一度は五輪落選も…逃さなかった“チャンス” 大舞台で垣間見えた「楽しそうな姿」【現地発】
守屋都弥がブラジル戦で見せた“自分の色”
「すごく楽しいです!」――。
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なでしこジャパン(日本女子代表)DF守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)の言葉は強がりではない。本来、右サイドを主戦場とする守屋だが、MF遠藤純(エンジェル・シティFC)の長期離脱により、左サイドの選手層が薄く、4月のShebelievs Cupで急遽左サイドを担った。ほぼ触って来なかったポジションでも「そこ(左サイド)で可能性を期待されているのは嬉しい」と果敢に挑戦してきた。しかし、左サイドに入るのは代表だけ。3か月半でできることは限られていたが、それでもクロスは必死に練習した。
そして迎えたパリ・オリンピックメンバー発表の際、守屋の名前はバックアップメンバーとして記されていた。そんな守屋に朗報が舞い込んだのは、フランス入りしてからのことだ。怪我人が出た場合、バックアップメンバーを含めてスタメンを選ぶことができ、また回復時には負傷した選手が戻ることも可能、とかなりルールが緩和されたのだ。急遽オリンピックのピッチに立つチャンスが生まれた。「自分にとってとても大きいことでした」と、さらに左足のクロスの練習に励む。
DF清水梨紗(マンチェスター・シティ)の離脱、DF北川ひかる(INAC神戸レオネッサ)、MF林穂之香(無所属)の怪我というアクシデントのため、グループリーグ第2戦でそのチャンスが巡ってきた。任されたのはやはり左サイド。ブラジルに攻め込まれる展開のなか、左サイドをエグろうとする守屋。ついにはスルスルとボールを持って中央に侵入していくと、思わず相手が強引に止める。このプレーで日本はPKを獲得した。
「行ってやろう! とかではなかったんです。あれ? あれ? 行けちゃうよ? って感じで(笑)」
それでも、中央まで持ち込む思い切りの良さがなければ生まれなかったプレーだ。練習してきたクロスボールも入れる。
「都弥みたいに代わって入った選手の特長も生かす攻撃を見せることができた」と長谷川唯(マンチェスター・シティ)も守屋投入による効果を認めるほど、守屋の色がハッキリと映し出された試合になった。
ナイジェリア戦のアシストで努力が結実
後半35分でピッチを後にした。その際、スタンドからも「お疲れさま!」と日本ファンから声がかかる。その声に応える様子から、納得のいくプレーができたのかと思いきや、「自分的にはやり切ってない」と言う。
左サイドでの攻撃に対してなかなかイメージ通りの形が作れないことをなんとか改善したいとパス、ポジショニング、抜け出すタイミングなど工夫をしてきた。ようやくその形が見えてきた。けれど守屋には譲れない矜持があるのだ。
「やっぱり点を獲ることが一番なんです。攻撃の形を作れても、中央まで持ち込んでも、得点につながっていなければ“やり切った”とは思えない。点につながったプレーができて初めて、自分なりの“評価”になるんです」
これは代表の時だけでなく、どんな時でも彼女の指針になっている。この得点へのこだわりが実を結ぶ時がやってきた。
決勝トーナメント進出をかけたナイジェリア戦で守屋は本職の右サイドでのスタメンを勝ち取った。ナイジェリアもしぶとく球際を攻めてくるが、ここでも守屋は右サイドを切り裂いていた。ふいに、ボールを楽しそうに追う守屋の表情が見えた。いろいろな引き出しが一気に開いたかのように、ピッチで表現したいことがあふれているようだ。
そんな守屋がついにゴールに絡む。FW植木理子(ウェストハム・ユナイテッド)のヘディングにピタリと合わせるクロスを供給。植木のシュートはバーを叩くが、そのこぼれをFW田中美南(ユタ・ロイヤルズ)が前の試合の絶不調を払拭するゴールを決めた。「(代表)は周りからパスが出てくるので、動き出しを気を付けている」という守屋を的確に走らせた田中もさすが。この一連の流れは世界でも戦える“サイド攻撃”になっていきそうだ。
その証明として準々決勝のアメリカ戦はうってつけだ。守屋はもう“ゴールに絡む”だけでは物足りなくなっている。自らが“決める”ことで、自分を評価する。そんな姿が見られる準々決勝であってほしい。
(早草紀子 / Noriko Hayakusa)
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。