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プロで活躍…サッカー名門・市船出身組が見せた驚きの飛躍 前監督「やっていけるのか心配だった」【インタビュー】
市立船橋前監督・朝岡隆蔵氏、教え子たちがプロの舞台で活躍「刺激になりますよ」
与えた刺激が返って来るのは、指導者冥利に尽きるだろう。市立船橋高校(千葉県)サッカー部の前監督である朝岡隆蔵氏は「指導者として、選手に刺激を与える立場だと思っていました。でも、逆にプロに進んだ教え子たちから刺激を受け、オレも頑張らないといけないと思わされています」と話す。朝岡氏は、今季、日本サッカー協会(JFA)が派遣する外部指導員として、福島県のふたば未来学園高校のサッカー部監督に就任した。2011年から18年まで指揮し、日本一にも輝いた市立船橋の監督を退任すると同時にプロの指導者へ転向したが、プロの世界に進んだ教え子の活躍に刺激を受けているという。(取材・文=平野貴也/全5回の2回目)
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「私は、23年に中国・四川省の成都市で、アンダー世代の指導にあたりましたが、単身で海外に行って仕事をする大変さを感じました。同年の夏、教え子である鈴木唯人が清水エスパルスからデンマークのブレンビーに移籍することが決まり、通訳もいないなかで頑張っている姿を見て、逞しいなと思いました。教える側の人間が自分に甘くてはいけないなと、改めて思わされました。彼らの活躍は、刺激になりますよ」(朝岡監督)
朝岡氏が特に驚いているのは、MF椎橋慧也(名古屋グランパス)の活躍だ。2013年に市立船橋で主将を務め、卒業してベガルタ仙台でプロ入り。柏を経て今季から名古屋でプレーしている。
「椎橋は、プロから評価されたのが3年の夏でギリギリ。当時は、スピードの面とか、身体能力がすごく高いというタイプではないし、やっていけるのか心配だった。でも、彼を見ていると(技術や身体能力が)ある程度のベースラインにあれば、あとはメンタルなんだなと思います。彼は人間性、メンタルの部分が素晴らしい。今の活躍を見ていると、嬉しい気持ちになります。彼より上の世代ですけど、DF小出悠太(仙台)も明治大を経てプロ入り。1対1は抜群に強いし、真面目で一生懸命だから、やっぱり信頼されるんだろうと思います。そういうところを見ると、やっぱり、育成年代ではサッカーだけ教えている場合ではないとも思います。高校サッカーは(技術や戦術ではなく)メンタル勝負だとバカにするような言い方をする人もいますが、メンタルは一番大事です」
プロに進んだ選手たちの高校時代を振り返ると、それぞれに成長する要素を持っていたという。明治大学を経て浦和レッズでプロ入りし、現在はFC町田ゼルビアでプレーするMF柴戸海についても次のように話した。
「本当に喋らない選手でしたけど、話を聞く能力が高かったです。1年生の時、一度トップチームに上げたけど、球際の強度が低すぎると話して、セカンドチームに戻しました。次にトップチームに上がってきたら、いきなり3年生のエースだった和泉竜司(名古屋)に強気で向かって行って、和泉には怒られていましたけど(笑)、課題に向き合える選手だと分かりました。彼は、とにかく聞く力が強いので、ほかの選手へのアドバイスも盗み聞きしていて、柴戸のプレーが良くなるという特長がありました」
驚かされた、原輝綺の危機察知能力
一方、能力は高いが進む方向を間違えないか危惧した選手もいるという。2016年度の3年生は、主力のほとんどがプロの世界に進んだ。高宇洋(FC東京)、杉岡大暉(町田)、原輝綺(清水エスパルス)は高卒でプロ入り。MF金子大毅(京都サンガF.C.)が神奈川大学を中退してプロ入り。真瀬拓海(仙台)と井岡海都(ガイナーレ鳥取)が大卒でプロに進んだ。
「真瀬、金子は、あの世代で本当に仲間に恵まれたと思います。高や杉岡のリーダーシップが素晴らしかった。彼らの姿勢に引っ張られて、正しく努力できた面が多かったと感じていました」
インターネットの存在に代表されるように、現代は効率化の時代だ。どのチームに行けば、誰に教われば、プロになれるのか。そんな視点で進路を考えるサッカー少年は多い。しかし、実際のところは、選手本人がどれだけ強い覚悟を持ち、あらゆる刺激を自分の力に変えて伸ばしていく力があるかどうかが問われる。その点、高や杉岡は、サッカーに向き合う姿勢の面で指導の必要がなかったと振り返った。また、同期でも手がかからなかった存在として原の名前を挙げた。
「原は、ちょっと異質な存在。同期の杉岡の注目度が高いなか、内に秘める闘志、対抗心を持っていて、黙っていてもぐんと伸びて来るタイプでした。セカンドチームのコーチは、運動能力の高さを評価して、トップチームに推薦していましたが、あまり試合で活躍するイメージが湧かず、トップに上がったり、落ちたりの繰り返しでした。1つ上の世代を3バックで戦えるチームにしたいと思い、センターバックの強化が必要と考えていたなか、彼が2年生になる直前の2月に行った浜松遠征で、原の危機察知能力の高さに驚きました。将来、センターバックで戦っていくには少しサイズが小さいと思い、2年生の時はボランチでも起用しました。3年生の時は、センターバックでもサイドバックでも起用しましたが、1年間で、原のゴールカバーだけで3点くらいは防いでしまう活躍ぶりでした」
23年末には、当時の教え子たちとチームスタッフとの食事会が設けられ、初めてご馳走される立場になったという。朝岡監督も活躍の場が変わり、今季からは、福島県のふたば未来学園高校で指揮を執る。成長する資質に目を見張り、問いかけながら選手の力を伸ばすつもりだ。
※第3回へ続く
[プロフィール]
朝岡隆蔵(あさおか・りゅうぞう)/1976年生まれ、千葉県千葉市出身。市立船橋高で第73回全国高校選手権に出場。日本大学卒。千葉県で教員となり、2008年から母校の市立船橋でコーチを務めた。11年から18年まで監督を務め、11年に第90回全国高校サッカー選手権で優勝。13年、16年にインターハイで日本一に輝いた。プロ指導者に転向し、19年から22年までジェフ千葉U-18で監督。23年は中国で四川省成都市サッカー協会にてU-18、19を指導。24年から日本サッカー協会による派遣で、福島県立ふたば未来学園高校のサッカー部監督を務める。
(平野貴也 / Takaya Hirano)
平野貴也
ひらの・たかや/1979年生まれ、東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て、2008年からフリーライターとなる。サッカー、バドミントンを中心にスポーツ全般を取材。高校サッカー、自衛隊サッカー、離島甲子園、カバディなど育成年代やマイナー大会の取材も多い。