優勝から3年…堅守イタリアは「面影もない」 「普通のチーム」に成り下がったワケ【コラム】

前回王者イタリアはEUROで無念の敗退【写真:ロイター】
前回王者イタリアはEUROで無念の敗退【写真:ロイター】

スイスに敗れEURO16強で敗退のイタリア、カテナチオと呼ばれた堅守の面影なし

 欧州選手権(EURO)2024で前回優勝のイタリアがラウンド16で姿を消した。

 対戦相手のスイスがいいチームだったのは確かだが、それ以上にイタリアのプレーぶりが低調すぎた。たまたま調子が悪いというものではなく、全く勝てそうな要素がない。

 かつてカテナチオと呼ばれた堅守は面影もなく、前からプレスしても後方に人を余らせているので人が足りずスイスに楽々と運ばれるだけ。引いて守ってもいっこうにプレスがかからず、奪いどころを作れない。押し込まれたらカウンターができないし、つないで押し返すこともできないので自陣からしばらく出られない。2点を先行したスイスが自陣に構えるようになると、ようやくボールを保持できるようになったが、保持しているだけでほとんど崩せなかった。

 守備が弱く、カウンターアタックを打てず、保持もできないし保持しても崩すアイデアと技術が足りない。これだけ取り柄がなければラウンド16を勝ち抜けられるはずもない。

 イタリアの凋落は2006年ワールドカップ(W杯)優勝から始まっている。

 2005年にセリエAの大規模な不正疑惑が浮上。スキャンダルがあると強くなるアズーリ(イタリア代表の愛称)らしくW杯では優勝したものの、セリエAは大きな痛手を負った。2010年W杯はグループリーグ最下位。14年もグループリーグ敗退。18年と22年は予選敗退で本大会にも出られていない。

 かつて世界最高峰とも言われたセリエAだが、5大リーグの4、5番目の地位に降下。この環境の変化が代表の不振につながっている。

 ラウンド16で対戦したスイスの先発メンバーは全員が国外のリーグに所属していたのに対して、イタリアはGKジャンルイジ・ドンナルンマ(パリ・サンジェルマン)のみ。所属クラブのグレードに差はないが、多くのイタリア選手は国外で揉まれた経験がない。選手輸入国と輸出国の違いだ。

 イタリアと同じ選手輸入国でも、イングランド、スペインは国内リーグの競争力が高く、そこで頭角を表した自国選手は鍛えられている。レベルダウンしたセリエAではそこまでの厳しさがない。かといって、国外に有力選手がどんどん出ていくわけでもない。元々自国から出る選手が少ないのだが、かつてはリーグがトップレベルだった。現在はプレミアに大きく水を開けられていて、そこに選手をほとんど供給できていない時点でトップクラスの選手がいないことを意味している。

 そして戦術の変化。EURO2020ではロベルト・マンチーニ監督の下、守備中心主義からの脱却に成功して優勝している。ただし準決勝と決勝はPK戦での勝利で、古参のジョルジョ・キエッリーニ、レオナルド・ボヌッチの活躍があった。優勝できたのは伝統の守備力のおかげでもあったわけだ。

 かつての栄光を知る世代が去ると、モデルチェンジしたイタリアは普通のチームになってしまった。これはドイツ、イングランドも経験した近代化に伴うアイデンティティの喪失である。

 選手の質の低下、戦術変化による特徴の消失。この2つが重なったのが今回のイタリアだった。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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