遅延行為→乱闘騒ぎ…熱き心は“ピッチだけで” J2首位争い混戦、勝負への渇望の置き所【コラム】
【カメラマンの目】第26節を終えて清水はリーグトップへと順位を上げた
8月11日、前節までの成績で首位の座に就いていた横浜FCと3位の好位置をキープしていたV・ファーレン長崎が対決。J2リーグ第26節の試合のなかでもっとも注目された一戦は、最後までゴールが生まれず無得点ドローで決着を見た。対してJ2リーグ優勝を目指すうえで2チームのライバルとなる清水は、ホームで鮮やかに4得点を奪う完勝を飾る。この結果を受けて、清水はリーグトップへと順位を上げた。
結果から見れば重要な一戦で横浜FCは首位の座を明け渡し、長崎は清水の結果次第だったとはいえ、トップに立つための勝ち点を積み重ねることはできなかった。だが、“ピッチ内だけ”の試合内容を評価するならば実に見応えのある90分間だった。
選手たちは、夏場の厳しいコンディションのなかでも、体力のペース配分を心配するよりも勝利を目指す意識が勝ったように、キックオフからアクセル全開で激しいつば競り合いを演じていく。
序盤の主導権を握ったのは長崎。全選手が相手の最深部であるゴールを目指す意識が高く、前掛かりの力強いサッカーを展開する。特にブラジル人トリオが織り成す攻撃は、ドリブルで縦に突破していくだけでなく、横の動きで中央に進出して横浜FCの守備網を切り崩すなど、その果敢に勝負を挑んでいくプレーは多彩だった。
対する試合展開では劣勢となったが、横浜FCの必死のディフェンスはサッカーというスポーツの局面での激しさと、その攻防の面白さを示し、サポーターだけでなく見る人の心を揺さぶった。
横浜FCの強力な守備の中心選手となったのが中盤ではユーリ・ララ。最終ラインではガブリエウとンドカ・ボニフェイスのパワフルなマークが光った。特にンドカの徹底マークで長崎FWの動きを封じるプレーは迫力があった。前半終了間際にはマテウス・ジェズスに単独ドリブルからGKも交わされてシュートを打たれたが、ンドカは懸命にゴールへと戻り、身体を投げ出して、すんでのところでクリアするファインプレーでチームの危機を救った。
横浜FCは攻撃に転じればロングボールを多用し、ゴール前へと次々にハイボールを送り込むカウンターで得点を狙う。ボール捌きの良いMF井上潮音も劣勢の前半では深い位置でプレーし、後方から前線へとボールを供給していた。
そして、後半に入ると横浜FCは運動量で長崎を上回り、試合展開を逆転させる。それまでのカウンターを主体とした突破から波状攻撃へと転じていく。
前半からガッツあるプレーで飛ばしにとばしていたユーリ・ララやンドカは運動量に陰りを見せることなく、攻勢となった後半は守備だけに留まらず積極的に前線にも顔を出して得点へのサポートに奮闘する。攻めに転じたチームを象徴するように、中盤の井上もより前線でプレーするようになり、攻撃に厚みが加わりゴールゲットのチャンスが膨らんだ。
しかし、決定的な場面でのシュートミスが響きゴールを奪えなかった。
横浜FC、長崎ともにゴールネットを揺らすことはできなかったが、今シーズンのJ2を牽引するチーム同士の対戦は、上位対決に相応しい激しい攻防が繰り広げられた好ゲームだった。好調なチームは試合に対する集中力も高く、球際の勝負を激しく争うことに表れていたように精神面での充実も感じられ、そうした勝利への渇望はプレー全般に反映されていた。
そう、試合終盤には遅延行為を巡って両チームの選手とスタッフがぶつかる場面があったが、勝負への熱き心はプレーに込めて“ピッチだけ”で見せればいいのだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。