スペインに舞い降りた日本人FW レアル戦で評価上昇…番記者が求める「チームの潤滑油」【現地発コラム】
新天地マジョルカでプレシーズンから存在感を放つ浅野、開幕節レアル戦でも先発出場
日本代表FW浅野拓磨のマジョルカ移籍から40日以上が経過し、ついにラ・リーガ(スペイン1部)デビューの日が訪れた。
昨季終了後にボーフム(ドイツ)と契約が満了した浅野のマジョルカ加入が発表されたのは7月6日だった。翌日からチーム練習に参加し、イングランド遠征を含むプレシーズンマッチ全6試合に出場。ハビエル・アギーレの後任を務めるジャゴバ・アラサテ監督の信頼を早々に得て、2戦目からすべてスタメン入りした。
主に4-3-3の右ウイングで起用され、初戦のクルー・アレクサンドラ戦(イングランド4部/3-1)で初アシストを記録すると、2戦目のバーンズリー戦(イングランド3部/1-0)で初得点を挙げた。さらに4戦目のポブレンセ戦(スペイン5部/5-0)では左ウイングでプレーし、FWヴィダド・ムリキの2ゴールをアシストと、新天地で幸先の良いスタートを切った。
圧巻だったのは、エスタディ・マジョルカ・ソン・モッシュで行われたプレシーズン最終戦でのパフォーマンスだろう。攻撃でのポリバレントな能力を存分に示してきた浅野は、加入後初めてホームサポーターを前にして、今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)に出場するボローニャ(イタリア)相手(1-1)に持ち味のスピードを発揮した。
開始直後、ゲームメーカーを務めるMFセルジ・ダルデルの縦パスに反応し、DF裏への抜け出しから胸でボールをコントロール。冷静にGKの動きを見極め、ボールを浮かして頭上を抜き、先制点を記録した。この一連の動作は完璧で美しかった。
このプレーにクラブの地元紙「ディアリオ・デ・マジョルカ」は「わずか前半8分の出来事だったが、このシーンはアラサテ監督が今季見たいと思っているプレーだ」「浅野のようにスピードとインテンシティーの高さが際立つ選手であれば、それも容易になるだろう」と、指揮官にとって理想的な形だったことを強調した。
浅野はプレシーズン6試合出場(先発5試合)、5勝1分、2得点3アシストという好成績で、チームで特に際立つ選手の1人となった。アラサテ監督も当然、このような結果を残した選手をスタメンから外すわけはなく、昨季のラ・リーガ王者との開幕戦でも先発起用した。浅野に対するクラブの期待も大きく、スタジアム併設のオフィシャルショップのショーウインドーには、背番号11の名前入りユニフォームが展示されていた。
マジョルカ監督とスペインメディアが浅野を高評価
対戦相手のレアル・マドリードは今夏、フランス代表FWキリアン・ムバッペと若きブラジル代表FWエンドリッキを加え、ブラジル代表FWのヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴ、イングランド代表MFジュード・ベリンガムなどを擁す世界選抜とも言えるチーム。浅野は世界中が注目するこのビッグマッチで、4-3-3の右ウイングで先発した。スタンドは大入りとなり、クラブカラーの真っ赤に染められた。
前半は劣勢の状況が続き、浅野は守備に追われる時間が長くなったが、ハーフタイム前に決定機が訪れる。ダイアゴナルの動きでDFの背後に走り込んでパスを受けると、2人のDFに囲まれながらボックス内に持ち込み左足でシュート。これは名手ティボー・クルトワに弾かれたが、そのリバウンドからムリキがあと一歩でゴールというところまで迫った。
後半はボールタッチ数を大幅に増やし、存在感を高めていく。自陣からドリブルを仕掛けてカウンターの起点となり、クロスを狙い、中盤でDFアントニオ・リュディガーをかわしてスタンドを沸かす。また、選手交代により途中から左サイドでプレーした。後半27分にベンチに下がる際に沸き起こったスタンディングオーベーションは、浅野が強豪相手に持てる力を出し切った証と言えるだろう。
アラサテ監督は強豪相手に1-1で引き分け、勝ち点1を勝ち取ったあと、「モヒカとタク(浅野)はともに素晴らしい試合をしてくれた。新戦力の2人はとても良かったよ」と満足した様子を示していた。
スペインメディアも浅野を高評価した。クラブの地元紙「ウルティマ・オラ」は「危険な存在」と称したあと、「スピードを発揮し、クルトワに弾かれたシュートはあと一歩のところでムリキのゴールになるとことだった」と評し、2点(最高3点)をつけた。
スペイン紙「AS」も「“徐々に調子を上げていった”。浅野のラ・リーガデビュー戦はこのように総括できるだろう。ハーフタイム直前、ゴールが決まる可能性があったプレーでムリキとともに主役となり、後半72分にラリンと交代した」とそのパフォーマンスをポジティブに捉えていた。
浅野は「レギュラーの座を獲得している選手の1人」
現在レアル・ソシエダでプレーする久保建英が在籍した時代も含め、長年スペインのラジオ局「カデナ・セル」でマジョルカの番記者を務めるアルベルト・エルナンド氏に試合後、加入から1か月強が経過した浅野の印象について話してもらった。
「先発でラ・リーガデビューを飾ったが、すでにジャゴバ・アラサテのシステムにおいて、重要な選手の1人になっている。今夏のプレシーズンを通じて浅野は、縦への推進力や裏への抜け出し、そして得点力と、さまざまなものをチームに提供してきた。さらにパルマ市杯(8月10日)のボローニャ戦で私たちは、彼が素晴らしいテクニックを披露し、ゴラッソを決めるシーンを目撃した」
「ジャゴバ・アラサテがまだスタメンのパズルを完成させられていないなか、彼はレギュラーの座を獲得している選手の1人だ。少なくともプレシーズンやこの開幕戦でそのように感じさせるほど素晴らしいパフォーマンスを発揮してきた。また、今日の試合を振り返ると、前半はチームメイト同様、監督の求めるプレーを正確にこなしながらも控えめだったが、後半は素晴らしいプレーだったと言えるだろう」
アルベルト記者は浅野の開幕スタメンが妥当だと考えつつも、それを維持するためには継続性が必要なことを強調した。
「もちろん、ラ・リーガの厳しい戦い強いられるチームの中でスタメンの座をキープし続けるのは決して容易なことではない。そのためには、今日のような瞬きやフレッシュさを維持することが必要不可欠だ。また、チームの潤滑油となり、ムリキやチームメイトにアシストを供給し続けなければいけない。そして何よりも安定して試合に出続ける必要があるだろう」
レアルとの開幕戦でいきなり見せ場を作り、マジョルカサポーターのハートを掴みつつある浅野はこの後、8月24日にアラサテ監督の古巣オサスナとアウェーで対戦する。欧州王者相手に素晴らしい動きを見せていただけに、初得点を期待せずにはいられない。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。