前人未踏7冠へ、王者レアルの懸念材料 指揮官と記者が指摘「負ける可能性もあった」「疲弊する」【現地発コラム】

レアルはマジョルカ相手に1-1のドロー発信【写真:ロイター】
レアルはマジョルカ相手に1-1のドロー発信【写真:ロイター】

選手の市場価値総額は約20倍も…ラ・リーガ開幕戦は1-1ドローで苦戦

 前人未到の7冠達成を目指すレアル・マドリードだが、今季のラ・リーガ開幕戦では幸先のいいスタートを切ることができなかった。

 今夏、トニ・クロース、ナチョ・フェルナンデス、ホセル、ケパ・アリサバラガが去り、新たにフランス代表FWキリアン・ムバッペとブラジル代表FWエンドリッキを獲得し、スペイン人DFヘスス・バジェホがレンタルから戻ってきた。

 半数以上の選手が欧州選手権(EURO)や南米選手権(コパ・アメリカ)に参加したため、プレシーズンの準備不足やフィジカルコンディションが心配されたが、ムバッペのデビュー戦となった今季最初の公式戦のUEFAスーパーカップでヨーロッパリーグ王者アタランタ(イタリア)を2-0で破り、初タイトルを手に入れた。

 各ポジションにスター選手を擁すレアルは素晴らしい形でシーズンをスタートしたが、ラ・リーガ初戦のマジョルカ戦でさまざまな問題が露呈する。

 カルロ・アンチェロッティ監督は今季、かつて数々の栄光を手にした4-3-3にシステムを戻し、2試合続けて同じスタメンで臨んだ。

 そのメンバーはGKがティボー・クルトワ。DFがダニ・カルバハル、エデル・ミリトン、アントニオ・リュディガー、フェルランド・メンディ。MFはフェデリコ・バルベルデ、オーレリアン・チュアメニ、ジュード・ベリンガム。そしてFWがロドリゴ・ゴエス、エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール。

 選手の市場価値総額では20倍近くの差があるものの、ピッチで見せたサッカーにそこまでの違いはなかった。ボール支配率はレアルが66%と大きく上回ったが、シュート数は13本対12本、枠内シュート数はともに5本と決定機はほぼ互角。さらに終盤メンディが一発レッドカードで退場するという事態が発生し、最終的に1-1で引き分けた。

レアル戦が行われたマジョルカ本拠地エスタディ・マジョルカ・ソン・モイシュの当日の様子【写真:高橋智行】
レアル戦が行われたマジョルカ本拠地エスタディ・マジョルカ・ソン・モイシュの当日の様子【写真:高橋智行】

アンチェロッティ監督が問題点に言及「いい試合ではなかったのは明らかだ」

 欧州王者のいきなりの躓きに地元メディアではさまざまな分析が行われたが、実際に何が問題だったのだろうか?

 攻撃面に関して、注目のムバッペはまだチームにフィットしている段階だ。すでに存在感を発揮し、積極的にチーム最多4本のシュートを打ったが、連係不足は否めない。そして選手たちの特徴的に攻撃が左サイドに偏り、上手く機能しているとは言い難かった。

 さらにロドリゴ、ムバッペ、ヴィニシウスの3トップに加え、ベリンガムが高い位置でプレーしているため、バルベルデとチュアメニへの負担増加が懸念材料となっている。

 スタートのシステムは4-3-3だが、中盤が手薄のチームを二分する4-2-4になる傾向にあり、アンバランスな状態に陥っていた。アンチェロッティは普段冷静だが、マジョルカ戦後の会見では違う様相を見せ、その問題を指摘した。

「スタートは良かったが後半はバランスを欠き、そのせいで負ける可能性もあった。もし守備のバランスを取れなければ、カウンターやクロスを許してしまう。いい試合ではなかったのは明らかだ。その点をもっと改善しなければいけないし、何よりもピッチでバランスを取る必要がある。我々は非常に攻撃的なチームだが、守備のバランスはその重要な要素だ」

 このような事態が起こる原因として、現地ではムバッペ加入とクロース退団が影響していると考えられている。しかし、世界最高峰のストライカーと稀代のゲームメーカーが入れ替わったことを考慮すれば、それは致し方ないことだろう。どうしても攻撃の比重が大きくなるため、攻守のバランスを取るのが難しくなっているのだ。

 そのほかには、後半のプレスが消極的だったことや前線で個人主義のプレーが多かったこと、流れを変えるための交代が遅かったことなどが、レアル苦戦の理由に挙げられる。

スペインラジオ局「カデナ・コペ」でレアル・マドリード番記者を務めるミゲル・アンヘル・ディアス氏【写真:高橋智行】
スペインラジオ局「カデナ・コペ」でレアル・マドリード番記者を務めるミゲル・アンヘル・ディアス氏【写真:高橋智行】

レアル番記者も不安視「大いに疲弊することになるだろう」

 スペインのラジオ局「カデナ・コペ」でレアル・マドリードの番記者を長年務めるミゲル・アンヘル・ディアス氏は、今回の引き分けをまったく不安視していないという。

「今季のマドリーは素晴らしいメンバーを揃え、すべてのタイトルを獲得するという野心的な目標がある。まだシーズンは始まったばかりだ。アンチェロッティは今、システムをしっかり構築しようとしている最中だから、この引き分けを憂慮する必要などまったくない」

 同氏はそれよりも、大会増加による選手たちのフィジカルコンディションを大いに懸念している。なぜなら、レアルは今季、ラ・リーガ、国王杯、スペイン・スーパーカップ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)、クラブワールドカップ、インターコンチネンタルカップ、UEFAスーパーカップの7大会に臨み、すべてに勝ち続けた場合、過去に前例のない最大72試合を戦うことになるからだ。

「今季は試合数が非常に多くなるので難しいかもしれないが、アンチェロッティはもっと出場時間を分配すべきだと思う。ヴィニシウス、ベリンガム、ムバッペなどはアンタッチャブルな存在だが、ブラヒム・ディアスやアルダ・ギュレルなどはより多くの出番を得るに値している。これまで体験したことがない非常に長いシーズンを戦うため、控えの選手たちにも出場時間を与えなければ、選手たちは大いに疲弊することになるだろう」

 まだ公式戦2試合が終わったばかり。前人未到の偉業達成まで、この先に11か月続く長いシーズンが待ち構えている。そのためアンチェロッティはメンバーをフル稼働し、この困難な道のりを一歩一歩乗り越えていかなければならない。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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