日本人タレントの欧州移籍“加速”…未来のJリーグで起こり得る「若手&ベテラン」チーム編成【コラム】

今夏欧州への移籍が決まった選手たち【写真:徳原隆元】
今夏欧州への移籍が決まった選手たち【写真:徳原隆元】

即戦力としての欧州移籍が増加、準レギュラークラスでも需要は十分

 海外移籍を前提にチームを離脱――こういうインフォメーションが増えてきた。

 瀬古樹(川崎フロンターレ)、長澤和輝(ベガルタ仙台)が移籍間近と報道されている。伊藤敦樹はすでに浦和レッズからベルギーリーグのヘントへ移籍、大南拓磨(川崎)もルーヴェンへ。この夏も多くの選手が欧州クラブへ移籍しているが、これまでとは少し傾向が変わってきた。

 以前は20歳前後の若い選手が欧州クラブのターゲットだった。Jリーグでの実績がほとんどなくても、才能を評価して獲得していた。次の移籍が決まれば移籍金を取れるからで、一種の投機目的である。

 しかし、現在は即戦力としての獲得が増えている。EFLチャンピオンシップ(イングランド2部)のブラックバーンは大橋祐紀(←サンフレッチェ広島)を獲得。大橋はさっそく連続得点を決めて活躍している。大橋は28歳、転売目的ならこの年齢の選手は獲らない。

 大南、伊藤、瀬古の3人は26歳。J2の仙台所属の長澤は32歳である。

 大橋はチームのエースだったが、瀬古は25試合出場で先発11試合、大南は24試合で先発19試合。レギュラークラスではあるが、不動の中心選手という感じではなかった。コルトレイク(ベルギー)に移籍した高嶺朋樹も柏レイソルで11試合に出場したにすぎない。

 つまりJ1で中心選手として活躍しているなら、確実に欧州クラブのターゲットになる。準レギュラークラスでも欧州クラブからの需要は十分あるということなのだ。それだけ日本人選手の実力が評価されている。移籍金の安さも理由かもしれないが、おそらく以前とは情報の量と質が違ってきていることが大きいのではないか。

 その昔、Jリーグへ売り込みに来る代理人は選手のプレー集を作成していた。ただ、当然のごとく良いプレーだけを集めたビデオテープなので、それだけでは判断できず強化担当者が現地に行って実際に見ないと、なんとも言えない状況だった。ところが、現在はスカウティング用に集積された映像を、料金さえ払えばネット上で誰でもアクセスできるようになった。日本人選手の実力が正当に評価されるようになった背景には、情報の量と質が以前とは全く違っていることが挙げられるだろう。

 選手の供給地として日本はすでに見つけられてしまったわけで、今後も欧州への移籍が加速する可能性がある。ブラジルやアルゼンチンのリーグのように、10代の若手と欧州から戻って来たベテランでチームを編成。働き盛りの中堅層がいないというドーナツ化現象が起きるのかもしれない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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