なぜ日本は下馬評を覆せた? 南米1位を「これくらいの相手なら」と感じられた訳【現地発】

パラグアイに勝利したU-23日本代表【写真:ロイター】
パラグアイに勝利したU-23日本代表【写真:ロイター】

大舞台の初陣でも選手は揃って冷静を保っていた

 大岩剛監督率いるU-23日本代表は7月24日にパリ五輪・初戦パラグアイ戦を迎えて5-0で勝利した。この大勝は下馬評を大きく覆す一勝となった。

 今回の大岩ジャパンは2001年生まれの絶対的トップランナーである久保建英だけでなく、オーバーエイジ選手や、鈴木唯人、鈴木彩艶を招集することはできず。大会直前になってバックアップメンバーを帯同することになったら、今度はそのバックアップメンバーからオランダNEC所属の佐野航大が辞退ととにかく招集に関しては苦労してきた。

 日本人選手が欧州のクラブで主力になればなるほどIW(国際Aマッチデー)ではない五輪や五輪絡みの日程で招集、拘束できなくなる。それを見越してか大岩監督は当初から「誰が出ても同じサッカーができるチーム」を標榜し、エース格からスポット参戦(的に時々呼ばれる)選手にまでチームプレーを徹底させてきた。それでいて不満がたまるわけではなく同じ方向を向けたのがこのチームの強みの一つだろう。

 選手個人能力だけ見れば、パラグアイのスピードやフィジカルの強さに敵わなかったかもしれない。だが、例えばGK小久保玲央ブライアンはこう言う。

「15番の選手(ブライトンのエンシソ)が自分に対してハーフタイム中に何か言ってきたけど、自分たちが勝っているので(気にならない)。個人としては彼は良い選手かもしれないけど、チームとして5-0という結果が出たので、自信を持って次の試合に向けしっかりやっていきたい」

 小久保は試合中、プレッシャーをかけてこない相手を弄ぶかのようにボールを扱い場内からブーイングを浴びたがそれもお構いなしだった。

「フランス戦でもブーイングはあったけど、自分にとってそんなに。逆に楽しめるというか。特に何も思っていない」

 頼もしい、の一言だ。

 なぜこの世代がここまで大人でいられるのか。これは選手個人と、全体としての海外経験がものをいうのだろう。開幕の時点での海外組の人数は東京五輪の7人に対して今回は8人と一人増えただけ。むしろ前回大会はオーバーエイジで呼ばれた吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航が海外組、もしくは元海外組だったらその3人を加えれば10人と、今回よりも多い。単純に人数だけを比較すれば、減っていることになるが海外組が半数近くを占めるのが当たり前、という認識になっており、ちょっとやそっと海外の選手たちと対戦しても浮かれることがないというのが、戦いぶりから感じられる“大人”“落ち着き”といった印象の要因だろう。基準はあくまで欧州(といってもピンキリではあるがこの際それはいったん置いて)にある時代なのだ。

 また、このチームのマッチメイクが成功してきたことも挙げられる。昨年だけでも、親善試合でドイツ、ベルギー、イングランド、オランダと欧州内で対戦してからU-23アジアカップ予選に臨むことができた。U-23アジアカップ出場権獲得後は日本国内でメキシコ、アメリカ、アルゼンチンと対戦。今年に入ってはマリ、ウクライナ、アメリカと五輪出場国と対戦、フランス現地入りしてからはすでに調整済みのフランスと対戦できた。

 このあたりの強豪との対戦は選手たちのモチベーションとなった。山本理仁は「自分たちには世代別での世界大会の経験は少ない。でも欧州での親善試合が多かったから、俺らいつもめらめら燃えていましたよ。ヨーロッパでやるといろいろなクラブのスカウトが来ると聞いていたから、チームとしてもそうですけど個人としても楽しみにしていました」と遠征を楽しみにしていたことを明かしている。パラグアイに5-0で勝利した後も山本は「個人的なところではエンシソ選手とか、うまい選手もいるけど、直前に戦ったフランスより1つ2つレベルが下がるなと感じたし、フランスとやれて良かったのと、これくらいの相手なら、という自信も得られました」と語っている。

 なぜこんなに大人の戦い、落ち着きを見せられるのかと問われれば、彼らの経験値のなせる技であり、大岩監督の落ち着いたチーム作りでもあるというのが現時点での見立てである。今後ちょっとやそっとのことで崩れるような落ち着きではないと思っている。

(了戒美子 / Yoshiko Ryokai)

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