未だJ1残留へ危険水域 掴んだ3つ目の“白星”…新助っ人FWの笑顔が体現する札幌の姿【コラム】

札幌が浦和に勝利【写真:徳原隆元】
札幌が浦和に勝利【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】雷雨も起こった激闘…札幌の勝利を喜ぶジョルディ・サンチェスが印象的

 第4の審判員がサイドライン際で表示したアディショナルタイムは9分。7月20日のJ1リーグ第24節、浦和レッズ対北海道コンサドーレ札幌の試合は佳境を迎えていた。

 最終盤を迎え、浦和の猛攻の前に劣勢の展開を強いられる札幌のベンチは落ち着きがない。選手、スタッフたちは祈るような気持ちでピッチを見守る。そのなかで先発出場を果たし、後半33分にピッチを退いた大﨑玲央は自陣に押し込まれる展開をもう見てはいられないというように、仲間の選手の背後に隠れ、ときおりその背中に顔を埋めた。自分がピッチに立っている方が気持的には楽だったのかもしれない。

 しかし、札幌にとって長かった9分も経過し、ついにタイムアップを迎える。ピッチ、ベンチでリーグ戦10試合ぶりとなる勝利を喜び合うそのなかには、辛くも逃げ切りに成功した安堵も含まれているように見えた。

 試合前、埼玉スタジアムの上空へと視線を向ければ、それほど遠くないところで稲光が走り雷鳴が轟いていた。前半が終了すると激しい雷雨がスタジアムを覆い、後半が遅れて始まった試合は、4-3で札幌の勝利に終わる。

 開始から負けを恐れず挑戦者の姿勢で、攻守に渡って積極的なサッカーを見せた札幌に対して、浦和は受けて立つようにおとなしい入り方をしてしまったように思えた。これが結果的に勝負の明暗を分けることになる。

 札幌はボールを縦へとつなぐことを強く意識したパスプレーで浦和ゴールに迫り、次々と得点を重ねていく。戦術が重視される現代サッカーでは、チームが機能するめたには攻守の連動は欠かせない。安定した守備で相手からボールを奪うところが、攻撃の出発点となる。

 その点で大﨑が加入したことによって守備が安定し、常に追い込まれた劣勢の状況でボールを奪うのではなく、敵を待ち構えて食い止める形ができてきた。

 それによってマイボールにしてから、スムーズに攻撃へと移行できるようになった。この守備の安定は、ゲームを作れる中盤の駒井善成のプレーにおいて、攻撃に使う時間を増やすことにもつながり攻守のリズムに好影響を与える。

 札幌は全体的にディフェンスのシーンで詰めが甘い浦和守備陣を掻い潜り、後半12分の時点で4-0とリードを大きく広げる。勝負はこれであったかに見えた。

 しかし、浦和も意地を見せて終盤に3ゴールを奪い、なおも攻勢を仕掛ける。防戦一方となった札幌にとってはピッチで戦う11人だけでなく、ベンチに控える指導スタッフや選手たちにとっても、さぞかし試合終了までが長く感じられたことだろう。

 結果的に完勝とはならなかったが勝利を掴んだ札幌。新加入のスペイン人FWジョルディ・サンチェスも後半33分からプレーした。出場時間が短く、大きな見せ場は作れなかったが、印象に残ったのは試合後の笑顔だ。

 サポーターへの挨拶のあとに声をかけると笑顔を見せた。カメラのファインダーからはみ出すくらいの近さで勝利を喜ぶその表情は、早くも札幌の一員として順応しているように見えた。

 苦境に立つ札幌の現在の状況を直視すれば、J1の座を死守するための道のりはかなり険しい。残された試合の多くで勝利という扉を開け、突き進まなければならない。

 ただ、この浦和からの勝利によって、連敗中に覆っていた閉塞感から脱したことは間違いない。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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