理詰めのサッカーは「教科書のよう」 ハマった新助っ人…確信した首位・町田の“対抗馬”【コラム】
【カメラマンの目】激しいなかにもクリーンに争うプレーの応酬は見応え十分
8月7日に行われたJ1リーグ第25節の東京ヴェルディ対サンフレッチェ広島戦は、上空で遠雷が響く、どこか不安になるなかで始まった。キックオフから20分ほどが過ぎると、落雷の危険があると判断され、天候の回復を待つために約1時間半にわたって試合が中断することになる。
ピッチから選手たちが去ると、すぐに叩きつけるような激しい雨がやって来て、味の素スタジアム全体を洗い流していく。そうして再開された試合は、後半33分にDF佐々木翔がゴール前の混戦からネットを揺らし、1-0でアウェーチームの勝利で決着がついた。
長い待機時間があったにもかかわらず、両チームの選手たちは雨によって気温が下がったこともあり、再開後はより活発な動きを見せ、サポーターたちを沸かす一進一退の攻防を展開した。
東京Vの城福浩、広島のミヒャエル・スキッベ両監督の怜悧な洞察力から生まれる、勝利のために持てる戦力の能力を最大限に引き出したサッカーの特徴は、特に守備面に表れている。単独突破となる“点”の攻撃には個人で、そして連携による“面”の崩しには戦術で対応していく、激しいなかにもクリーンに争うプレーの応酬は、なかなか見応えがあった。
ホームゲームで敗れたとはいえ、東京Vはボールを奪ってからの素早いカウンター攻撃で広島ゴールへと迫り、互角の戦いを見せた。ただ、豪雨によってプレーしやすいコンディションになったものの、終盤になると選手たちの足が少し止まってしまう。やや広島にゲームを支配されながらも、効果的な逆襲で得点のチャンスがあっただけに、一瞬の隙を突かれて許してしまった失点が悔やまれた。
対してゴール裏からカメラのファインダーを通して見た広島は、改めて実に機能美に満ちたチームだと感じさせられた。シーズン開幕前のキャンプを取材した際のトレーニングマッチから、広島の堅実さには注目していた。
特定の点取り屋が不在でも全員サッカーで対抗
攻撃に転じてのボール回しは逃げのパスが少なく、ゴールを目指すために相手を揺さぶるプレーにあまり退屈さを感じさせない。次々と繰り出すゴール前へのラストパスとなるセンタリングは、チャンスと見ればハーフェーライン付近からも思い切って蹴ってくる大胆さ。そして、どのポジションの選手たちもゴールを狙うことを強く意識している。堅固な守備と機を見たダイナミックな展開による攻撃を織り交ぜた、理詰めでボールを敵陣へと運びゴールを目指すサッカーは、このスポーツの教科書にも載せられるような手堅さと言える。
ただ、このどこからでも得点できるスタイルは、欲を言えば前線で圧倒的な存在感を放つストライカーに欠けていた。チームに弱点を敢えて探せば、シーズン開幕を前にした戦力比較では、優勝を争うライバルとなると目されていたヴィッセル神戸の大迫勇也や、そして、横浜F・マリノスのアンデルソン・ロペスのような絶対的なストライカーがいないことだった。
シーズンが開幕するとブレイクする大橋祐紀もキャンプの時点では、湘南ベルマーレから移籍してきてまだ日が浅かったためか、チームにまだ馴染んでおらず強烈なインパクトを受けることはなかった。大橋のシーズンが始まってからの活躍は誰もが知るところだが、その広島の得点源を担っていた彼も海外クラブへの挑戦で、今はメンバーリストにその名はない。
前線に強烈な得点源がいることに越したことはない。だが、この対東京V戦で見せた広島のサッカーは、特定の点取り屋が不在でも、シーズン開幕前から感じられたピッチに立つ選手全員でゴールを狙おうとする姿勢がより強くプレーに刻まれていた。
Jリーグデビューとなった新加入のトルガイ・アルスランは、華麗なテクニックで観客を沸かすタイプではないが、早くも中盤の中心選手として攻守のつなぎ役を果たしていた。守備力があり、逆に相手からマークを受けても動じず、ボールを失う場面も少なく安定感がある。まさにダイナモといった感じで、広島が目指す全員サッカーを体現するには適任と言える。
広島のサッカーに派手さはない。しかし、対東京V戦で見せた個人能力と戦術がバランスよくミックスされたスタイルと、選手たちが心の中に秘める勝利への思いから発する勝負強さは、首位を走るFC町田ゼルビアを追撃するチームにふさわしいサッカーだった。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)