パリ五輪落選で実感「力がない」 欧州組の“溢れる才能”も無念…漏れた逸材たち【コラム】

バングーナガンデ佳史扶、山田大樹、鈴木海音【写真:徳原隆元、Getty Images】
バングーナガンデ佳史扶、山田大樹、鈴木海音【写真:徳原隆元、Getty Images】

本大会メンバー18人から落選、無念味わった大岩J招集歴のあるタレントたち

 U-23日本代表の大岩剛監督はパリ五輪に臨む18人のメンバーとバックアップ4人を発表。24歳以上の選手を3人まで招集可能なオーバーエイジ枠を1人も招集せず、18人すべてU-23の選手で構成されることになった。夏に欧州移籍の可能性があるとされるMF松木玖生(FC東京)や所属クラブ側が派遣に難色を示したMF鈴木唯人(ブレンビーIF)をはじめ、これまで大岩ジャパンに招集された選手でも最終メンバーに残れなかった選手たちがいる。その一方で、DF濃野公人(鹿島アントラーズ)のように、開幕戦からJ1でスタメン出場を続けながら大岩ジャパンに一度も招集されなかったタレントも少なくない。

 これまで五輪代表に選ばれず、その後、A代表の主力に定着したり、ワールドカップ(W杯)に出場した選手は枚挙にいとまがない。過去にはアテネ五輪のメンバーから外れたGK川島永嗣(ジュビロ磐田)は4度のW杯を経験。同大会を逃した長谷部誠氏は南アフリカW杯でゲームキャプテンを任されたあと、ブラジルW杯、ロシアW杯でも主将としてチームをまとめた。

 記憶が新しいところではリオ五輪の招集から漏れたMF鎌田大地(ラツィオ→クリスタル・パレス)が森保ジャパンの主力としてカタールW杯に出場。東京五輪でメンバー外だったDF伊藤洋輝(シュツットガルト→バイエルン・ミュンヘン)やFW町野修斗(ホルシュタイン・キール)がそこから大きく成長してA代表に。五輪代表を兼任していた森保一監督の下で、カタールW杯の最終メンバーに選ばれている。

 カタールW杯後、東京五輪までの代表活動に一度も招集されなかったDF毎熊晟矢(セレッソ大阪→AZ)がアジアカップに招集されたり、当初は東京五輪のエース候補で、本大会のメンバーに選ばれなかったFW小川航基(NECナイメヘン)が4年3か月ぶりのA代表復帰を果たして、現在は東京五輪の主力だったFW上田綺世(フェイエノールト)とA代表の1トップを争っている。そうした歴史を振り返るだけでも、パリ五輪でメンバー外となった選手たちには前向きに奮起してもらいたい。

 そのなかでも筆者が注目する選手を挙げたい。GKでは松木や鈴木唯と同じく移籍の可能性がメンバー外の理由とされる鈴木彩艶(シント=トロイデン)を除くと、山田大樹(鹿島アントラーズ)が筆頭格に挙げられる。190センチという恵まれたサイズで、左利きの山田はU-23アジア杯でメンバー入りしたが、所属クラブの鹿島でも現状2番手扱いに。パリ五輪に招集された小久保玲央ブライアン(ベンフィカ→シント=トロイデン)、野澤大志ブランドン(FC東京)に続く3番手という位置付けは否めなかった。

パリ行き有力候補の1人だったDF鈴木海音はバックアップメンバーに

「アジアカップから自分の立ち位置、置かれた現状っていうのは分かっていて。どういう振る舞いをしなきゃいけないか、どういうことを求められているかというのは自分でも考えながらやっていたし、正直言ってオリンピックに選ばれなかったですけど、そこに期待してなかったというか。言葉は分からないですけど、そこまでの力がないというのが現状だと思う。そこで落ちたから腐るとかはなくて、選ばれなかったからこそ成長できるとか。鹿島で反骨心が改めて芽生えてきた。全力でやって、試合に出てからですね。代表に行きたいというのは」

 パリ五輪のメンバー外という結果をそう受け止める山田は天皇杯3回戦の藤枝MYFC戦で、雨の降りしきるなかでも鹿島のディフェンスを最後方からしっかりと統率。味方のハンドによるPKで先制点を献上したが、粘り強いゴールキーピングで終盤の逆転勝利を支えた。山田は「現状リーグ戦に出てないですけど、今充実した練習もできてるし、この基準をもっと引き上げることで可能性が広がる。今後の成長をもっと早めることができると思う」と前向きに語った。

 最終ラインではこれまで大岩ジャパンの常連だったDF内野貴史(デュッセルドルフ)やDFバングーナガンデ佳史扶(FC東京)、大岩監督もポテンシャルを高く評価する欧州組のDFチェイス・アンリ(シュツットガルト)などが選外に。また有力候補の1人だったDF鈴木海音(ジュビロ磐田)もバックアップメンバーにとどまった。鈴木海はその結果が出た翌日、東京五輪代表のコーチでもあった磐田の横内昭展監督から「次はA代表だな」と声をかけられた。

 バックアップメンバーの鈴木海は「いつ呼ばれてもいいようにというのはもちろん僕の中にありますけど、頭の中には入れなかったっていう思いがある」と語る。これからも、その悔しさを忘れることはないという鈴木海はかつて、アテネ五輪のメンバー外になった同僚の川島から「もう目指すのは1つだけだな」と声をかけられた。

「すごく前向きにもなれたし、あの瞬間、そこを目指さないといけないなって。もちろんもともと、目指していたものではありますけど、目先の目標がパリオリンピックだったので、そこはひと区切りというか。次に向けて、自分はもっと成長していかないと、成長速度を上げていかないと、そこに食い込んでいけない」

 奇しくも磐田のアカデミーの先輩である伊藤も東京五輪のメンバー外から、所属クラブだったシュツットガルトで成長を大きくアピールして、1年半後のカタールW杯にメンバー入りしている。鈴木海の場合はバックアップメンバーという立場を考えても、ここからの成長次第で近い将来のA代表、そして2年後の北中米W杯に食い込んでいく可能性は十分にあるだろう。

五輪出場を逃した面々は多数…北中米W杯を目指すA代表入りへ名乗り上げるか

 磐田は7月14日のJ1リーグ第23節で湘南ベルマーレと対戦する。その湘南には、鈴木海と同じく大岩ジャパンの常連でありながら、パリ五輪のメンバーから外れたMF田中聡がいる。左利きで高いボール奪取力を持つ田中について「相手にいたらすごく嫌な存在」と実力を認める鈴木海は「お互い目指してきたパリオリンピックに行けなかったので。そういうなかで切磋琢磨していきたいと思うし、そういう悔しさはお互いすごく持ってると思う」と語り、お互いに悔しさをJリーグのピッチでぶつけ合いたいという。

 パリ五輪世代には田中や松木のほかにもMF松岡大起(アビスパ福岡)やMF福井太智(アロウカ)、MF山根陸(横浜F・マリノス)といったこの世代の有望選手がいる。そうしたなかで今回の18人に選ばれたMF藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)などが、順調に成長してA代表の主力に定着することも期待したいが、攻撃的なポジションで殻を破りつつあるMF武田英寿(浦和レッズ)やJ1王者で売り出し中のMF山内翔(ヴィッセル神戸)など、個性的なタレントがパリ五輪のメンバーを追い越していってもおかしくない。

 アタッカーでは縦の突破力とフィニッシュでブレイク中のFW横山歩夢(サガン鳥栖)、濃野と同じ関西学院大の出身で、驚異的なドリブル能力を持つMF倍井謙(名古屋グランパス)、東京ヴェルディ戦での60メートルドリブル弾が話題を集めたMF古川陽介(ジュビロ磐田)、抜群のスピードで敵陣をかき回すFW小見洋太(アルビレックス新潟)、変幻自在の仕掛けと正確なクロスを誇るMF角昂志郎(筑波大/ジュビロ磐田入り内定)など、個性的なタレントが多い。

 インサイドのポジションでは大岩ジャパンの招集歴があるFW植中朝日(横浜F・マリノス)の奮起も期待される。もちろんバックアップメンバーとなったMF山田楓喜(東京ヴェルディ)もきっかけ1つでA代表の有力候補になり得る選手だ。FWは木村勇大や染野唯月(ともに東京ヴェルディ)、内野航太郎(筑波大)といった国内のタレントに加えて小田裕太郎(ハーツ)や2004年生まれの福田師王(ボルシアMG)といった欧州組もいる。

 まずはパリ五輪の18人に選ばれたメンバーが無事に本大会を戦い抜き、金メダル獲得というビッグニュースを日本に届けてくれることを願っているが、年齢制限のないA代表に関しては今回メンバー外だった選手がA代表に食い込んで、北中米W杯を目指す競争に1人でも多く加わっていくことを期待している。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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