黒田監督「高校の指導者だったら説得していたかも」 痛恨離脱も23歳MFの欧州挑戦を認めた訳
平河悠は名古屋戦を最後に、海外移籍を前提にチームを離脱
U-23日本代表MF平河悠はJ1リーグで首位に立つFC町田ゼルビアを離れ、イングランド2部ブリストル・シティーに期限付き移籍することが確実視されている。J1ラストマッチとなった7月6日の第22節名古屋グランパス戦後は、チームメイトたちから彼の活躍を期待する声がいたるところで聞かれた。
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佐賀東高時代は世代別日本代表に選ばれることや海外移籍することはもちろん、プロになることも想像できていなかったという平河だが、山梨学院大に在籍していた2021年に特別指定で加入すると、ランコ・ポポヴィッチ監督(現鹿島アントラーズ)に重用されてレギュラーに定着。在籍した約3年間を通して、レギュラーとしてサイドを駆け抜けてきた。
平河が在籍していた3シーズン、クラブはU-23日本代表に選ばれることになる平河と同じように右肩上がりの成長曲線を描いてきた。そんな男のラストマッチを1-0の勝利で飾ったあとの記者会見で、黒田剛監督は「今日で最後ということで、(平河には)いろんな思いがあったと思います。これまで約2年半しっかりと町田のサッカー、勝利に貢献してくれた選手ですので『今日は笑顔で送り出そう』『勝って送り出そう』ということをしっかりとチームに伝えて試合に入りました。気持ちを乗せてチーム全員が一生懸命、戦ってくれたと思います」と、コメントした。
当然、監督として彼の離脱は痛恨になる。だが、「高校の指導者だったら、本当に痛いので、ずっと説得していたかもしれませんが、やっぱりこれがプロだし、1年間同じメンバーで戦えないのもプロ。『これは自分の成長する時だという思考を持たなければ、長くプロでは監督できない』と1つの気づきのチャンスだと思ったので、しっかりと心から送り出してあげようと思いました」と言い、「また次なる選手たち、次の育成年代の選手たちが夢を見られる活躍を(平河が)してくれることで、必ずFC町田ゼルビアに上手く返ってくることにもつながる。そう信じて送り出したいなと思いました」と、間接的にも平河の海外挑戦がクラブのプラスになる可能性を指摘した。
経験豊富な昌子も認める実力
町田だけではなくU-23日本代表でも、ともにプレーしていたFW藤尾翔太は、この数シーズン、平河と最も長く時間を過ごした選手だろう。この試合がラストマッチになるということを知っていたという藤尾は、「悠を気持ちよく行かせるためにも、今日の試合は勝ちたかった」と、監督と同調したが「悠には『俺にアシストして行けよ』って言っていたのですが、アシストはしてくれなかったのでオリンピックでしてもらおうかなと思います」と、パリ五輪での再会時への注文を付けた。
平河の移籍について「ホンマに凄いなと思いますし、悔しさはない」という藤尾は、「自分もいいタイミングで話があれば積極的にチャレンジしたいなと思います」と、少なからず刺激を受けているようだった。
キャプテンのDF昌子源も、「それ(平河のラストマッチ)もチームが頑張った要因」と、酷暑の中で走り切ったチームの原動力となったと試合を振り返った。そして、「僕らチームメイトじゃなくても、彼の馬力、運動量、ドリブルもそうですし、そういうところはJ1でも通用していると思いますし、彼もその手ごたえがあって、非常にいい感覚を掴んでいると思います。それを90分やりますからね、彼は。そのタフさだったり、小柄に見えてもすごく上半身はガッチリしている。脱ぐと素晴らしい体幹と筋肉を持っている。基本スタメン同士で練習をするので、あまり練習でバチバチと悠とやり合うことはありませんでしたが、うしろから見ていても推進力というか、チームが苦しい時に、1人でも行けるところまで持っていける能力がある選手はなかなか日本でも少ないと思います」と、チームメイトとして感じていた平河の頼もしさを続けた。
今シーズン、町田に加わった昌子は、「僕もこのチームに入って『みなさん初めまして』と挨拶して、みんなの情報をもらおうといろんな選手に話しかけたんです。『今年J1でもサプライズを起こせそうな選手はいる?』って聞いた時も、『J1でも通用すると思います』『悠がどれだけできるか楽しみです』と、みんな揃って悠の名前を出していました。だから、僕も『へー、平河ね』っていう感じで入りました。去年までは正直、知らなかったですね。でも、彼がいい選手だなってすぐに気づきました」と、平河の能力の高さに気づくのに、時間はかからなかったと振り返る。
そして「できたらシーズンの最後まで一緒に戦ってほしいですけど、彼のキャリア、人生を考えたらいい決断だと思うから快く送り出したいですし、U-23アジアカップの時のように彼がいなくなって勝てなくなったとは言われたくない。代わりになる選手が代わりではなく、プラスアルファの力を出せるようにやっていけたらと思います」と、平河の離脱でチーム力を落とさないことの重要性を強調した。
平河はラストゲームの取材対応でも“らしさ”
海外挑戦はピッチ内はもちろんだが、ピッチ外でも新たな日常に適応する必要がある。昌子は「そういうところも、どっちかというとノホホンとやるところがあって、物怖じもしないので。生粋のサッカー小僧みたいなところもあるし、全然大丈夫だと思います。プロフェッショナルですよ、かなり。朝早く練習場に来て、体幹(トレーニング)して、ケアをして、自分に矢印を向けてやる。若いのに自分と向き合えていますし、あの強度、あのタフさで怪我をせずにやっている。代表から帰ってきて中2日で時差があろうが、試合に出てチームを助けてくれるところもある。しっかり向こうでも、自分でしっかりできると思います。頑張ってほしいし、アイツならできると思っている選手しか、町田にはいないと思います。それくらい助けられたので」と、海外でプレー経験もある昌子は、平河の欧州での成功に太鼓判を押した。
この日、平河はチームとは別に車を手配してスタジアムを離れることになった。チーム関係者によれば、平河自身が海外に渡る前にしっかりメディア対応をしたいし、チームメイトを対応が終わるまで待たせたくないからと、自分から申し出て別の車を手配してもらったのだという。
チームメイトたちが対応を終えたミックスゾーンに1人残り、最後まで丁寧にメディアの取材に応じ、平河は約3シーズンを過ごしたホームスタジアムをあとにした。
(河合 拓 / Taku Kawai)