勝ち上がりに必要な“運とツキ” 大岩ジャパンに五輪GL首位通過がマストな理由【前園真聖コラム】
準々決勝進出は決定もGL首位通過を果たしたいところ
大岩剛監督率いるU-23日本代表はパリ五輪男子サッカーのグループリーグでパラグアイ戦の5-0に続いてマリ戦を1-0で乗り切り、見事に準々決勝進出を決めた。今年3月に対戦した時は1-3と敗れた力のある相手ということもあって、初戦に比べるとかなりの苦戦を強いられた試合だった。だが、大岩ジャパンは最後まで集中力を切らすことなく粘り強い守備を見せ、チャンスでは多くの選手が攻撃に参加して値千金のゴールを奪った。ここまでのグループリーグの戦いを、元日本代表MFで1996年のアトランタ五輪キャプテンである前園真聖氏はどう見たか。(取材・構成=森雅史)
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パラグアイ戦は相手が10人になったあと、よくしっかり攻めてくれたと思います。あそこでスローダウンしなかったこと、そして無失点で試合を終えたことで大会に非常にいい入り方になりました。パラグアイは決して弱い相手ではなく、第2戦ではイスラエルに4-2と勝ったことを考えると、チャンスをしっかり決めたことにどれだけの価値があったか分かります。
マリ戦は非常に難しい試合でした。日本が苦手とするパワーとスピードのある相手に押し込まれました。ですが、ピンチはありながらも粘り強く戦ったおかげで後半になると相手の寄せが甘くなってスペースも生まれるようになり、日本は前を向いてプレーできるようになりました。そのことがゴールに結び付いたと思います。
この2戦を通じて考えた時、僕はやはり藤田譲瑠チマの活躍が目に付いています。全体を通して試合をコントロールしていますし、平均していいプレーをしています。中盤のバランスが取れているのは藤田のおかげです。またキャプテンとしてチームを引っ張る姿も頼もしく見えます。
7月30日のイスラエル戦も日本は当然勝ちに行くでしょう。日本にはこのグループで1位にならなければならない理由があります。それはノックアウトステージの1回戦で対戦する相手がどこになるかを考えた時、1位にならなければいけないからです。
大岩監督の“程良い”ターンオーバーが奏功
日本がD組1位ならC組の2位と、D組2位ならC組1位と対戦します。そして、そのC組はスペインが早々に2勝を挙げて大会で最初にグループリーグ突破を決めました。スペインの次の相手は同組2位のエジプトですが、ここで敗れて2位になるとは思えません。日本がイスラエルと戦う前日にエジプトを下して1位を確定させるはずです。
前回の東京五輪では準決勝で対戦し、0-1と敗れた強豪チームに、準々決勝では対戦したくないはずです。ですから当然、日本はイスラエル戦でも勝ち点3を狙うのは間違いないと思います。
中2日の戦いですから選手への疲労蓄積は避けられないでしょうが、大岩監督は非常によく考えて選手を起用しています。初戦から三戸舜介と木村誠二、怪我の平河悠の3人を外し、初戦は途中出場だった西尾隆矢、初戦では出場しなかった荒木遼太郎、バックアップメンバーからメンバー入りした山田楓喜を使うことで、体力の負担を分散しました。
そういう使い方をしているおかげで、佐藤恵允がパラグアイ戦のアシストに続いてマリ戦では決勝点に結び付いたシュートを放てたのです。マリ戦のゴールの場面では細谷真大が右サイドでボールを受けた時点で佐藤はまだ自陣にいて、そこから猛ダッシュでゴール前まで詰めました。また、藤尾翔太にしてもパラグアイ戦の2得点、そしてマリ戦でもよく身体を張ったプレーを見せてチームに貢献しています。
そして何より、このチームには運とツキがあります。2勝しましたが、2試合とも危ない場面はありました。マリ戦ではPKを相手が外すという幸運にも恵まれました。ただ、大会を勝ち進むには、こういう運やツキが必要なのです。
今のところ、すべてが上手く回っています。この流れを切らさないよう、イスラエル戦も素晴らしい戦いを見せてほしいと思います。
(前園真聖 / Maezono Masakiyo)
前園真聖
まえぞの・まさきよ/1973年生まれ、鹿児島県出身。92年に鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年のアトランタ五輪では、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などをチームのキャプテンとして演出した。その後、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレの国内クラブに加え、ブラジルのサントスFCとゴイアスEC、韓国の安養LGチータースと仁川ユナイテッドの海外クラブでもプレーし、2005年5月19日に現役引退を表明。セカンドキャリアでは解説者としてメディアなどで活動しながら、「ZONOサッカースクール」を主催し、普及活動を行う。09年にはラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表に招集されて現役復帰。同年11月に開催されたUAEドバイでのワールドカップ(W杯)において、チームのベスト8に貢献した。