サッカー強豪2か国の明暗 迷走→黄金時代前夜と転落劇…アルゼンチン&イタリアの今【コラム】
基盤のプレースタイルも似ているアルゼンチン代表とイタリア代表の今
アルゼンチン人の友人いわく、アルゼンチン人とイタリア人はとても似ているそうだ。
「試合前に国歌を力一杯歌う。気合が入りすぎて目がイッちゃってる選手がいる。その瞬間、野獣に変わる」
球際の強さ、守備力、そして巧みな足技と速さのあるアタッカーによるカウンターアタック。基盤となっているプレースタイルも言われてみればよく似ている。
アルゼンチン代表チームはもともと二面性があり、初優勝した1978年の時のようなウルトラ・アタッキングなスタイルもあるのだが、主としては堅守速攻だろう。年末になると、ある試合が放映されるのが恒例だそうで、その試合でアルゼンチンの人々は大いに盛り上がり、自分たちのアイデンティティーを確認するという。
その紅白歌合戦代わりの国民的試合とは、1990年ワールドカップ(W杯)のブラジル戦だそうだ。
満身創痍のディエゴ・マラドーナはただ立っているだけ。ブラジルに圧倒的にボールを支配され、嵐のような攻撃にひたすら耐える。しかし、耐えに耐えたあと、マラドーナが乾坤一擲(けんこんいってき)のドリブルを開始。ブラジルのDFを全員引き付けてクラウディオ・カニージャへラストパスを送り、カニージャが流し込んで1-0という試合である。
もっと圧勝した試合があるはずなのに、アルゼンチン国民が感動するのはマゾ気質丸出しのような一戦なのだ。
忍の一字という点では、イタリア代表も負けていない。
EURO(欧州選手権)2000の準決勝は前半に退場者を出しながら10人でオランダの猛攻に耐え続けた。2度のPKも阻止して120分間を0-0で終えると、PK戦で勝利した試合が印象的だった。
今、兄弟のようなアルゼンチンとイタリアが明暗を分けている。
カタールW杯に優勝したアルゼンチンはコパ・アメリカ(南米選手権)2024でも決勝進出を果たした。メンバーは2年前と同じで、コパ・アメリカ連覇を果たせば黄金時代と言っていいだろう。
ただ、戦い方は地味だ。優勝したW杯もそうだった。しかし、リオネル・メッシという神輿を担ぐハードワーカーたちの力闘は、いかにもアルゼンチン人好みと言えるのではないだろうか。世紀のスーパースターを持ったがゆえに、どうチームを機能させるかで迷走した時期を経て、ついに回答を掴んでいる。マラドーナを担いだ時と同じく、メッシ以外は身を粉にして戦い抜くシンプルなスタイルだ。
戦術的な大転換を行ったイタリア、鉄壁の守備は見る影もなく…
一方、イタリアはEURO2024のラウンド16でスイスに0-2。4試合で1勝しかできずに大会を去っている。
4年前、戦術的な大転換を行った。スペインのようにパスをつなぐスタイルに変わった。EURO2020の優勝は新生イタリアの偉大な第一歩になるはずだった。ところが、今回のチームはそれがイタリアなのかどうか分からないような有様になっている。
鉄壁の守備は見る影もなく、ボールを保持しても技術とアイデアが足りずにただ持たされているだけ。十八番のカウンターの鋭さも消えていた。弱くはないが、何が取り柄なのか全く分からない状態。普通にスイスに完敗を喫した。
ドイツやイングランドも古いプレースタイルからの脱却を試み、成功を収めているので、イタリアもその過程にいるだけなのかもしれない。ただ、ドイツとイングランドも自らのアイデンティティーを失ったままのようにも思える。モダンで強いけれども、かつての強烈な個性は感じられない。
自分たちの根本にある特徴の維持と変化し続けるサッカーの中で勝ち続けていくこと。欧州の強豪も、やがてはアルゼンチンのように着地点を見つけられるのだろうか。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。