4か月で立場“一変”…代表経験なし→本大会へ シンデレラボーイ明かす五輪で泣き崩れた理由

東京五輪に出場した当時の林大地【写真:Getty Images】
東京五輪に出場した当時の林大地【写真:Getty Images】

【2021年東京五輪|4位】林大地「『メダルがほしい』と本当に思っていた」

 異例ずくめの東京五輪。自国開催でA代表と兼任した森保一監督が率い、優勝を目指した。だが、2020年は新型コロナウイルス禍で延期が決定。24歳以下で臨んだチームではFW林大地にもチャンスが回って来た。追加招集から始まり、バックアップメンバー入りも本大会5試合に出場した。“持っている男”が本大会で見たものは――。今夏、ガンバ大阪へ加入したFW林大地は日本を牽引するオーバーエイジ(OA)の姿に感銘を受けたと明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 突然、大きな目標となった。年代別の経験がなかった林は2021年3月に行われた親善試合U-24アルゼンチン代表戦でエースMF堂安律に代わって追加招集された。2020年に開催される予定だった東京五輪は新型コロナウイルスの影響を受けて異例の延期。再び“五輪イヤー”としてスタートを切る一戦で初めて林は代表へ合流した。

 自国開催で堂安やDF冨安健洋はすでにA代表の主力、MF久保建英やMF三笘薫らタレントが勢揃いしている世代だ。林はプロ1年目の20年に鳥栖で31試合に出場して9ゴール。特別指定選手だった19年のJリーグデビューを経て、いきなりチーム得点王に輝く鮮烈なシーズンを送り、注目度を高めた。そんな活躍があっての東京五輪世代への初招集だった。

 G大阪ジュニアユースの後輩、堂安に代わっての追加招集というのも何かの縁。初めての“代表”では「ちょっと後から来た……みたいなところはあるんかな?」そんな不安もよぎった。だが、実際に合流すると想像していた世界と全く違った。

「森保さんは試合での評価をきちんとしてくれていた。戦力として迎え入れてくれて、競い合わせてくれているなというのをすぐに感じることができた。そこからは毎日必至やっていくだけだった」

 1年延期になったことで出番が回って来た。U-24アルゼンチン戦では2戦目でゴールをマーク。「何とか次につなげないと」。東京五輪で優勝を目指していたチームの激しいサバイバルに生き残る。これは林の具体的な目標となった。

「森保さんには『チームで良いパフォーマンスを続けてくれ』と言われて。みんな本当にうまくてすごく楽しかった。このチームでやりたいと思った」

 本大会、林はバックアップメンバーに選出された。それでも、ルール変更によりベンチ入りが可能に。FW上田綺世やFW前田大然らのコンディション不良もあり、初戦の南アフリカ戦、第2戦のメキシコ戦で先発のピッチに立った。突如現れた“シンデレラボーイ”は五輪出場への階段を一気に駆け上った。

 約4か月で立場は一変。「初めての国際大会、出たいのはもちろんだったんですけど、『メダルがほしい』と本当に思っていたんですよね」。具体的にそう感じられたのはオーバーエイジ(OA)でチームに参加していたDF吉田麻也の言葉があったからだと言う。

「麻也さんが言っていたんです。『オリンピアンはたくさんいるけど、メダリストは少ない。だからメダリストになろうぜ』と。そんなこと考えたことなかったけど、そう言われてみればほんまにそうやな、と。いろんな人にメダルを見せてあげたいと本気で思えるようになった」

 勝てばメダル獲得が決まる準決勝のスペイン戦。林は堂安や久保、吉田らとともに先発のピッチに立ったが、強豪のゴールを割ることはできず。死闘は延長に突入。延長後半10分、FWマルコ・アセンシオに決められて無情にも0-1で敗れることとなった。

 ピッチでぼう然とする仲間たち。だが、メダルへの挑戦は終わっていない。「本当に悔しい負けやったけど、誰ひとりとして下を向いていなかったと思う。『まだ、ある』と声かけあって『絶対メダルを取ろう』と切り替えていた」。なぜなら、「メダリストになろう」という吉田の言葉に全員が突き動かされていたからだ。

「僕は本大会ギリギリで入って立ち上げ当初から参加していなかった。ほとんど初めてやったんです。代表で引っ張っていく存在の人が五輪チームで目の前で見せてくれたキャプテンシーにものすごく影響を受けましたね。近くで感じたことがなかった。その背中にかなり刺激を受けたし、だからこそ本当に(3位決定戦の)メキシコ戦の負けが悔しかった。泣き崩れるほどの悔しさだった」

 今回のパリ五輪ではOAなしで臨んでいる。同世代だからこその一体感、最終予選を戦ってきたチームの完成度は高い。ここまでの快進撃もOAがいたら結果が変わっていたかもしれない。

 一方で林が経験した東京五輪では「OAがいて本当に良かった」という。

「麻也さんは3回目、(酒井)宏樹くん、(遠藤)航くんも2回目で1度味わった五輪の経験からメダルへの意欲がすごく伝わって来た。その思いがチームに伝染していたと思う。OAの思いを感じることができたからこそ、僕も『やっぱり欧州に出てもがき苦しむべきだ、行かなあかん』と思いましたね」

 五輪の前に決定していたシント=トロイデン移籍に改めて気合いが入った。林のキャリアを変えた東京五輪。今でも吉田の言葉は胸に響いている。

[PROFILE]
林大地(はやし・だいち)/1997年生まれ、大阪府箕面市出身。ガンバ大阪のジュニアユース出身だが、ユースに昇格できず履正社高校へ進学。高校2年、3年で全国工サッカー選手権に出場し、計3ゴールを挙げた。大阪体育大学を経て、サガン鳥栖でプロデビュー。2021年夏にベルギー1部シント=トロイデンへ移籍、2023年からドイツ2部ニュルンベルクへ。今年夏にG大阪への“復帰”が実現した。東京五輪代表として5試合に出場。2022年には日本代表にも選出された。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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