韓国人記者が指摘する日本の「脆さ」 森保JのW杯アジア最終予選は「厳しい戦いになる」
ホン・ジェミン記者は苦戦を前提に日本をグループ首位予想
2026年の北中米ワールドカップ(W杯)のアジア3次予選(最終予選)の組み合わせが決まり、各国が準備を進めている。グループCの日本が、オーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシアと、アジアの広い地域の国と対戦することになったのに対し、グループBの韓国はイラク、ヨルダン、オマーン、パレスチナ、クウェートとすべて中東の国との対戦となった。
この組み分けと日本のグループを韓国人はどう考えているのか。英サッカー専門誌「Four Four Two」韓国語版の編集長を務めたこともあるホン・ジェミン記者はいつもどおり冷静に分析してくれた。
ホン・ジェミン記者はグループCでの日本の優位を予想しつつ、「本当に厳しい戦いになる」と考えていた。
「長い移動距離(オーストラリア)、暑い気候(インドネシア)、スタジアムのタフな雰囲気(中東)、予測不可能性(中国)を克服しなければならない。日本は間違いなく首位に立つだろうが、本当に厳しい戦いになるだろう。サウジアラビアは2位で、オーストラリアとバーレーンが3位を争うのではないか」
日本を高く評価してもらってはいるが、ホン・ジェミン記者はアジアカップで日本の戦いぶりをつぶさに見ていた。そこで感じた日本の脆さは何だったのか。その原因は「モチベーションの欠如」だという。
「一部の選手は、ヨーロッパのトップリーグでプレーしているため、アジアカップの重要性を低く見ているのだろうか? 実際のことは分からないが、彼らは過去のW杯や所属クラブで見たのとはかなり違っていた。そして韓国代表もそういう状況とは無縁ではいられない。W杯のグループリーグで勝ち上がるよりも、アジアカップで勝つことのほうが重要だと私は思うのだが」
韓国の問題は正指揮官不在「最大のボスは監督であるべき」
一方で韓国も、アジアカップではチーム内の不和が話題になった。ソン・フンミンとイ・ガンインが衝突してソン・フンミンが指を負傷するなど、選手間に確執が生じたのだ。その後、2人は和解している。ホン・ジェミン記者はその解決には監督の存在が大きいという。
「代表チームに一番起きてほしくないことだった。フランスやオランダのような一部のサッカー大国がそのような愚かな行為をするのを見てきたし、過去に彼らがどうなったかは誰もが知っている。何人かのメンバーは一線を越え、韓国チームの精神を崩壊させた。だからこそ、次の監督は彼らに誰が“ビッグボス”なのかを示さなければならない」
ところが、韓国はその代表監督が決まらなかった。ホン・ジェミン記者は「すべての問題はチョン・モンギュ韓国サッカー協会会長にある」と手厳しい。
「稚拙な意思決定とリーダーシップの欠如が韓国サッカー界全体を混乱させている。次の監督には選手をコントロールできる強いキャラクターが必要だ。最大のボスはスター選手ではなく、監督であるべきだ」
そんな状況で迎える予選はどんな戦いになりそうか。状況は厳しそうだ。「ヨーロッパから帰国するのは長旅のためコンディショニングが非常に重要になる。しかも、韓国から相手国に直行便はない」と懸念材料がある。
だが、それでも韓国のW杯出場には自信を見せる。「韓国は前回のアジアカップの結果で誤解してはいけない。彼らにはヨーロッパのリーグで活躍しているトップクオリティーの選手がたくさんいる。ホームで5勝、アウェーで3勝。ホームで勝ち点を落とさないことが重要だ」とホームで全勝し、グループBを首位で通過すると予想した。
ただし、簡単ではないと考えてもいた。特にヨルダンはアジアカップ準決勝で0-2と敗れた相手だ。
「イラクはダイレクトに強いチームだし、ヨルダンは雷のようなカウンター攻撃を持っている。この2チームが2位を争うだろう。オマーンは4位で次のラウンドに進むことができる」
「イラクとヨルダンとのアウェーゲームは厳しいものになるだろう。ヨルダンのファンは、今年のアジアカップのいい思い出のおかげで、選手たちに大きなパワーと希望を与えることができるからだ」と警戒心は隠さない。
そして、W杯予選では時として予想外のことが起きる。もしも日本と韓国が両方グループリーグ3位になれば、4次予選では同グループになり、1998年フランスW杯予選以来の対戦をするかもしれない。アジアカップで対戦できなかったので、そうなってもおもしろいのではないか。最後にそう聞いてみた。
「両チームが拮抗した試合で激突するのを見たいのはやまやまだが、韓国も日本も3次予選でW杯の切符を逃すことはないだろう。もし、そうなったら楽しみだ」
ホン・ジェミン記者に意見を聞いたあと、7月8日に大韓サッカー協会(KFA)はホン・ミョンボ新監督就任を発表した。ホン・ミョンボ監督は現役時代、1997年から98年はベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)、1999年から2001年までは柏レイソルでプレーし、2002年日韓W杯でも活躍した。また2013から14年に一度韓国代表監督を務めている。
2014年にブラジルW杯ではベルギーに0-1、アルジェリアに2-4と敗れてグループリーグ敗退が決定。グループリーグ最終戦となったロシア戦では先制するものの、同点に追い付かれ、1分2敗で大会を終えた。その後、ホン・ミョンボ監督は辞任を表明するが韓国サッカー協会は続投を決定する。ところがその1週間後にやはり辞任を受け入れるなど、混乱の中で代表チームを去っていた。
ホン・ジェミン記者の言う「最大のボスはスター選手ではなく、監督であるべきだ」という懸念には応えられるだけのカリスマ性はある。だが今回の混乱でも分かるように、KFA内部の問題は大きそうだ。ホン・ミョンボ監督にとっても滑走路(親善試合)なしの離陸(W杯アジア3次予選)という状況は厳しい。韓国代表は新監督が決まったからといって、一息つけるということではないだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。