Jでパスサッカーは廃れたのか? “2強”川崎、横浜FMが低迷…「堅守速攻型」躍進との関係性は【コラム】

調子を落としている川崎と横浜FM【写真:Getty Images】
調子を落としている川崎と横浜FM【写真:Getty Images】

J1リーグの平均ボール支配率で上位のチームが順位表で下位に…

 シーズン前半戦を折り返した今季のJ1リーグでは、近年覇権争いを演じてきた横浜F・マリノス、川崎フロンターレが一転、苦境に。この2チームに加え、平均ボール支配率で上位のチームが順位表で下位に位置している事実がデータから浮かび上がる。「堅守速攻型」の首位・FC町田ゼルビア、昨季王者・ヴィッセル神戸らの躍進とJリーグのトレンドを踏まえつつ、その背景に迫る。

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 ポゼッションをベースとするチームの苦戦という傾向は確かに出ている。第21節まで終えた時点で、平均ボール保持率1位がアルビレックス新潟の57.7%だが、新潟は6勝7分8敗で14位。同2位の浦和レッズは57.6%で現在の成績は9勝5分7敗で9位。同3位が横浜F・マリノスの57.4%で、チームの成績は7勝5分9敗で12位となっている。さらに平均ボール保持率の4位は北海道コンサドーレ札幌、5位が川崎フロンターレだが、順位はそれぞれ15位と20位で、むしろポゼッションが高いことはマイナスにすら見えてしまう結果だ。

 その一方で首位を走るFC町田ゼルビアは43.2%とかなり低く、6位と健闘するアビスパ福岡にいたっては41.2%と最も低いポゼッションになっている。現在2位で町田を追走する鹿島アントラーズが49.1%、4位のヴィッセル神戸が49.3%とわずかながら50%を下回っており、ボールを大事に動かすイメージの強い3位のガンバ大阪も、50.5%と実際それほどボール保持率は高くはない。そうしたことからも、ボールを保持することよりも、縦に運んでいち早くゴールを目指すスタイルが、より良い成績に反映されているのは確かだ。

 ただ、これをもって長くボールを保持することが、必ずしもマイナスと言い切ることは難しい。大事なのはそこからチャンスを多く作り、ゴールの可能性を高めるということ。そのためのプロセスとして自陣から丁寧にボールを動かして、相手の守備を外しながら崩しに行くのか、あるいは攻守が切り替わった瞬間に、相手の守備が整わないうちに縦のスペースを狙ったり、ゴール方向に仕掛けていく選択を取るかということになる。

 ボール保持率が高い新潟や浦和、横浜FMといったチームでも、チャンスがあればポゼッションに拘らず、縦に素早くボールを運ぶ傾向は残りのJ1チームとも大きく変わらない。決定的な違いはカウンター以外の局面におけるロングボールの活用だ。現在のJリーグはハイラインで相手にプレッシャーをかける守備がトレンドになっている。ボールを奪ったあとの攻撃時には、バックラインや中盤でボールを動かして、主にグラウンダーで運んでいくスタイルとFWやサイドアタッカーにロングボールを当てて、彼らのキープやセカンドボールを拾う形で高い位置に起点を作るスタイルに大別される。

 やはり、ボール保持率が高い新潟、浦和、横浜FM、川崎などは相手の守備が整っている場合は足もとでボールを動かしながらチャンスの起点を探る傾向が強い。一方で町田や福岡は最終ラインで多少ボールを動かすことはあっても、前線にロングボールを当てて、FWのキープやセカンドボールから起点を作ろうとする。特に町田や福岡はその決断が早く、多少強引にでも前線に当てたり、あるいはディフェンスの背後に蹴ってしまって、走り合いから擬似的なカウンター局面を作り出してチャンスにする傾向が強い。

昨季J1王者の神戸は昨季からややイメージチェンジ

 昨季J1王者の神戸に関して言うと、昨年は町田や福岡のような傾向が強かったが、今シーズンはロングボールとグラウンダーからのビルドアップを使い分けるスタイルにややイメージチェンジしており、そこはほぼ50%というボール保持率にも表れているかもしれない。49.1%の鹿島も少し似た傾向はあるが、ランコ・ポポヴィッチ監督は相手の守備が揃っていても、ゆっくりうしろでボールを動かすことを好まず、カウンターでなくても68メートルの幅で縦に運べるところを見出して、早く攻め切ろうとする。

 G大阪の場合は相手の守備が整っている時にロングボールを多用することはないが、相手ボールになった時にハイプレスで即時奪回を狙うのか、素早く引いてローブロックを敷くのかという判断基準で、後者を選択する。中谷進之介をディフェンスリーダーとして、しっかりと失点を防ぎながら、マイボールになったらチャンスがあれば素早いカウンターで、宇佐美貴史を起点に攻め切る。それができない時はダニエル・ポヤトス監督が植え付けてきたポゼッションから丁寧にボールを回して崩しの起点を探すという判断の整理が素晴らしい。

 川崎も数年来に比べると、少しそうした傾向は見られるが、G大阪ほど状況判断が整理されておらず、主力DFの相次ぐ怪我もあってか、即時奪回できないシチュエーションでの守備が不徹底になってしまっている。横浜FMに関してはできるだけボールを高い位置で奪い切ろうという思考や、ロングボールを使うチームが増えている状況で、リスクのほうが大きくなっていることは否めない。それに加えてACL(AFCチャンピオンズリーグ)ファイナルまで戦ったことで、日程がイレギュラーになり、怪我人を含めたコンディションが安定しないまま過密日程をこなさなければいけないので、心身ともに整理されていないという印象だ。

 また数年来、即時奪回やハイプレスが守備の理想のように言われてきたが、そうした傾向を逆手に取ったロングボールやオープンスペースからの縦に速い攻撃が増えるなかで、高い位置でのボール奪取にこだわらず、ミドルブロック、ローブロックを構築したところから相手の攻撃を限定して、ブロック内プレスでボールを奪うことが上手いチームが増えている。名古屋グランパスや柏レイソル、昇格組のジュビロ磐田や東京ヴェルディがそうだ。

 新潟も攻撃はポゼッション志向が強いものの、守備は現実的に失点しないための構築ができているので、そこから大崩れすることがない。新潟について現在14位の要因を攻撃面で補足すると、ポゼッションからのチャンスメイクが上手くいっていないわけではないが、そこからボックス内で確実にチャンスを決め切ってくれるストライカーがいないのは成績に影響してしまっているところがある。現在のFW陣では谷口海斗が最も頼りになると思うが、G大阪と並び、最もバランスの取れたサッカーをしている新潟に、例えばセレッソ大阪のレオ・セアラのようなFWが加われば。後半戦でも上位進出は可能と見ている。

横浜FMや川崎は立ち位置を見失いかけている部分も…

 話を戻すと、そういうミドルブロック、ローブロックが整理されたチームに対してはポゼッションからチャンスを作れても、センターバックとボランチを中心にゴール前の決定的なスペースを空けてくれず、ハーフスペースやペナルティーエリア脇のポケットなども、なかなか与えてもらえない。そうなると相手陣内に押し込んでもミドルシュートだったり、ピンポイントを狙ったクロスボール、個人で勝てるタイプのFWを使ってこじ開けるようなフィニッシュに頼らざるを得ない。その分、セットプレーのチャンスは増えるが、そこからの得点力も多少、順位に影響しているように思う。

 結局、ボール保持率を上げるためにサッカーをするわけではない。横浜FMや川崎はこれまで構築してきたものを簡単には変えられないなかで、ライバルの変化に対して立ち位置を見失いかけているところがある。戦術というのは所詮“いたちごっこ”で100%の正解などない。もちろんポゼッションからの崩しに拘ってチーム作りして行っても良いが、それはそれで周りの変化や対策に向き合って、上回っていくための駆け引きとクオリティーというものには向き合っていく必要がある。

 確かに現在の流れは横浜FMや川崎のスタイルから見ると多少、逆風にあるかもしれないが、シンプルにポゼッションとハイプレスを活用するチームの質が低下傾向にあるとも言える。川崎にいたってはボール保持率が5位の54.7%という時点で、ライバルの傾向云々を抜きに、支配的なサッカーができていないとも言える。これが従来のように60%保持して、なお現在の成績なら「ポゼッションがトレンドに合っていない」と、より強く言えるかもしれないが……。

 そのなかでG大阪が今のスタイルを変えないまま、もう少しボール保持率を引き上げてきたり、あるいはボール保持率1位の新潟が内容どおり、成績が上がってくると、周囲の評価もまた変わってくるかもしれない。もちろん横浜FMや川崎の奮起にも期待したい。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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