両翼並べば「相手も迷う」 なでしこに揃った鋭い“武器”、OG岩清水も期待の復活レフティー【見解】
【専門家の目|岩清水梓】ナイジェリア戦の大事な場面で北川ひかるが美しいフリーキックを沈める
なでしこジャパン(日本女子代表)は現地時間7月31日にパリ五輪のグループリーグ最終戦でナイジェリア代表と対戦し3-1の勝利を収めた。2008年北京五輪と12年ロンドン五輪に出場し、11年の女子ワールドカップ(W杯)優勝メンバーでもある元代表DF岩清水梓は、左サイドに復帰してフリーキックでのゴールも決めたDF北川ひかるについて「なでしこにとって新しい飛び道具になる」と今後への期待も込めた。(取材・構成=轡田哲朗)
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鮮やかな曲線が描かれた。日本が2点を先行するも1点を返されて迎えた前半アディショナルタイム、中央やや右サイドで得たフリーキックのポジションにMF長谷川唯と北川が立つ。北川の左足から放たれたキックは壁の上を超えて曲がりながらゴール右サイドのギリギリに吸い込まれた。7月13日の壮行試合となった国際親善試合ガーナ戦で負傷していた北川は、これが復帰戦で五輪初出場のピッチだった。
岩清水はこのゴールについて「最高でしたね、本当に綺麗だった」と弾道の美しさも称賛し、「2-1にされた失点後だったし、ナイジェリアにとってショックを受けるものだったと思う。あの1点は精神的に大きかった。もし、あのままハーフタイムならナイジェリアも『後半、いくぞ』となっていたと思う」と、試合展開の上でも効果的なものだったと指摘した。
また、負傷で第2戦と第3戦の出場が見送られた藤野あおばも、初戦スペイン戦で鮮やかな右足フリーキックを決めている。岩清水は「あおばが戻ってきて、(ポイントに)2人が立っていたら相手もどちらが蹴るのかと迷うのではないか」と、左右両足のキッカーがそろう場面にも期待を込めた。
試合全体を見たプレー内容としても、組み立てから攻撃の最終局面まで躍動した。岩清水は「左足でオープンに持てるし、ビルドアップが安定しているのでゲームにも落ち着きが出た。クロスも左利きならではのプレーで、右利きの選手だと切り返して上げることで遅れたり、(逆足で)精度が落ちてしまったりすることが多い。左に北川選手、右に守屋(都弥)選手と、所属チームでもやり慣れている2人で、高い位置を取ることで相手を押し込んで下げさせることによる優位性も取れた。実際に、北川選手のクロスに守屋選手が入ってPKになりそうな場面もあり、逆サイドからクロスに入ってくる枚数も増やせているのではないか」と、同じ3バックを採用しているINAC神戸レオネッサの両翼が入ることによる相乗効果があると分析した。
岩清水は初戦を終えた時点で、北川の復帰を「心待ちにしている状態」と話していた。左サイドのスペシャリストが復帰してきたことで、現地時間8月3日にアメリカと対戦する準々決勝に向け日本は両サイドとも万全の体勢が整ってきたと言えそうだ。
[PROFILE]
岩清水梓(いわしみず・あずさ)/1986生まれ、岩手県出身。2001年に日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)でリーグ戦デビュー。なでしこジャパンには06年に初選出され、女子W杯メンバーに3度、五輪メンバーには2度選ばれ、11年W杯の優勝を経験した。20年3月に第一子を出産し、“ママさん戦士”として現役を続ける。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)