悔しいベルギーでの1年 大岩Jの技巧派レフティーが示す独特な統率力「適度に楽観的に考える」
【大岩ジャパン18人の肖像】山本理仁はエリートであると同時にクラブシーンでは苦労も経験
大岩剛監督率いるU-23日本代表は、今夏のパリ五輪で1968年メキシコ五輪以来、56年ぶりのメダル獲得を狙う。4位でメダルにあと一歩届かなかった東京五輪から3年、希望を託された大岩ジャパンの選ばれし18名のキャラクターを紐解くべく、各選手の「肖像」に迫る。
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しっかりとした個人技をベースに、個性豊かな選手を育てるのが東京ヴェルディの特徴。そのDNAをしっかり引き継いだのが山本理仁だ。
「もちろん、技術には自信がある」と言うレフティーのMFは細かなタッチのコンビネーションプレーを撒き餌に、一発のパスで局面を変えるひらめきを持つ。ゲームをコントロールする力、攻撃の起点、視野の広さ、セットプレーのキッカー……といった攻撃面のストロングに加え、プロで6年間揉まれていくうちにデュエルの強さ、攻守の切り替えの速さといった逞しさを身に着けた。
U-15日本代表からU-23日本代表(パリ五輪代表)まで、年代別代表チームに途切れることなく選ばれ続け、キャプテンマークを巻くことも多い。この世代のエリートである一方、プロ2年目の2022年には伸び悩んだ。移籍先のガンバ大阪では負傷もあり、思い描いていたような活躍ができなかった。
昨夏に移籍したシント=トロイデンでは不思議な経験をした。欧州挑戦1年目で公式戦35試合出場は立派なもの。しかし、先発はわずか9試合。ゴール、アシストはともにゼロというインパクトの薄いシーズンだった。しかも主戦場は不慣れな右ウイングだった。
今年1月。ダブルボランチの2枠を争うマティアス・デロージ、伊藤涼太郎、藤田譲瑠チマとの競争に絡めない現状に、「悔しい気持ちがなくなったらサッカー選手は終わりなんでね。悔しさはある」と吐露した山本は、「しかし、僕はあんまり考えすぎると(悪い方へ)ハマっていくタイプ。悔しい気持ちを持ちつつ適度に楽観的に考えながら、試合に出たときに自分のプレーをして(実績を)コツコツ積み上げて行きながら、スタメンで出られるようになればいい」と続けた。
培ってきた技術を生かしたチームプレーが「生命線」と自負
そこで思い出すのが昨年12月末の対シャルルロワ戦。シント=トロイデンが1-0でリードした後半42分、クローザー役として投入された山本は、右コーナーフラッグ付近で敵に囲まれながらフェイントとショルダーチャージを駆使しながら1人で30秒近くボールをキープし続け、チームメイトを助けた。
「ああいうところが自分の生命線だと思います」
悔しさを3分間のプレーにすべてぶつけた山本のパフォーマンスだった。
あまりに悔しいことが多かったことから「適度に楽観的に考える」という思考法を山本は見つけたのだろう。
U-23アジアカップの初戦、中国相手に日本は開始早々1点を先取する幸先のいいスタートを切ったものの、DF西尾隆矢が退場処分を受けたことから前半22分に山本はベンチに下げられてしまった。悔しさなのか、悲しみなのか、怒りなのか……。明らかに彼は納得いかない表情だった。
試合後、報道陣に山本は「ああ、俺か――と思いました」と打ち明けてから、自身の交代に納得したうえで、西尾を励ましたという。
翌UAE戦は主将としてチームを引っ張り、見事なクロスから木村誠二の先制ゴールをアシスト。大会の山場となった準々決勝、対カタール戦でも絶妙のコーナーキックでまたしても木村のゴールをアシストした。
悔しさを引きずることなく、適度に楽観的に過ごす思考は短期決戦で有効だ。五輪代表入りが決まった直後、山本は会見でこう言った。
「オリンピックの本番で、必ずしも最初からいい結果がついてこないかもしれない。この間は中国戦で(西尾)隆矢が退場した。そういったケースでどういう声掛けができるか。そのことを大切にしていきたい」
これもまた、山本独特のリーダーシップの表し方である。
(中田 徹 / Toru Nakata)
中田 徹
なかた・とおる/1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグなどを現地取材、リポートしている。