前年比1.5倍 なぜJクラブは国際試合をするのか…関係者が語る”やらない理由が少ない”訳【コラム】
チームとして休養は当然考慮
7月20日、21日の試合をもってJ1リーグは3週間の中断期間に入る。再開は8月7日。この機会にチームはコンディションを整え、補強した戦力をフィットさせ、ここまでの戦いの反省を踏まえながら残り試合での上昇を目指すことになる。
そしてこの期間には、多くチームが海外クラブとの試合を組んでいる。2023年に比べると1.5倍以上の試合が予定されており、また去年はあった海外クラブ同士の対戦はなくなって、すべてJクラブと海外クラブの対戦になった。また、開催地も全国に広がっている。
いつもは国際試合と言えばAFCチャンピオンズリーグ(ACL)や日本代表のゲームだが、こうやっていろいろなクラブが国際試合をすることで多くの選手が経験を積むことができるだろう。
一方で疑問に思えることもある。この時期に試合を組んで「大丈夫」なのか、ということだ。「大丈夫」とは、「前半戦での疲労をこの期間で癒さなくていいのか」「コンディション調整のためには休んだほうがいいのではないか」、そして「チームの成績を考えると試合をするよりもトレーニングのほうがいいのではないか」、「この試合のために経済的な負担が生じるのなら補強に回したほうがいいのではないか」、ということだ。
そこで、複数のクラブ関係者に匿名を条件として内情を聞いた。
まず、「前半戦での疲労をこの期間で癒さなくていいのか」「コンディション調整のためには休んだほうがいいのではないか」という2点については、チームとして休養は当然考慮するということだった。
そしてリフレッシュの日を挟みつつトレーニングをするが、この中断期間にも練習試合を入れて試合勘などを保つようにしており、その中に国際試合を組み込んでいるということだ。また、練習試合ではリーグ戦のような試合と同じような感覚を保つことが難しいため、演出までしっかりあるゲームをやり、普段は対戦したことのない相手と対峙することで緊張感を持って戦えることを狙いとしているという説明だった。
国際試合ではJクラブにも一定額の収入が保証されている
「チームの成績を考えると試合をするよりもトレーニングのほうがいいのではないか」という点に関しても、トレーニングは確かに必要だが、それだけでは完成度がどこまで上がっているか、はっきりとは分からない。そのために練習試合をしなければならないが、多くのチームが九州で合宿をしているシーズン前のキャンプとは違って、J1チーム同士で組むのは移動距離が遠い場合があって難しく、また移動のために時間を割くのももったいないので、このような国際試合で調整するということも1つの手段である、という。
そして、最も大切な「この試合のために経済的な負担が生じるのなら補強に回したほうがいいのではないか」という点がある。この国際試合に大きな経済的負担があるのなら、果たしてそこまでしてやるべきかという問題だ。
これは、国際試合ではJクラブにも一定額の収入が保証されているということだった。リスクはプロモーターが持っており、Jクラブがこの試合で赤字になることはない。そのため、むしろこの試合をすることで収入が上がるため、クラブにとってやらない理由のほうが少なくなる。
また、このほかのプラスの面としては、日頃スタジアムに足を運んでくれているファン以外も来るため、その後の集客に結び付けられるのではないかという期待が持てるという点も挙げていた。一度スタジアムまで行くことで、通うことへの精神的ハードルが下がることも考えられるという。
これだけの理由があって、多くのクラブが積極的に国際試合を行っている。
ただ、見に行くほうの一番の問題はチケット代の高騰だろう。また、マッチメイクされた時点では想定されていた選手が出場しない可能性もある。今回のシュツットガルトなどは伊藤洋輝がバイエルンに移籍してしまったため、まさにそうだろう。
本当に面白いのは来日クラブではなく必死にポジションを掴もうとするJリーガーたち
相手チームがどこまでレギュラーに近いメンバーを出してくるかというのも分からない。たぶん主力選手については何分以上プレーするという時間が決められているのだろうが、それも詳しくは分からない。
そう考えると、やってくる海外クラブのファンの人は2024-25シーズンで台頭しそうな選手を探すという楽しみがあるだろう。Jクラブのファンは、自分たちのチームがどこまでできるか、あわよくば有名海外チームを倒すところを見に行くのが楽しいはずだ。
そしてそれ以外の、なんとなく国際試合だから行ってみようか、という人には海外のクラブのことももちろんだが、ぜひJクラブのここまでの戦いについても調べておくことをお勧めしたい。海外クラブの選手たちはシーズン前にポジションを争っているという立場だが、Jクラブの選手はこれから後半戦にかけて、来季の契約を勝ち取らなければいけない状況の選手もいて、より切迫感があるからだ。
ところが、こういう試合のプロモーションは、だいたい来日チームの紹介に偏りがちだ。だけど本当に面白いのは、もう選手間の序列が見えているなかで、必死にポジションを掴もうとしているJクラブの選手たちであるのをお忘れなく。じゃあそのJリーガーたちの情報をどこで見ればいいかというと……あなたが見ているこのサイトなんか、すごくいいんじゃないですか?
【2024年の国際試合】
7月24日 C大阪vsドルトムント(長居)
7月24日 磐田vsスタッド・ランス(ヤマハ)
7月24日 鹿島vsブライトン(国立)
7月25日 G大阪vsレアル・ソシエダ(パナスタ)
7月27日 神戸vsトッテナム(国立)
7月27日 清水vsスタッド・ランス(日本平)
7月28日 京都vsシュツットガルト(サンガスタジアム)
7月28日 東京Vvsブライトン(国立)
7月30日 札幌vsセビージャ(札幌ドーム)
7月31日 町田vsスタッド・ランス(町田)
7月31日 浦和vsニューカッスル(埼玉スタジアム)
8月01日 広島vsシュツットガルト(エディオン)
8月02日 鳥栖vsセビージャ(駅前)
8月03日 神戸vsスタッド・ランス(ノエビア)
8月03日 横浜FMvsニューカッスル(国立)
【2023年の国際試合】
7月19日 横浜FMvsセルティック(日産)
7月22日 G大阪vsセルティック(パナスタ)
7月23日 横浜FMvsマンチェスター・シティ(国立)
7月25日 パリ・サンジェルマンvsアル・ナスル(ヤンマー)
7月26日 バイエルンvsマンチェスター・シティ(国立)
7月27日 アル・ナスルvsインテル(ヤンマー)
7月28日 C大阪vsパリ・サンジェルマン(ヤンマー)
7月29日 川崎vsバイエルン(国立)
8月01日 パリ・サンジェルマンvsインテル(国立)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。