「痛快」だった世間の“手のひら返し” ベスト4のロンドン五輪、選手を奮起させた低評価への反骨心

大津祐樹ら選手がモチベーションにした下馬評の低さ【写真:Getty Images】
大津祐樹ら選手がモチベーションにした下馬評の低さ【写真:Getty Images】

【2012年ロンドン五輪|ベスト4敗退】大津祐樹ら選手がモチベーションにした下馬評の低さ

 4年に一度、オリンピックが来るたびに自身が出場した2012年のロンドン大会と照らし合わせるように見るという元日本代表FW大津祐樹氏は、当時について「チームとしてすごくまとまって戦えた大会ではあったので、楽しかった思い出しかないですね」と、振り返る。(取材・文=河合 拓)

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 海外でプレーする選手や移籍をする選手が増えたこともあり、今回のパリ五輪にはオーバーエイジだけでなく、23歳以下のA代表経験者であるMF久保建英、MF鈴木唯人、GK鈴木彩艶といった選手たちについても選出できなかったとされている。そうした背景もあって決して前評判は高くなかったが、12年前、結果的にベスト4入りしたロンドン五輪の際に共通するものを感じると大津は言う。

「僕たちの時も、世間の評判はすごく低かったので、めちゃくちゃ悔しかったですよ。『絶対にこれを見返してやろうね』と言っていましたし、それが僕らをまとめる要因にもなりました。今回もそれに少し近いと思うので、常にマイナスのエネルギーをプラスのエネルギーに変えられるように大会に臨んでもらうことが、すごく大事じゃないかなと思います」

 選手たちが自由時間を過ごせるリラックスルームには、当時は新聞が置かれていたという。自分たちに関わる記事は決してポジティブなものではなかったが、それをモチベーションに奮起していたのだ。

「新聞が置いてあると、どうしても気になって見ていましたね。それでみんなでネタのようにして『全部、いい情報に書き換えてやろうぜ!』って言っていました。(グループリーグ)初戦のスペイン戦に勝った時は、見返せたという思いもありましたし、実際に新聞の記事もいい内容に変わっていったので痛快でしたね。それでも過信することはなくて、『これは俺たちが結果を出せたから変えられたんだ。もっともっといい内容にしていこう』と、さらなるモチベーションにしていました」

メキシコ戦でミスした扇原の元を訪れて伝えた「お前のせいじゃないぞ」の言葉

 そうした反骨心を生ませてくれた状況は、決して悪くなかったと大津は振り返る。

「そのパワーがあったからこそ、僕たちはベスト4まで行けたと思いますし、メディアの情報って大事だなと思いました。そういう風に書いてもらうことで自分たちの力になりましたからね。あそこで褒められてばかりだったら、もしかしたら自分たちは天狗になって試合に挑んで結果は出ていなかったかもしれません。そういう意味ではメディアには感謝しています」

 今回のパリ五輪、日本代表は参加16か国のなかで唯一、オーバーエイジ枠を使っていない。だが、ロンドン五輪の時にはDF吉田麻也とDF徳永悠平という2人のオーバーエイジが加わっていた。彼ら2人がチームに与えた影響について、「いい人たちだし、能力としても、チームに加わっていただけたことでチームが底上げできたなとメンタル面でも、プレー面でも、プラスしかありませんでした」と、その大きさを実感していた大津氏は「オーバーエイジは必要だなと思っていました」と言う。

 だが、「それも結果論なので。オーバーエイジがいないからダメかというと、そんなこともありません。若い世代でやりきるので『僕らだけでもできるんだ』とチームがまとまってくれたらプラスに働くと思います。もしかしたら23歳以下で臨んでいたらロンドンで金メダルを獲れていたかもしれませんからね」と、予選を戦ってきた同年代の選手たちだけで戦えるメリットも指摘した。

 ロンドン五輪の時、大津は23歳以下の選手だったがチームメイトたちの様子に気を配っていた。こんなエピソードが残っている。準決勝のメキシコ戦、日本は大津のゴールで先制したが、1-1に追い付かれたなかでミスが出てしまう。MF扇原貴宏がボールを奪われてミドルシュートを決められた。さらに1点を許した日本は1-3で敗れてしまった。この試合後、大津は扇原の部屋を訪ねて声をかけたという。

「タカ(扇原)がボールを取られて失点してしまったことで、アイツはすごく責任を感じていました。年齢的にも彼は2つ下だったので特に気にしていました。でも、誰がボールを取られようが、負けている試合は負けていると思っているし、誰か1人の責任で負けたみたいなのは、あれだけいいチームだったからこそ、そういうのは嫌だなと思って、本人のところにも行って『お前のせいじゃないぞ』という話をしたのは覚えています」

 大津は普段からチームメイトの様子に気を配るタイプだったが、同年代の選手で戦うパリ五輪はそうした選手の存在も重要になるだろう。

「僕自身、オーバーエイジではなかったですけど、そういう声かけは別に誰がやってもいいと個人的には思っています。先日、藤田(譲瑠チマ)選手と話をする機会があったんですけど、『短い大会であればあるほど、試合に出られなくて腐ってしまう選手が出てしまうことがある。そういう選手のサポートできるくらいにチームを見ておくのは、すごく大事なことだよ』という話はしました。チームとして戦うには、絶対にそういう人がいないとバランスが取れないので大事になってくると思います」

大津が期待する選手は藤田、斉藤、平河、細谷の4人

 今大会は特に大会直前にFIFA(国際サッカー連盟)がレギュレーションを変更したことで、現地入りする予定のなかったバックアップメンバーを含め、22人で戦う形となった。「チームとして戦うことができないと、上には行けない。全員の力が必要だと思います」と、さらに周囲に気を配る選手が重要になると大津は語った。

 キャプテンマークを巻く藤田には、特にその役割が期待されるが、大津は「すごく気を配っているなというのはありますし、自信を持っているなというのも感じました。活躍してくれる気がします」と、藤田と話して抱いた印象を明かした。

 そんな藤田の中盤における活躍もあり、大岩ジャパンは大会初戦でパラグアイに5-0と快勝した。大津は、藤田に加え「斉藤光毅選手、平河悠選手の両ウイング。それにストライカーの細谷(真大)選手も、どれだけ点を取れるか期待したいです。多くの選手に注目していますが、特にこの4人は注目しています」と、パリでの活躍に期待を寄せていた。

(文中敬称略)

[PROFILE]
大津祐樹(おおつ・ゆうき)/1990年3月24日生まれ、茨城県出身。180センチ・73キロ。成立学園高―柏―ボルシアMG(ドイツ)―VVVフェンロ(オランダ)―柏―横浜FM―磐田。J1通算192試合13得点、J2通算60試合7得点。日本代表通算2試合0得点。フットサル仕込みのトリッキーな足技や華麗なプレーだけでなく、人間味あふれるキャラで愛されたアタッカー。2012年のロンドン五輪では初戦のスペイン戦で決勝ゴールを挙げるなど、チームのベスト4に大きく貢献した。23年シーズン限りで現役を引退し、大学生のキャリア支援・イベント開催・備品支援・社会人チームとの提携・留学などを行う株式会社「ASSIST」の代表取締役社長を務める。

(河合 拓 / Taku Kawai)

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