レッドブルのJ3大宮買収に思うコト 海外オーナー誕生の変化をファン・サポーターは受け入れられる?【コラム】
レッドブルの参入で他クラブにも海外オーナー所有の可能性が広がる
東日本電信電話株式会社(NTT東日本)は8月6日、大宮アルディージャと大宮アルディージャVENTUSを運営するエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社が発行する全株式を、レッドブル・ゲーエムベーハー/Red Bull GmbHに譲渡する契約を締結した。
レッドブル・ゲーエムベーハーはオーストリアに本社を置き、エナジードリンクのレッドブルを主力商品とする企業で、Jリーグで初めて海外の企業がクラブオーナーになった。
Jクラブの運営で難しいのは、トップチームのみならず下部組織などにコストがかかること。特にJリーグは現在ホームグロウン選手の登録義務を課しており、J1では4名、J2とJ3ではそれぞれ2名が必要となる。そのため下部組織が重要で、クラブ運営の中で無視できない存在になっている。
また、大宮は女子チームも抱えており、そうでないチームに比べてもクラブの運営コストはかかるだろう。レッドブル・ゲーエムベーハーは当然そういう部分も理解したうえで、Jクラブの買収に踏み切ったはずだ。
そして、こうやってレッドブル・ゲーエムベーハーが道を切り開いたことで、ほかのクラブにも海外オーナーが所有するという可能性が広がったと言えるだろう。
数年前、外国人から「Jクラブを所有したい」という話を聞いたことがある。それは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の人だった。彼らがクラブを所有し、選手たちを集めていけば「毎週、日朝戦ができますよ。盛り上がると思いますよ」というのだ。
たしかにもしそういうことが起きれば、普段のJリーグから国際試合の感覚になり、ゲームの厳しさや激しさが増すことだろう。それによって競技レベルが上がるかもしれないし、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に向けていい予行演習になるかもしれない。
海外からの投資を招くならJリーグの主導が不可欠
今のところ外国籍選手枠があって、ピッチに立つ全員が外国籍選手というわけにはいかない……のだが、「提携国」というJリーグがアジアサッカー連盟(AFC)加盟国・アジア地域との国際交流、貢献の推進を目的として指定しているタイ・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・シンガポール・インドネシア・マレーシアについては、国籍を有する選手の登録数、エントリー員数は無制限になっている。
となると、インドネシア人オーナーがJリーグのクラブを買って、インドネシア人プレーヤー11人で試合にエントリーすることもできる。そのチームの監督に、現インドネシア代表の韓国人監督で日本嫌いで知られるシン・テヨン氏が就任すれば(もっともアジアカップで話をした限り、シン・テヨン監督が日本人を憎んでいるということはなかった)、これはもう毎週お祭りくらいの盛り上がりになりそうだ。
いっそのこと、外国人選手のエントリー枠を撤廃し、その代わりに登録できる選手はそのくにの代表チームでの実績が必要などの制限を設ければ、世界各地からJリーグの覇権を奪うべく、いろいろな国の実業家が集ってクラブを買収しては自国選手を送り込み、ますますJリーグが栄えてレベルが上がっていくかもしれない。
もっとも、大きな問題は2つある。
1つは、世界の実業家が「Jクラブを持ちたい」と思うくらいJリーグがビジネスとして成り立つかということだ。Jリーグに投資した見返りが「名誉」というだけでは、決して投資家は動かない。
極端な話、Jリーグの優勝賞金がその年に投資した金額よりも多くなれば、Jクラブを買収して賭けてみようという気になるかもしれない。あるいはJクラブの持つ収益力が投資額よりも上回れば、当然のことながら資金を投下する価値があるとみなされるだろう。
また、Jクラブの存在する地域に何年間か投資を続ければ、見返りになんらかの優遇措置が受けられるということでもいいかもしれない。日本での事業を考えている外国企業ならば一考してくれるだろう。
つまり、Jリーグがしっかりとビジネスとして成り立つというモデルが必要で、それをJリーグがしっかり用意できることが、海外からの投資を招く大きな要素になるはずだ。
そしてもう1つの問題は——こちらのほうが大きいのだが——果たして、今のそのクラブのファン・サポーターが受け入れられる変化になるのかということだ。
「クラブの経営陣が代わりました」「それまで所属していた選手は入れ替えました」「チーム名もマークもカラーもユニフォームもすべて新しくしました」となった時に、果たしてそれまでのファンはクラブをサポートするのだろうか。
その加減が分からない「オーナー」が来ると、必ずハレーションが起きる。海外の投資家がJクラブを買おうとしている時、企業買収と違って「クラブを買ったからとなんでも思いどおりにできるということではない」という点を、Jリーグが投資家に話をすることが必要だ。
ということで、海外からの投資を招こうとするなら、ビジネスモデルを作るのも、投資家についてちゃんとした説明を行うのもJリーグ主導ということになるだろう。Jリーグの舵取りはますます重要性が増しているということは間違いない。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。