「恵みの声」が最大の武器 J1→欧州で飛躍…パリ五輪主将の成長物語「スゴい選手になる」

この世代を引っ張ってきた藤田譲瑠チマ(写真中央)【写真:徳原隆元】
この世代を引っ張ってきた藤田譲瑠チマ(写真中央)【写真:徳原隆元】

【大岩ジャパン18人の肖像】MF藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)は19年の世代別デビューから主力に定着

 大岩剛監督率いるU-23日本代表は、今夏のパリ五輪で1968年メキシコ五輪以来、56年ぶりのメダル獲得を狙う。4位でメダルにあと一歩届かなかった東京五輪から3年、希望を託された大岩ジャパンの選ばれし18名のキャラクターを紐解くべく、各選手の「肖像」に迫る。

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 中盤の底でプレーする藤田譲瑠チマのオフ・ザ・ボールの振る舞いを見て欲しい。背筋を伸ばした凛とした姿勢で周囲をスキャンしながらスペースを消し、日本陣内に侵入を試みる相手選手へのケアを怠らず、同時にチームメイトに向かって指示を出す姿は頼もしい。

 コーチングは藤田の武器であり、味方にとっては恵みの声である。“大岩ジャパン”で藤田とともに主将を務めることの多い山本理仁は、“藤田の声”を「譲瑠の声は全員が聞こえる声。みんながボケっとしているときにやっぱり響くし、チームを引き締める」と感心する。

“藤田の声”の原点は、小学生のときに所属した町田大蔵FCのコーチが「話すことは誰でもできる」と教えてくれたから。プロになった今も、ピッチに響き渡るように声を上げるのは「その延長だと思います」と本人は言う。

 2019年7月、藤田は“国際ユースサッカーin新潟”で年代別日本代表に初選出。その3か月後にはU-17ワールドカップ(W杯)の主軸としてプレーした。

「ハーフタイムに個人で話す時間が設けられていて、自分もいろいろ喋らせてもらいました。それからゴリさん(森山佳郎監督)が話すという流れでした。あのときは自分も乗っていたし、仲間に指示を出しながら思い通りのプレーができている感じもありました。その回数を増やしたいと思いながら、声を出していました」

 本番直前の駆け込み選出だったが、プレーでもコーチングでも、藤田が物怖じすることはなかった。

 ベルギー1部シント=トロイデン(以下STVV)に加入しておよそ1年。ピッチの上でのコミュニケーションは英語、身振り、表情を駆使しながら問題なくこなす。肝心のパフォーマンスは、シーズン中盤戦まで控え暮らしが続いたが、昨年12月27日にスタメンに抜擢されるとゴラッソを決め、それから先発出場の機会を一気に増やした。

 STVVの試合開催日にファンの話を聞くと、DFマッテ・スメッツ、FWアブバカリ・コイタと並んで「技術と戦う姿勢を見せる藤田が好き」という声が多かった。高いテクニックとともに、やはりファンは、藤田のボールのないところでのプレーを評価しているのだ。

 U-23アジアカップで日本が優勝し、藤田は大会のMVPに輝いた。ベストバウトは準決勝の対イラク。藤田はハーフウェーライン手前からイラクのDFライン背後に正確なミドルパスをFW細谷真大に通し、先制ゴールをアシスト。さらに敵陣のバイタルエリアで絶妙のワンタッチスルーパスで、チームを2-0に導くFW荒木遼太郎のゴールもアシストすることで、パリ五輪行きを決定付けた。

 ボックス・トゥ・ボックス型MFの藤田は、守備ではピンチの芽を事前に摘み、攻撃ではチャンスの訪れを機敏に察しながらピッチの上を惜しみなく走り回った。そして味方を適度な距離と角度を保ちながらサポートし、「困ったらいつでも俺にパスを戻せ」というメッセージも送っていた。

 攻守に渡ってハイレベルなプレーを披露する藤田に対し、関係者は「1対2などの数的不利でもボールを奪うとか、無理の利く選手になれば強烈にスゴい選手になる」と期待を寄せる。

 テクニック、フィジカル、タフネス、戦術眼に加え、響き渡る声を駆使しながら、藤田はさらなる高みを目指してパリ五輪に挑む。

(中田 徹 / Toru Nakata)



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中田 徹

なかた・とおる/1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグなどを現地取材、リポートしている。

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