町田は「決して強くない」 伊東所属の仏1部ランス戦で見えた”がっぷり四つ”勝負での弱さ【コラム】
相手に圧倒されたスタッド・ランスとの親善試合
J1リーグ首位を走るFC町田ゼルビアは7月31日、フランス1部リーグ・アンのスタッド・ランスと「町田シティカップ2024」で戦い、0-2の敗戦を喫した。
試合前の大雨でピッチにはあちこちに水たまりができ、人力による排水作業でキックオフは30分遅れた。フィールドにはいつもの緑が広がったかに思えたが、実際はボールが水分を含んだ芝にスピードを奪われてパスミスが生まれ、ストップやターンはいつもよりも気をつけなければいけない様子が見て取れた。
町田の先発メンバーは、谷晃生、望月ヘンリー海輝、ドレシェヴィッチ、昌子源、杉岡大暉、ナ・サンホ、下田北斗、仙頭啓矢、芦部晃生、オ・セフン、ミッチェル・デューク。リーグ戦と言ってもおかしくない選手が揃っていた。
スタッド・ランスは7月24日のジュビロ磐田戦では1-1の引き分け、7月27日の清水エスパルス戦では0-3とまだ勝ち星がなかった。その相手に対して、Jリーグ首位の町田が攻め込むかに思われたが、試合はまるで違った方向に進んだ。
開始2分には右サイドバックの19歳、191センチのアブドゥル・コネがいきなり自陣から町田のゴールラインまで攻め込んだ。伊東純也もアブドゥル・コネを上手く使って右サイドを崩すと、自らも右のアウトサイドだけではなく中盤の中央やインサイドの位置に入り込んで町田の守備を混乱させる。
スタッド・ランスの選手はボールを持った時、激しくチャージされてもボールを失わない。さらにスピードでは町田を圧倒し、抜かれそうになった選手が抱きついて止めようとしても意に介さず振りほどいて突破して行く。
先制点は前半29分、町田の左サイドを伊東に突破され、クロスを1トップのウマル・ディアキテが上手く合わせたもの。2点目は9人を交代して連係が薄くなった後半33分、中央を割られてこちらもアミン・サラマが流し込んだ。
個人のスピードとフィジカルの差は顕著
前半の町田にチャンスはほぼなかった。後半になると望月や藤本一輝のミドルシュート、右サイドから切り込んだ高崎天史郎からの折り返しを藤本が合わせた場面を作ったが、コンビネーションで崩した場面はほぼなかった。
もちろん親善試合、しかも足元が悪いということでお互いに怪我を避けるプレーに徹した。だが、「リカバリーもしてない」「普通に試合前日にめちゃくちゃ練習します」(ともに伊東)というスタッド・ランスに対して、町田はがっぷり四つを狙ったものの歯が立たなかった。
何より目立ったのは個人のスピードとフィジカルの差。1対1で後手に回り、ボールコントロールやパスが少しでも乱れると詰められて次のミスが生まれる。それでも谷や福井光輝の好守でピンチをしのいでいたが、すべては防ぎ切れなかった。Jリーグの首位とはいえ、町田は「決して強くない」と思わせられる一戦だった。
だが、翻って今年のJリーグでの戦いを考えたなかで、町田が相手チームよりも常にスピードやフィジカルで上回ったことはあっただろうか。そして、どこのチームにもいる「一人で試合をひっくり返す」力のある選手は、エリキがまだ本来のコンディションに戻っていない現在、町田には見当たらない。
現役日本代表の相馬勇紀が新加入して戦力を整えたが、それまで日本代表に選ばれているのは谷1人だけ。その谷の好セーブでいくつものゲームを救ってきたのだ。ギリギリの勝負も多かった。
そう考えると、町田がなぜここまで首位でいられたかという要因がハッキリ浮かび上がってくる。
黒田監督が連敗を恐れる理由はガタガタと崩れる弱さがあるのを理解したがゆえか
まず挙げなければいけないのは、分析力の高さだ。相手チームを個人レベルの特徴までしっかりと把握して、それを戦い方に落とし込んでいる。しかも、その戦い方も単純化されていて選手が覚えやすい。加えて「勝つ」という目的意識が非常に明確で、「勝つためのプレー」ではないことは徹底的に排除されている。
そして何より、チームプレーに徹していること。どこでなんのプレーが起きたにしても、すべての選手が次の局面に対応するべく動き始める。その献身性ゆえに、相手の素晴らしいプレーヤーに誰かが剥がされても、次々にほかの選手がカバーに現れ、数で封じ込めることができたのだ。
詰まるところ、町田は決して強くない。そして、その強くないということを知っているからこそ、勝ち続けている。黒田剛監督が連敗を恐れるのも、そこからガタガタと崩れる弱さがあるのを知っているからだろう。
もしもスタッド・ランス戦が公式戦なら、町田はもっと徹底して勝利のためだけにプレーしただろう。だが、敢えてスタッド・ランスには正面からぶつかった。そして自分たちの「弱さ」を再確認した。
7月20日のJ1第24節横浜F・マリノス戦に1-2の敗戦を喫しても幸運なことに2位と勝ち点5差を維持できた。さらにこの中断期間に新戦力を補強した。これで気の弛みが生じてもおかしくなかったのだ。だが、このスタッド・ランス戦に敗戦したことでもう一度自分たちの立ち位置を確認できたのではないだろうか。
「町田シティカップ2024」を観戦した人は、途中で豪雨に見舞われ、スタジアムの照明もそのせいで停電を繰り返し、さらにキックオフが30分遅れたことで帰宅も大変になっただろう。
だが町田のファンには、中断後に向けてチームが気を引き締め直す「時」を目撃するいい経験になっただろう。そしてこの日とても多かった伊東や中村敬斗のファンにとっても、元気な2人の姿を見ることができたいい試合だったに違いない。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。