相馬勇紀が“電撃移籍”も…なぜ町田が続々放出? 監督「残してくれ」の声…選手の言い分【コラム】
町田補強動向の舞台裏、相馬獲得の背景とは?
FC町田ゼルビアの原靖フットボールダイレクターは7月25日、相馬勇紀の移籍に関して報道陣の取材に応じた。
原ダイレクターが選手補強に動き出したのは5月だった。6月のU-23日本代表アメリカ遠征の前に、平河悠(ブリストル・シティ)に獲得の打診があったため、退団時を考慮して補強候補選手のピックアップを進めたという。そこで集めた情報の中に相馬がいた。
「我々だけじゃなくて、国内外からのオファーがたくさんあるという話も聞いていて、もし国内で(移籍する考えが)あるのだったら、うちも手を挙げたい」と本格的な調査が始まったそうだ。
ところが今年7月8日にオープンした第2登録期間(ウインドー)までに話がまとまらず、結局相馬は一度名古屋に戻ることになった。最後までライバルとなった別のクラブがあり、相手のほうが高額だったそうだ。それでも交渉に粘り勝ちした。
相馬の契約期間は残り半年だったため、半年経てば移籍金が必要なくなり、出費は大きく抑えられることも考えられた。それが分かっていながら、なぜ町田は今夏獲得しようとしたのか。
「今年、まだ優勝争いしていますが、これが毎年あるようなチームではない。名門だったら毎年同じようなポジションにいるのでしょうけれど。上位にいるのじゃなかったら、もしかして(獲得に)行かないかもしれないです。
中位とか残留争いをしているチームだったら別だと思います。中位だったら『半年待てばいいじゃないか』『半年待ったらもっと給料本人に積めるから』という感じはあるのですけど、今優勝を狙っている中に現役代表という価値なんですよね。ただ来年になったら来ないなという話と、来年チャンスがあるかどうか分からない。(自分たちの)成績的にもですね。常にそういうギリギリのところの判断に迫られたんです」
つまり名門クラブだったら毎年優勝争いに加わるだろうという予想がつくが、町田の場合は来年どうなるか分からない。だったら首位にいる今のチャンスを生かしたい。そのために相馬を獲得したということだった。
この先、さらに選手を獲得する考えはあるのか。そう聞かれると原ダイレクターは「1人、2人は必要なポジション出てきていますね」と否定しなかった。
今季J1で躍進→チーム力アップで出番を減らした選手たち
町田には現役代表選手が加わるという華々しい話がある一方、シーズンが始まってからここまでに多くの選手が移籍していった。前述の平河に加えてあと11人の選手が新天地に移っており、第2移籍期間が終わる8月21日までにまだ増える可能性もある。また、ヨーロッパのウインドーは8月30日までなので、海外に流出する選手も出てくるかもしれない。
なぜこんなに増えてしまったのか。
「ずいぶん慰留した選手もいます。慰留した選手もいて、『チャンスがあるから残ったほうがいいんじゃないのか』と言った選手もいたのですが、『じゃあ試合に出てますか』という感じのことをエージェントが言ってきます」
選手に競争させ、勝ったものが出番を得るというのは当然の話であるし、町田は出場機会が少ない選手に対してもちゃんとコーチなどのスタッフが付いてトレーニングを行ってきた。ところが急激に選手のレベルが上がったことで出番を減らす選手が増えてしまった。そして選手たちは自分のキャリアを考えて、ほかのクラブでのプレーを望むという。
「『残ったほうがチャンスあるんじゃないのか』と随分話はしたんですけど、でもリーグ戦の出場実績がゼロであったり、1(試合)とか2(試合)だったりするので、なかなかね。昨年から今年上がったレベルを、もうちょっと高く成長させるとなると、致し方ないのかなと思ったりするんです。
『契約があるから残れ』ということもできたんですけど、それも非情な感じもするし、選手が出ていきたい、出場機会を求めたいとなった時に話し合いがあるんですけど結局、選手のことを考えたりするとクラブが困るし、クラブの考えを押し付けると選手が困ってしまう」
町田は2月28日に移籍したアデミウソンを除き、シーズン開幕後に移籍した11人は「期限付」移籍にしている。戻ってきてほしいという願望が見えるのは、出番を求めて移籍した選手にとって救いではあるだろう。
また、原ダイレクターは別の問題でも苦労しているという。それは選手の獲得についてだった。「相手のほうも『(町田に)行っても出られないだろう』という選手もたくさんいますし、もう随分断られております。『今の町田に行っても試合に出られないでしょう』とか」
積極的な移籍で戦力充実を図ってきた町田だったが、チーム力が上がったことで難しい局面に突入したようだ。
一方でここまでシーズン途中に移籍していく選手が多いと心配になることもある。それは黒田剛監督と合わないから出て行かされたのではないかということだ。
その質問をされた原ダイレクターは、「そういう状況ではなかったですね。むしろ黒田監督から『残してくれ』というほうが多かったんです。人数的なこともありますし、契約で残してくれという要望は、黒田監督のほうからが多かったんですよ」と否定した。
第2移籍期間が終わるまであと約4週間、果たして町田はまだ移籍で多くの話題を提供するのか。可能性はありそうだ。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。