メッシ不在で際立ったアルゼンチンの強み 欧州との決定的な違い…南米特有の“ファウル”【コラム】

コパ・アメリカを連覇したアルゼンチン代表【写真:ロイター】
コパ・アメリカを連覇したアルゼンチン代表【写真:ロイター】

アルゼンチン×コロンビアの南米選手権決勝…現代では珍しい10番対決

 リオネル・メッシのアルゼンチンか、それともハメス・ロドリゲスのコロンビアか。南米選手権(コパ・アメリカ)2024の決勝は、現代では珍しい10番対決だった。

 どちらも飛び切りの10番がいて、その能力を生かすためにあえて組織の外に置いている。メッシは4-4-2システムのFW、ハメスは2トップの背後、4-2-3-1システムのトップ下など特定のポジションではなかったが、どちらも守備組織からは切り離されている。守備負担を最小限に、残りの選手たちでも攻守が回るようにチームが作られていた。

 10人のチームにエクストラとしてメッシ、ハメスが載せられている感じ。どちらもあまりボールタッチは多くない。しかし、ボールが渡った時は高い確率で決定的なプレーをする。ゴールを生み出す数分、あるいは数秒間。そのためにフィールドにいる存在と言えるかもしれない。

 今どき、ここまで特別扱いは珍しい。けれども2人にはそれだけの価値があり、その珍しい2チームがファイナルに進んできたのは偶然ではないだろう。

 ただ、勝負を決めたのはメッシでもハメスでもなかった。

 メッシはようやくエンジンがかかり始めた後半に負傷でリタイヤ。ベンチで泣いている姿がテレビカメラに映し出されていた。ハメスも正確なパスで攻撃を牽引したがフアン・キンテロと交代。キンテロはハメス以上に典型的な10番タイプだが、勝負の延長戦はメッシもハメスもいなかった。

 決勝点はラウタロ・マルティネス。スーパーサブとして大会MVP級の活躍をしたわけだが、アルゼンチンの勝因はやはり守備だったと思う。

 シュート数はアルゼンチン8本に対して、コロンビアは17本。枠内シュートこそアルゼンチンが1本だけ優っていたが、ボール支配率もコロンビアが56%とやや優勢だった。決勝までボール支配率では常に相手を圧倒していたアルゼンチンが、はじめて守勢になっていた。だが、そこで逆に本領が発揮された。

 同時期に開催されていた欧州選手権(EURO)2024と比べて明確に違っていたこととして、コパ・アメリカはとにかく試合がよく止まる。ファウルが多いからだ。

1対1で勝つことを前提にしている南米、アルゼンチンの鬼気迫る対応

 基本的に南米は1対1で勝つことを前提にしている。欧州も1対1の戦いは熾烈だが、組織で守ろうとしているのでやたらとファウルするわけではない。

 危ない場面では躊躇なくファウルで止めるけれども、南米のように場所を問わずということはなかった。1対1で勝てなければ、少なくとも負けないようにしなければならないので、南米のゲームはファウルが多くなり、さらにプレーが止まるたびに主審に話しかけたり、相手と揉めたりしているので、そのたびにゲームが止まる。

 このコパ・アメリカ特有の戦いのなかで、アルゼンチンの1対1の強さは鬼気迫るものがあり、シュートブロックへの身体の投げ出し方、ここという場面でのファウルなど気にしない深すぎるタックルは南米勢の中でも頭1つ抜きん出ていた印象である。

 メッシがいなくなったことで、むしろ守備組織は強靭化。力づくでコロンビアを寄り切るような勝ち方だった。

 強豪は強豪らしく、中堅は中堅らしく。欧州、南米を問わず立場に合わせて合理的にプレーするようになった結果、洗練されているものの似たようなチームが増えてきた。そんななか、アルゼンチンとコロンビアはまだ野生を失っておらず、迫力のあるファイナルだった。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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