五輪スペイン戦「楽しみでしかない」 なでしこJ主将がフランス“最終調整”で笑顔の訳【現地発】
ルトゥケでは完全非公開でコロンビアと練習試合も実施
なでしこジャパン(日本女子代表)は7月13日に親善試合ガーナ戦に勝利して国内合宿を打ち上げた翌日、フランスへ飛び立った。向かった先は、パリから車で2時間半ほど離れたフランス北部のリゾート地として知られるルトゥケ。ここで4日間の最終調整を行った。
ルトゥケは2019年の女子ワールドカップ(W杯)の際にも直前の調整地として訪れており、練習施設、宿泊先も当時と同じ場所ということもあり、懐かしさが漂う。拠点からは海も近く、選手たちは散歩がてら散策を楽しんでいるようだ。
パリから離れていることもあり、オリンピック色はやや薄めだが、地元スーパーのエントランスではオリンピックフラッグを発見することができた。ルトゥケでは現地の気候に対応する狙いもあったが、なでしこたちが現地入りしてからはまさかの涼しさで拍子抜け。しかし、気候は日々変化する。コロンビアとのトレーニングマッチが設定されていた最終日の7月19日は、気温がぐんぐん上がり、予報では28度。そんなはずはない。体感はそれ以上だ。湿気もあり、ようやく想定していたそれらしい気温になった。
陽気な音楽とともにスタジアムに入ってきたのはコロンビアの選手たち。リラックスモード全開で彼女たちもフランス国内での調整が上手く行っているようだ。お互いあらゆる戦略、チャレンジ、修正があるデリケートな時期であるため、試合は完全非公開で行われた。ウォーミングアップ前からシャットアウトの厳重警戒のなか行われた45分ハーフの試合は1-1のドローで痛み分け。大会直前の実践は両チームにとって多くの収穫があったことだろう。
「潰しに行くところとマークの確認はできたし、いいシミュレーションになりました」
充実した表情を見せたのはキャプテンの熊谷紗希だ。
コロンビアは昨年のW杯で日本と同じであるベスト8という結果を残し、ダークホースとして一躍脚光を浴びた。南米らしいフィジカルの粘りと、個人スキル、チーム戦術への理解度などの高さもある。ポジティブな国民性も加味し、パリ五輪でもひと暴れするのではないかと期待される。グループCに属する日本に対し、コロンビアはグループA。勝ち上がり方によっては準々決勝で相まみえる可能性のあるチームだ。
熊谷は五輪初戦スペイン戦へ笑顔「楽しみでしかない」
なでしこジャパンはW杯以降、相手の出方を見極めて試合の中で可変できるシステムを目指してきた。国内最後のガーナ戦でもそのトライは見えたが、早々に相手が退場してしまい、本来のゲームプランは崩れていただけに、コロンビアとのトレーニングマッチででは改めてそのトライができたようだ。
「対応力が高い選手たちでプレーできているので、どの選手が入ってもその選手の特長を出しつつ、どのフォーメーション、どの形になっても同じ絵が描けるようになってきているところもある。ただその変化のスイッチ、それを誰が入れるのか。形、時間、戦い方含めてベンチからも助けてもらいながらですけど、そこはもう少しハッキリさせたい」
熊谷はその対応力についてもう一段階引き上げる必要性を感じている。
なんと言っても、初戦の相手はW杯チャンピオンであり、2月にはヨーロッパチャンピオンを決めるUEFA女子ネーションズリーグの覇者でもあるスペイン。今、世界で一番ノッていると言っていい。さらに、W杯で唯一完敗した日本に対してリベンジ精神に満ちあふれているのだから、まったくもって恐ろしい相手である。
「楽しみでしかないですよ。ただ……何もグループリーグで当たらなくてもいいよね、とも思いますけど(笑)。フレッシュなタイミングでできる? いや、それ相手も一緒だから(笑)!」
オフ明けから暑い日本で一度身体を苛め抜いて、コンディションを上げてきた。ガーナ戦ではまだ身体が重たそうだった熊谷も、フランス入りしてからの5日間でコンディションは整ってきた。ここからはいよいよオリンピックコントロール下の初戦の地、ナント入りをする。
「ナントでの4日間で変化をつける部分に関してもう一段階詰めたい。あとは初戦の重要性を改めて全員が理解すべき。本当にいよいよ始まるってところに入る。個々はもう自分たちで上げていける選手たちばかりなので、そこは全然心配してないんです。でもチームとして、となると全然簡単じゃない。そこを乗り越えていく大会にしたいです」
日本サッカー史上初の銀メダルを獲得したロンドン五輪(2012年)、コロナ禍の中で行われた異例の東京五輪(2021年)——。そして迎える今回のパリ五輪は熊谷にとって、世界経験値、フィジカル強度、そしてチームの成熟度から見ても機は熟されている。
「今、ここでパーフェクトとは言えないけど、足りない部分をナントで詰めながらスペイン戦に臨みたいと思います!」
自分たちが掴みかけているものが世界に通じるものなのか、試される時は近い。いよいよ、なでしこジャパンのパリオリンピックが始まる。
(早草紀子 / Noriko Hayakusa)
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。