パリ五輪→A代表、チャンスは「FW」のみ 小久保、藤田ら期待も…ハードルが高い理由【コラム】
9月からはA代表の最終予選がスタート
パリ五輪準々決勝でスペインに0-3で敗れ、メダル獲得の目標には到達できなかったU-23日本代表。大岩剛監督が「この上はフル代表しかない」と語気を強めたように、選手たちは森保一監督率いる日本代表入りを目指して、それぞれの所属クラブで結果を出すことが重要だ。
8月7日から中断していたJ1が再開し、彼らは新たなスタートを切った。国内組14人のうち、スタメンで試合に出たのは野澤大志ブランドン(FC東京)、西尾隆矢(セレッソ大阪)、鈴木海音(ジュビロ磐田)、藤尾翔太(FC町田ゼルビア)の4人。途中出場は木村誠二(サガン鳥栖)、荒木遼太郎(FC東京)、植中朝日(横浜F・マリノス)の3人だった。
ベンチ入りしていながら予期せぬ雷雨によって試合中止となった浦和レッズの大畑歩夢、柏レイソルの細谷真大、関根大輝のような例もあったが、誰もが「近い将来、A代表に滑り込みたい」という野心を持って取り組んでいたことだろう。
9月からは2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選がスタートする。直近のシリーズは5日の中国戦(埼玉)と10日のバーレーン戦(マナマ)。メンバー発表は8月末と目される。それまで彼らがアピールできるのは天皇杯含めて4試合。今月からは欧州組も新シーズンが始まるため、そちらの状況次第という部分もあるだろうが、しっかりした爪痕を残すことが肝心だ。
ポジション別に見ていくと、GKはこれまでの序列を踏まえると鈴木彩艶(ナポリ)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)、谷晃生(町田)らが有力。ただ、パリ五輪で異彩を放った小久保玲央ブライアン(シント=トロイデン)の抜擢がないとは言えない。
ご存知の通り、彼は今季からベルギーに赴き、新たな環境適応に乗り出したばかり。チームメイトに藤田譲瑠チマと山本理仁がいて、ベンフィカへ行った時に比べるとスムーズに入り込めるだろうが、GKはDF陣との連係・意思疎通が不可欠。それをすぐに確立できるかどうかは今週末以降の動向を見て見なければ分からない。「クラブでコンスタントに試合に出ていること」が森保監督の求める絶対条件だから、まずはそこをクリアすることからすべてが始まると言っていい。
ディフェンス陣だと期待値が高いのは187センチの関根と192センチの高井幸大(川崎フロンターレ)。2人とも高さと強さを兼ね備えていて、ポテンシャルは折り紙付きだ。しかし、右サイドバック(SB)は菅原由勢(サウサンプトン)を筆頭に、橋岡大樹(ルートン・タウン)、毎熊晟矢(AZアルクマール)らがひしめいており、国内組の関根がいきなり割って入れるかは未知数だ。
センターバック(CB)にしても、板倉滉(ボルシアMG)、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)、谷口彰悟(シント=トロイデン)がいて、なかなかハードルが高い。ただ、今は冨安健洋(アーセナル)と伊藤洋輝(バイエルン)が負傷離脱中で、9月2連戦に間に合うかどうか微妙なところ。それでも1~2月のアジアカップ(カタール)に参戦していた渡辺剛(ヘント)もいるだけに、いきなり19歳の高井を呼ぶかどうかは判断が分かれるところ。
森保監督がかつての岡田武史監督(今治会長)のようなチャレンジングな一面を見せてくれれば、ひょっとすればひょっとするかもしれない。伊藤洋輝の怪我で人材難になっている左SBに関しても、場合によっては大畑の急浮上がないとも言えないため、動向が注視されるところだ。
ボランチは遠藤航(リバプール)、守田英正(スポルティング)、田中碧(デュッセルドルフ)の3枚は確定しているため、もう1枚をどうするかという判断になる。期待度の高かった川村拓夢(ザルツブルク)が負傷中、佐野海舟(マインツ)もさまざまな事情で招集は難しい。
となれば、藤田が一気にメンバー入りということも考えられる。もともと藤田は2022年E-1選手権で代表入りしており、韓国戦で強烈なインパクトを残している。統率力やリーダーシップという部分を踏まえても入れていい人材ではある。ただ、彼もまだ今季公式戦に出ていないため、ここからのパフォーマンスによるところが大。鎌田大地(クリスタルパレス)の定位置がボランチ中心ということになると、藤田は厳しくなるかもしれないが、いずれにしても、早くクラブで地位を固めてほしい。
唯一チャンスがあるのはFW陣か
2列目アタッカー陣は三笘薫(ブライトン)や旗手怜央(セルティック)、堂安律(フライブルク)ら東京五輪世代がひしめき、さらには伊東純也(スタッド・ランス)の招集もゴーサインが出る可能性が高まったため、久保建英(レアル・ソシエダ)以外のパリ世代が入り込むスキは見出せそうもない。斉藤光毅(ロンメル)にしてもまだ移籍先が決まっていないし、平河悠(ブリストル)も怪我と上に行きそうな選手たちはいても、まだ時間はかかりそうだ。
その点、FWは少しチャンスがある。というのも、小川航基(NECナイメンヘン)が怪我でプレシーズンのキャンプを十分にこなせなかったという情報が入っているからだ。軸を担うのは上田綺世(フェイエノールト)、浅野拓磨(マジョルカ)らだと見られるが、それ以外の面々は混とんとしている。今季から欧州5大リーグデビューを果たす町野修斗(キール)、イングランド2部に身を投じた大橋祐紀(ブラックバーン)あたりがブレイクすれば、そこに割って入ってくる可能性もあるが、今のところは未知数。
となれば、パリ五輪でインパクトを残した細谷を呼んで育てた方がいいという考え方もある。実際、細谷は強豪スペインと対峙しても全く動じることなくプレー。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で得点が取り消された「細谷の1ミリ」を見ても分かる通り、世界基準の相手を背負っても確実にタメを作り、フィニッシュまで持ち込める力をつけているのだ。
森保監督にしてみれば、アジアカップで結果を出せなかった印象が強いのかもしれないが、先々を考えると20代前半のFWを最終予選に入れて、育てていくことは日本サッカー界にとってプラスになる。上田綺世にも可愛がられていて、一緒に切磋琢磨できる関係性も細谷にとってのアドバンテージ。そのあたりも加味しながら、判断してほしいものである。
いずれにしても、パリ五輪世代が最終予選の代表に何人入ってくるかが今後のチームの可能性を大きく左右する。若い世代の押し上げがないとチームは停滞しかねない。本番の時に下降線を辿るといった最悪の展開にならないとも限らないのだ。
実際、2006年ドイツW杯、2014年ブラジルW杯で日本サッカー界はそういう失敗を犯している。日本人指揮官の森保監督は過去の教訓を生かすべき。パリ世代の台頭に期待を寄せつつ、ここからの代表をしっかりと見極めていきたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。