名門からプロ入りも…五輪と無縁「かすりもしなかった」 屈辱から挽回期す“元静学10番”の現在地【コラム】

ドリブラー古川陽介の現在【写真:徳原隆元】
ドリブラー古川陽介の現在【写真:徳原隆元】

磐田の切り札として存在感発揮…ドリブラーMF古川陽介の現在

 ジュビロ磐田は、8月7日に行われたアルビレックス新潟とのJ1第25節のアウェーゲームで、2-2と引き分けた。前半に2点を奪われたが後半12分に投入されたMF古川陽介の左足クロスからFWジャーメイン良が今シーズン14得点目のとなるゴールを決め1点差に。さらに新加入のFW渡邉りょうをシャドーでジャーメインと並べる、変則型の4-3-3のシステムで攻撃の勢いを増そうとした終盤に、FWマテウス・ペイショットが反則行為とみなされるタックルで退場しまった。

 残り時間を10人で戦うことになった磐田は4-3-2に変形して、前向きな姿勢を崩さずゴールを目指す。その姿勢が実ったのが、後半アディショナルタイムに突入した時間帯だった。ロングボールを右サイドバックのDF西久保駿介がクリアすると、中盤の左でボールを拾った古川が、新潟のプレスを得意のドリブルで外して持ち上がる。さらにディフェンスが来たところで、中央のスペースに下りてきた渡邉に斜めのパスを付ける。前を向いてボールを持った渡邉は、相手ディフェンスの間を狙うジャーメインに見事なスルーパスを通すと、磐田のエースは左足のシュートで、今季15得点目となる劇的な同点ゴールを決めた。

 クロスでのアシスト、そして起点のパスと2得点に絡んだ古川は「相手の右サイドバックの選手が、すごい攻守に渡って運動量を出していたので。そういう出力だと、後半は落ちるなと感じてましたし、自分のところで違いを作ろうというのはみんな共通理解があったと思う」と振り返る。確かに新潟は右サイドバックのDF藤原奏哉が前半からかなり効果的な攻め上がりで、磐田の守備を苦しめていたが、後半になって少しずつ間延びが生じていた。切り札の古川を後半に投入するのは横内昭展監督の定石だが、新潟が相手ということで、明確に狙いを持っていたはずだ。

 1点目は左サイドバックのDF植村洋斗が中寄りに持ち上がり、外側でボールを受けた古川が藤原を縦に突破して、ふわりとしたボールをジャーメインに合わせた。まさに絵に描いたようなクロスからの得点に関してジャーメインは「練習からやっているところに(古川)陽介が上げてくれたので。自分はいいところに入っていって決めるだけでした」と古川に感謝しながら「あいつも1つ数字が残ったと思うので。やっぱりボールをくれる選手にアシストを付けてあげるのが中の人間、FWの仕事の1つだと思います」と語る。

 そこから追い上げムードが高まるなかで、ペイショットの退場で10人となったが、古川は「あの時間はめちゃくちゃ間延びしてきて。相手の中盤も最後、間延びしているところが多々あったので。1つ中に差した時は良い形になることが多い。誰が差すかは場面、場面ですけど、良いポジションを取っている選手がいれば、自ずとああいうチャンスになる」と主張する。そうした前向きなビジョンが生んだ2点目のシーン。古川としては自分でドリブルを続ける選択もあったが、新潟の守備が自分に寄ってくる状況を逆手に取る形で、中央スペースの渡邉、そして前線で構えるジャーメインに残りの仕事を託すことになった。

パリの舞台で戦う同世代の姿をテレビで見届け悔しさ吐露

 6月の東京ヴェルディ戦で、60メートルのドリブルからスーパーゴールを決めて「月間ベストゴール」と「月間最優秀ヤングプレーヤー」をダブル受賞するなど、若手の中でも注目を集める古川だが、ここまで後半に試合の流れを変えるジョーカーの役割が続いている。もちろん目指すのはスタメン定着だ。そのためにも「長い時間出た時に、何回チャンスを演出できるかっていうのは、常々言われてることなので。そこにこだわっていければ、出場時間が長くなってくると思います」と前向きに課題意識を口にした。追いかける流れの中で、攻撃だけではなく守備面でも、必要ならサイドバックの自陣で植村の背後をカバーするなど、献身的な守備が目に付く。地道に、だが着実に成長している証だ。

 年齢的にはパリ五輪世代だが、大岩剛監督が率いたチームに一度も招集されることはなかった。古川も「やっぱり、パリに関しては自分はかすりもしなかったという感触なので。すごい悔しかった」と認めるが、現実から目を背けることなく、テレビで同僚のDF鈴木海音を含む、同世代の選手たちがパリの舞台で戦う姿を見届けた。そして「自分は今から追い越してやろう」という気持ちで、Jリーグがなかった2週間半を過ごしてきた。

「その第一歩じゃないですけど、今日からリスタートして。中断明けで、絶対にスタメン取ってやろうという気持ちではいたので。すごく悔しかった」

 新潟戦でスタメンを勝ち取ることはできなかったが、その思いを後半からのプレーにぶつけたという。名門・静岡学園高時代には10番を背負い逸材として注目を浴びた古川。高卒3年目、21歳となった古川は向上心が高く、感情的な部分もあまり隠さず言葉に表すタイプだが、前向きに自分の課題と向き合うことで成長を続けている。現在18位で、降格圏に沈む磐田を残りの試合で浮上させていくことができるか。ジャーメインを累積警告、ペイショットを退場のペナルティで欠く11日の鹿島アントラーズ戦で「自分が起爆剤となれるように」と意気込む古川に要注目だ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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