飛躍の23歳守護神は「プロになれなかったと思う」 高2まで試合出られず…誰も信じぬ才能が開花した訳【インタビュー】
GKの育成に必要な「クラブの理解」…小久保玲央ブライアンを成長させた柏の“土壌”
パリ五輪を戦う男子サッカーのU-23日本代表はグループリーグで3連勝を飾り、D組首位で決勝トーナメントへ進出した。ここまで3試合連続無失点の堅守を支えているのが守護神のGK小久保玲央ブライアン(シント=トロイデン/ベルギー)だ。そしてファインセーブ連発で日本を救っているこの23歳の才能を柏レイソル時代に発掘したのがGKコーチの松本拓也氏。フィールドプレーヤーだった小久保の“ポテンシャル”に着目し、GKとしての成功を信じて指導し続けた。「彼は柏レイソルじゃなかったら、プロにはなれなかったと思います」。その言葉の真意に迫る。(取材・文=石川遼)
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千葉県出身の小久保はFC柏エフォートから柏レイソルのユースを経て、18歳となった2019年1月にポルトガルの名門ベンフィカに移籍した。今夏には日本代表GK鈴木彩艶(パルマ)の後釜としてベルギーのシント=トロイデンへ加入。現在開催中のパリ五輪でも正守護神として活躍している。
そんな小久保がGKを志すきっかけが松本氏の存在だ。当時、柏レイソルアカデミーのGKコーチをしていた松本氏は、当時小学5年生だった小久保少年に出会い、身長190センチの父親と178センチの母親を両親に持つ小久保の肉体のポテンシャルに“一目ぼれ”。フィールドプレーヤーだった小久保をGKとしてスカウトした。
ただ小久保はすぐにGKへと完全に転向したわけではなく、GKの練習は水曜日の週1回。所属チームではフィールドプレーヤーとして足もとの技術を伸ばしながら、GKの基礎を柏レイソルで学んだ。試合に出場したこともない小久保だが、将来性を買われてGKとして県選抜の練習にも呼ばれるようになり、本人もGKをやる覚悟が固まっていった。
松本氏は「柏レイソルはとにかく育成にしっかりと目を向けようという方針を持っていました。そういった理解があるクラブの環境があったからこそ、今の小久保選手があると思います」と話す。目に見える成長を感じられずなかなか評価されない時期もあったなかで、松本氏と、もう1人当時アカデミーでGKコーチをしていた井上敬太氏(現・柏レイソルトップチーム GKコーチ)は一貫して小久保の成功を信じ続けていた。
「僕は小久保が中1になると同時にトップチームのコーチになったので、中1から小久保を指導したのは井上コーチでした。当時、クラブ内でも小久保がここまでの選手になるとは思っていたスタッフは誰もいませんでした。でも、僕と井上だけは『中村航輔を超えるとしたら、それは小久保しかいない』と言い続けてきました。周りのスタッフらは半信半疑だったと思いますけど、僕と井上の2人が言うなら……という感じでしたね」
若くして海外へ渡り、アンダー世代の日本代表で活躍する小久保だが、高校1、2年生の頃まではなかなか公式戦に出場できず、モチベーション的にも浮き沈みの激しい時期もあったという。
「きっと小久保選手は柏レイソルじゃなければ、GKとして大成していなかっただろうし、プロにもなっていなかったんじゃないかと思います」
小久保のような大きな才能が日の目を浴びないまま埋もれてしまわないためには、まずはクラブとしてのGKへの理解、そして選手たちを長い目で育てていく環境が重要であると松本氏は強調している。そのなかで、多くの優秀なGKを輩出してきた柏には、優秀なGKを育む土壌が出来上がっていた。
「GKがミスをした時に、監督やコーチがGKの責任にしてしまうことはよくあると思います。ですが、柏レイソルの素晴らしいところは、そういったことを言うスタッフが一人もいなかったというところ。小久保以外にもユースからトップに上がったGKがたくさんいたなかで、コーチをしていた僕と井上がやっていることにすごく理解をしてくれて、この2人に任せれば、今はミスが多い選手でも最終的にいい選手に仕上げてくれるだろうという信頼を寄せてくれていました。
中学生年代くらいだとGKのミスで負けてしまうことはよくあります。でも、そういうなかで我慢をして、しっかりと長い目で見てくれるということ。それが小久保などのGKたちにとって伸び伸びと、すくすくと育つ要因になっていたのだと思います。小久保自身の頑張りももちろんですが、そういうクラブの理解があったからこそ、今の活躍があると思います」
柏レイソルで育ち、世界を舞台に活躍する小久保。五輪での活躍でその名をさらに轟かせている。彼の活躍はこれから日本代表を目指す若きGKたちに勇気や希望を与えるものとなるだろう。
(石川 遼 / Ryo Ishikawa)