五輪で前代未聞の「勝ち点剥奪」 名将オシムの手腕が指標!?…熾烈な情報戦の行く末【前園真聖コラム】
カナダ女子代表が相手の練習を盗撮して厳罰処分
パリ五輪の男子サッカーでは、グループリーグのアルゼンチン対モロッコで試合中に観客が乱入し、残り数分で試合が中断されて2時間後に無観客で再開されるという異常事態が起きた。ところが、女子サッカーではさらに混乱を招くことが起きている。前回王者、カナダ女子代表チームが対戦相手の練習を盗撮したとして厳罰を科されたのだ。年々激しくなってきている情報戦について、元日本代表MFで1996年のアトランタ五輪でキャプテンを務めた前園真聖氏はどう考えているのか聞いた。(取材・構成=森雅史)
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パリ五輪で前代未聞の「勝ち点剥奪」が起きて驚いています。
事の発端は、ニュージーランド女子代表チームの関係者が、大会初戦のカナダ女子代表チーム戦を前に練習場の上にドローンが飛んでいるのを見つけたことでした。調べてみると、それはカナダ女子代表の「非公認」スタッフが飛ばしていて、そこで掴んだ情報をカナダ女子代表チームに渡していたということです。
すぐにカナダサッカー協会とカナダ五輪委員会は関係したとされるスタッフをチームから外し、バリー・プリーストマン監督はニュージーランド戦で指揮を執らないことを発表しました。非公認スタッフはフランスの裁判所で執行猶予付きながら8か月の有罪判決を下され、カナダサッカー協会はプリーストマン監督の職務を停止しました。
ところがこれで収まらず、国際サッカー連盟(FIFA)はカナダサッカー協会に約3400万円の罰金を科すとともに、大会組織委員会は監督を大会から除外しました。またプリーストマン監督ら関係者は1年間資格停止処分になり、サッカーに関係することができなくなりました。
これに加えてカナダ女子代表チームはこの五輪グループリーグで勝ち点6を没収され、初戦のニュージーランド女子戦に勝っていたものの、勝ち点はマイナス3に。その時点で実質的にグループリーグ突破は非常に厳しいものになりました。
「練習を見られてもいい」ということを考えてチームを組み立てるべき
カナダ女子代表チームは、前回東京五輪の優勝チームです。そんなチームがこういうスキャンダルでイメージを一気に悪くしてしまいました。
大会組織委員会やFIFAはこんなことが起きると想像していなかったでしょうから、初めて対応を考えたのではないでしょうか。そして、懲戒規定の「攻撃的な行動およびフェアプレーの原則違反」などが適用されています。ワールドカップ(W杯)などほかの国際大会もこれが基準になって、スパイ活動に対しては厳正な処分がとられるようになっていくと思います。
ただ、こういう情報戦は昔からありました。単純に比較することはできませんが、少しでも相手の情報を入れようと、あの手この手で調べていたと思います。そして昔は今ほどそれが問題になったりしていなかったような気がします。
今回、ドローンのような分かりやすい手段を使ったので発覚しましたが、本当は今ならもっと巧妙に相手の情報を手に入れられると思います。それに加えて、今はいろんなところに情報が転がっています。例えば、通行人が見かけた情報をスマートフォンで撮影してSNSにアップすれば、関係者が見ればなんらかの情報になることも考えられるのです。
これはもう仕方がないことで、この流れは止まらないでしょう。昔よりもいろんなことを見られてしまう時代なのです。先発メンバーやセットプレーなどの情報も相手に渡っていると考えておくのが間違いないでしょう。
ですから、僕は練習を見られてもいいということを考えてチームを組み立てるべきだろうと思います。たとえ練習をすっかり見られても、先発が分からないというトレーニング内容にしなければならないでしょう。
果たしてそんなことができるのか。故・イビチャ・オシム代表監督の時はすべて練習を見せていましたが、先発予想はできないようになっていたと聞きました。ですから、できないはずはないと思います。
(前園真聖 / Maezono Masakiyo)
前園真聖
まえぞの・まさきよ/1973年生まれ、鹿児島県出身。92年に鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年のアトランタ五輪では、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などをチームのキャプテンとして演出した。その後、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレの国内クラブに加え、ブラジルのサントスFCとゴイアスEC、韓国の安養LGチータースと仁川ユナイテッドの海外クラブでもプレーし、2005年5月19日に現役引退を表明。セカンドキャリアでは解説者としてメディアなどで活動しながら、「ZONOサッカースクール」を主催し、普及活動を行う。09年にはラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表に招集されて現役復帰。同年11月に開催されたUAEドバイでのワールドカップ(W杯)において、チームのベスト8に貢献した。