが夢。インターハイではそれが叶ったので、次は選手権。絶対に出たいし、2人でやれるのも残り半年なので悔いのないように過ごしたい」(ニコラス)
「ニコのおかげで僕は頑張れているからこそ、残り半年、本当に大事に過ごしたい。仮にこの先、大学が別々になってもこの絆は一生深まっていくと思います」(ガブリエル)
かけがえのない時間を大切にする気持ちを持って、2人は残り半年間を名門の守備の番人として自覚と絆を持ってプレーする。
(FOOTBALL ZONE編集部)