J2クラブ「全体に伝播」鉄壁DFの存在…伊東純也も思わず「苦笑い」 戦友と影で笑顔の交流も【コラム】
【カメラマンの目】伊東をマークした吉田豊の姿、乾との挨拶にもファインダーを向けた
これぞ親善試合といった90分だった。7月27日の清水エスパルス対スタッド・ランスは、勝敗より内容が重視される試合とあって、観客に魅せることを意識し、両チームがともに持ち味を存分に発揮する展開で進んでいった。
スタッド・ランスは両サイドの前線に張る伊東純也と中村敬斗を中心に攻撃を仕掛けていく。サイドチェンジや後方からのロングキックで前線にボールを送り、そこから2人の日本人選手がドリブル突破やゴール前へラストパスを供給しチャンスを作っていった。伊東のマークを受けて体勢を崩されながらも、良くコントロールされて生きたボールをゴール前へと供給した技術はさすがだった。
しかし、このダイナミックなスタッド・ランスの攻撃に対して、清水はすべての局面において自由にサッカーをさせたわけではない。引き締めるところはしっかりと守り、特に最終局面では厳しいマークで対応しゴールを許さない。
そう、安定した守備を見せた清水の守備陣のなかでも、スタッド・ランスの攻撃の中心を担う伊東をマークした吉田豊のプレーは特に厳しかった。マークから逃れようと、逆サイドにポジションを変えるなどの工夫を見せるスタッド・ランスの背番号7を、吉田はどこまでも追いかけた。
執拗な守備に伊東も苦笑いを見せる。その吉田から溢れ出す意気込みは清水全体に伝播し、ホームチームを活気付けた。
攻撃ではカルリーニョス・ジュニオ、ルーカス・ブラガやドウグラス・タンキのブラジル人選手が存在感を発揮した。清水のボールを奪ってからのカウンター攻撃は実に鋭く効果的で、結果3点を奪ってみせたのだった。
魅せるところ、勝負するところをはっきりと示し、好ゲームを作り上げた清水。清水にしてみればこのスタッド・ランス戦は、勝敗がそれほど重要ではなかったとはいえ、シーズンを戦っていることを考えると、しっかりと勝利してチームの士気を高めたかったことだろう。
ここで不用意に大敗でもすれば、再開されるリーグ戦に影響が出ることも考えられたからだ。そういった意味では結果、内容とも清水にとっては有意義な試合となったのではないだろうか。
親善試合ということで、後半は両チームとも次々と選手を入れ替えていった。そうしたなかで後半から登場した乾貴士が挨拶をするように伊東に触れた。その瞬間をなんとか写真に切り取ることができた。その行動に気づいた伊東も笑顔を見せる。
そして、試合後のインタビューで乾は、スタンドの子供たちにとって日本代表の選手のプレーが見られたのは素晴らしいことであり、スタッド・ランスを応援してあげてほしいとコメントした。世界で戦ってきた男の度量の広さに嬉しくなる。
こうした人の心を優しく振るわせる言葉が聞けるのも親善試合ということか……。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。