宇佐美貴史、主将続投を決意させたファンからの“言葉”「ほかの選手は無理や」 どん底を救った中谷進之介の存在【独占インタビュー】

G大阪の宇佐美貴史【写真:Getty Images】
G大阪の宇佐美貴史【写真:Getty Images】

チームは16位で苦しんだ昨年…宇佐美は苦境にどう立ち向かったのか

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 首位奪取へ――。ガンバ大阪は6月30日にJ1で1位に立つFC町田ゼルビアをホームに迎える。ここまで9試合負けなし(7勝2分)と上位進出へ勝ち点を積み重ねてきた。そのなかで、主将のFW宇佐美貴史は「FOOTBALL ZONE」の独占インタビューで、今季チームが一丸となっている要因について明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全2回の2回目)

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 背番号7。G大阪にとってこの数字がどれだけ重く、偉大なものか。昨季覚悟を持って付けることに決め、キャプテンにも就任した宇佐美。だが、シーズンを通し、チームとしても個人としても苦しい時間を多く過ごすことになった。最終的には7連敗の16位でフィニッシュ。主将で7番の1年目は本当に試練だった。

「いや、もう苦しすぎて、苦しすぎて。しんどすぎて……。考えたって、考えたって、キリがなくて。でも負け続けていたし、ネガティブな声も出続けていた。その責任はあるけど、次の試合で勝てるかなんて、分からない。むしろ俺が出ない時の方が勝ち出したから、『俺、いらんやん』というのも自分に対して思った。今までは自分が帰ってきて最後、(J1に)昇格させたとか、残留させたとかタイトルを取らせたとかあったけど、いた方が勝てへんやん、と思ったのが初めてやったから。ついに自分自身で『このクラブからも不必要というふうなレッテルを貼られる時が来たんやな』といろいろ考えだすと、苦しすぎてしんどかった」

 この苦しみをどう乗り越えるか。いや、そうではなかった。宇佐美が行きついたのは「共存」すること。これまでサッカーをしていて苦しくない時期があったか。19歳でドイツの名門バイエルン・ミュンヘンへ移籍し、出場機会を得られずにホッフェンハイムにレンタル移籍した。終盤には出番も激減してG大阪へ復帰。J1昇格や三冠獲得を経験して2度目のドイツ挑戦に踏み切ったが、その道も平たんではなかった。日本へ戻ってきても残留争いなど多くの壁に悩み続けた。だからこそ、7番で主将となったシーズンで待ち受けていた“苦しみ”と、真正面から向き合った。

「何とかこの苦しさと共存できるようにならないともう無理と思って。『いやいや、そもそもサッカーなんて苦しいもんやろ?』と。苦しむことが本質で、幸せな割合なんて元々少なかった。だから、苦しんだ先に何かあるとかでもなく、もう黙って、ただただ苦しめばいいじゃないか、と。苦しんだ経験は今後絶対何かしらに生きてくるから、そこで無理して、苦しさを排除しようとかじゃなくて、もう存分に苦しんだらええやないか、と思うようになった」

 試合後、ゴール裏へ向かうと心無い言葉が聞こえてくることもあった。昨季の第33節サンフレッチェ広島戦、敵地に乗り込み0-3で敗れ、ファン・サポーターの元へ向かうと、スタンドから宇佐美に向かって「おい、お前このチームをどうするつもりやねん」という声が飛んできた。だが、宇佐美の胸をえぐるように突き刺したその言葉は、逆に主将として2シーズン目を迎えるきっかけとなった。

「だってもう無理や、ほかの選手は(キャプテンになることが)無理やろと思ったから。広島戦で1人のファンが俺に言ったことも、クラブの問題でもありながら『こんなことまで言われんのか』というふうにも思ったけど、シーズンオフに考えたときに『いや、でもやっぱほかの選手に飛ぶはずであった声は全部俺のとこで吸収できているな』と思ったし、俺のところで吸収できなければもっと分散されて、その選手のキャリアに響くようなことを言われてしまうかもしれない。新加入の選手にはさせられないし、既存の選手となった時に『もう俺しかおらんやろ』というふうな思いはあった。むしろ、それだけできれば、だいぶほかの選手の先に立って、やる意味というのもあるなと思ったから」

 苦しさと共存することを受け入れ、とことん向き合っていたから「もうちょっと出来ていなかったところを埋められれば、去年より絶対いいキャプテンなるやんという自信もあった」という。その出来ていなかったこととは。副キャプテンと協力しながら、チーム内をいい意味で“かき乱す”ことだった。

「去年はディエゴ(クォン・ギョンウォン)や(山本)悠樹が副キャプテンでいて、その2選手と、俺と3人でもっとチームのコミュニケーションの機会をぐちゃぐちゃにして、人種、年齢、仲の良さを問わずもっとかき乱してやるべきだったな、と思った。

 だから今年はシン(中谷進之介)と(ファン・)アラーノが副主将になった時、2人とコミュニケーションを取って、チームは今どういう方向に進んでいるかとか、意見をもっと聞いて。俺が悠樹とかディエゴを信頼して(責任を)渡せていたら、もっとできたと思う感覚があったなかで、今年はシンとアラーノがなってくれて、アラーノはもちろん海外国籍とのコミュニケーションを取ってくれて、あとシンがやっぱりもうすごく良いコミュニケーションをチームの中で巻いてくれている。キャプテンとしては、すごくありがたい。何もすることがない(笑)」

新たな副キャプテン、中谷進之介がもたらした“効果”「窓が全部開いた」

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 今季から加入した中谷は外国籍の選手、若手、ベテラン、何の壁もなくコミュニケーションを取り、「チームの雰囲気を陽にしてくれる」という。経験豊富な28歳で、チーム最年長の38歳GK東口順昭や35歳MF倉田秋、32歳の宇佐美とも関係を築き上げ、若手との間にも入る。その存在は大きかった。

「チームの雰囲気を本当にファッと明るくするキャラクター。けど引っ張れるし、本当に素晴らしいと思う。選手としても人としても。ガンバになかったものをバチッともたらしてくれて。あとは3分の1の選手たちが入れ替わったことによって、閉まりきっていた窓がバーンと全部開いた感じ。だから初日の練習で(福岡)将太、(三浦)弦太、シンに、アップとか、食事とか全部同じグループで固まらないようにちょっと活性化させてほしいと頼んだ。そうしたらキャンプが始まって、ほんまにバサーっと全部窓が開いてフワーッと風が入ってきた感じ。みんなめっちゃいい子たちだな、と(笑)。(鈴木)徳真や(松田)陸くん、(一森)純くんも復帰して若手も年齢問わずみんながピッチ外で活性化させてくれた」

 昨年の反省を生かしてシーズン前から全員で動いたことでチーム内が変化した。外から見て「雰囲気がいいな」と感じるのは、宇佐美や中谷を中心に1人1人がG大阪を思って行動したからだ。チームというのは小さなきっかけで良くも悪くも大きく変化する。サッカーだけをすればいいわけではない。今のG大阪が新たな歴史となり、チームの伝統を築いていくのだろう。その瞬間を目の当たりにしているのだ。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)

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