「やっぱりA代表しかない」 Jリーグ→海外移籍…稀代のスター候補が決意したワケ

FC東京から離脱した松木玖生【写真:徳原隆元】
FC東京から離脱した松木玖生【写真:徳原隆元】

松木が「ふれあいイベント」を実施しFC東京を離れる

 7月19日に武蔵野の森総合スポーツプラザでおこなわれた「ふれあいイベント」で、21歳の松木玖生のFC東京における活動は終わりを告げた。パリ五輪に臨むU-23日本代表メンバー発表の席上で海外移籍の可能性が示唆されてから10日目の7月13日、クラブは「海外クラブへの移籍を前提とした手続きと準備のため、本日の活動をもってチームから離脱」する旨を発表。同日のJ1リーグ第23節アルビレックス新潟戦終了後にもスタンドのファンに向けて挨拶をしたが、より多くのファンと別れを惜しむ機会を設けた格好だ。

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 19日のイベントは金曜日の夕方に開催されたにも関わらず、560人が詰めかけた。松木が言うには、その中には一度仕事を抜け出してやってきたツワモノもいたという。青赤のユニフォームを脱ぐ松木に一目逢い、励ましたい一心の人々だった。

 7月3日に発表された五輪代表メンバーでまさかの選外となったことは衝撃的だった。パリ五輪世代の旗手として各世代のアンダー代表で活躍、AFC U-23アジアカップでも日本の優勝とパリ五輪出場権獲得に貢献した主力であり、大本命中の大本命と目されていただけに、その驚きは計り知れない。

 しかし周囲の喧騒をよそに、松木は五輪代表から選外となった3日の時点で、欧州への挑戦、そしてA代表選出とワールドカップ(W杯)出場に気持ちを切り替えていた。まずはJ1リーグ第22節柏レイソル戦、天皇杯3回戦ジェフユナイテッド千葉戦、リーグ第23節アルビレックス新潟戦に集中。新潟戦が終わると2~3日はトレーニングを休み「やらないといけないことが多かった」(松木)と、今後に向けた準備に励み、ふれあいイベントがあった19日はトレーナーとマンツーマンで練習。五輪出場はなくなったが、じつに多忙だった。

「メンバーを決める、決めないは、自分では決められない。しっかりと、置かれた状況で頑張ろうかと。もちろん悔しい感じはありましたけど、絶対次につながるという風には思うので。この決断をしっかりと自分のものに出来るようにしていきたい」

 18日には所属クラブとの話し合いによって佐野航大のバックアップメンバー招集が見送られたが、同様に、松木の代表招集もクラブの都合によって実現しなかった可能性はある。ただそれが確定していない状況で、あくまでも可能性によって選出されなかったのであれば、当事者としては悔しさが募るのは当然のことだろう。その上で、自分の力では変えられない状況に拘泥せず、松木は欧州移籍をステップアップにつなげることに力を注ぐつもりのようだ。

 欧州で開花した大先輩である長友佑都は「10年はやってほしい」と言っていたが、19日のふれあいイベント後、松木は欧州生活にかける気持ちを次のように語った。

「自分もユウトさんみたいにすばらしいキャリアを築きたいです。その中でも15年くらい……(記者団とともに笑い)そのくらいの気持ちでやらないと、もちろんあっちでは通用しないと思いますし。ユウトさんを超えられるようにしたい。また一緒にプレーしたいですし、自分の成長した姿を一緒に感じることが出来るのはやっぱりA代表しかないので、そこに向けて自分もアピールが出来ればいいかなと思います」

 別れを惜しもうと押し寄せた人の波に、松木は「自分が予想していた以上に多くの方々が来てくださって、すごく自分の励みになりましたし、これから海外に行く上ですごく元気をもらえたので、いい交流会だったかなと思います」と、喜びを語った。パリ五輪に臨むU-23代表メンバーの選からは漏れたが、温かいファンの後押しを受け、稀代のスーパースター候補がかねてから願っていた欧州のフィールドに旅立つ。

(後藤 勝 / masaru goto)



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後藤 勝

後藤 勝
ごとう・まさる/小平市在住のフリーライター。出版社、編集プロダクション勤務を経て独立。1990年代末に「サッカー批評」「サッカルチョ」などに寄稿を始めたことがきっかけでサッカーに携わるようになり、現在はFC東京、FC岐阜、東京都社会人リーグを中心に取材。著書に「トーキョー ワッショイ! FC東京 99-04 REPLAY」(双葉社)「エンダーズ・デッドリードライヴ-東京蹴球旅団2029」(カンゼン)がある。ウェブマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」「ぎふマガ!〜FC岐阜を徹底的に応援する公式ウェブマガジン〜」の執筆を担当。

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