マンC女子日本人獲り→「意外な補強」の現地評価が一変…対戦相手が呆然、英国で飛躍した司令塔【現地発コラム】

マンチェスター・シティの長谷川唯【写真:Getty Images】
マンチェスター・シティの長谷川唯【写真:Getty Images】

後進のイングランド進出へ「自分がもっと貢献できたらいい」

 なでしこジャパン(日本女子代表)は現地時間7月25日、パリ五輪のグループリーグ初戦スペイン戦に臨む。2012年のロンドン五輪以来3大会ぶりのメダル獲得へ鍵を握るのがチームの司令塔を担う長谷川唯の出来だ。2021年にイタリアへ渡り海外初挑戦。そこから着実にステップアップを遂げ、22年にイングランド女子1部マンチェスター・シティへと活躍の場を移したMFは英国でどのような存在として捉えられているのか――。

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 女子部門は、長谷川唯に1票。昨季の年間最優秀選手を決めるFWA(フットボール記者協会)投票で、筆者はマンチェスター・シティ・ウィメンの日本代表MFを選んだ。実際の受賞者は、チームメイトのカディジャ・ショー。27歳のジャマイカ代表CFは、イングランド女子1部のスーパーリーグ(WSL)で、昨季得点王となっている。

 だが、シティの1トップがフィニッシュの腕を振るうことができた背景には、ポゼッション確立で鍵を握る同い年のキープレーヤーがいた。通算2度目のWSL優勝を目指していたチームが、最終的に5連覇を果たしたチェルシー・ウィメンと最終節まで優勝を争うなかで、長谷川は勝るとも劣らぬ存在感を放っていた。

 その重要性は、昨季リーグ戦先発22試合という数字が物語る。全節でスタメンに名を連ねたシティのフィールド選手は、長谷川しかいない。2年前、ウェストハム・ウィメンからの移籍が「意外な補強」と報じられた事実が嘘のようだ。

 無理もない見方ではあった。8年間在籍した中盤深部の司令塔、キーラ・ウォルシュ(現バルセロナ)の後釜として、WSL歴1年で身体も一回り小さな攻撃的MFが獲得されたのだ。しかし、タイトな状況でもフィードを受け、鋭いターンからボールと人を前へと動かす長谷川を得たシティは、獲得前の開幕2連敗から14試合連続無敗へと軌道を修正することになった。

 中盤の底での守備を不安視する声は、終盤戦で本人も「(チームとして)すごく成長しているところ」と認識していた昨季の失点数減少によって鎮められた。ポジショニングも動き出しもいい「6番」役は、リーグ戦での平均パス成功率89.4%がチーム最高なら、インターセプト計39回もチーム最多の数字だ。

 シティ入りに際し、クラブの公式サイトを通じて「身体は小さくても弱くはない」と、守備面での貢献にも意欲を示していた長谷川は、知的に守るだけではなく、物理的に強い守りも披露する。敵地で零封勝利を収めた今年2月のチェルシー戦では、改めて感心させられた。

 20センチは背が低い日本人MFにボールを奪われ、片腕で制されてキープを許し、ビルドアップに持ち込まれた相手は呆然としていた。そのマイラ・ラミレスは、翌月にボランチとして対峙したレスター・シティ・ウィメンの宝田沙織が「石みたいに硬くて、普通に当たっても勝てへん(苦笑)」と敗戦後に表現していたコロンビア代表FWだ。

 WSLと「なでしこジャパン」で先輩に当たる長谷川は、チェルシー戦後に次のように語ってもいた。

「ウェストハムで結構いい評価をもらうことができて、日本人選手を獲る意識が強まって、(うしろから肩を叩いて通り過ぎた)チェルシーの(浜野)まいかもそうですし、若い選手、いろんな選手がイングランドに来るチャンスがあるっていうのを凄く感じるので、そういう意味で自分がもっと貢献できたらいい」

 今やWSLを代表する中盤深部のプレーメーカーは、日本人の後進にとっての“チャンスメーカー”としても活躍し続けてくれるに違いない。イングランドのピッチには、長谷川という小さな大輪が頼もしく咲いている。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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