日本がサッカー強豪国に打ち勝つ方法 中堅国と差が縮まる欧州&南米選手権に見る世界の潮流【コラム】
守備力の向上で得点が入りにくい傾向、「良い守備からの良い攻撃」の日本にもチャンス
欧州選手権(EURO)のベスト16が出揃った。カタール・ワールドカップ(W杯)ベスト4のクロアチアの敗退はあったが、強豪国はほぼ順当に勝ち進む一方で、中堅国の健闘も目立っている。
ジョージア、スロベニア、スロバキアが成績上位の3位チームとしてベスト16入り。オーストリアはフランス、オランダを抑えて首位通過、ルーマニアも4チームが勝点で並ぶ激戦のF組を首位で通過している。
強豪国が大差をつけて勝利することは少なくなった。欧州だけでなく南米でも傾向は同じで、昨年開催されたアジアカップの決勝はカタールとヨルダン。日本、韓国、オーストラリア、サウジアラビア、イランの強豪は潰し合いもあったとはいえ、いずれもファイナルへ進めていない。
強豪国とその他の差が縮まっているのはずっとそうなのだが、特に近年は顕著になっているように感じる。さまざまな要因があるだろうが、フィールド上の現象としては守備力の向上で得点が難しくなった。
南米選手権(コパ・アメリカ)ではブラジルがコスタリカと0-0だった。圧倒的に攻めたのはブラジルで、それは以前と変わらない。しかし、堅い守備の前に得点できなかった。EUROの最初の2試合で完成度の高さを示していたドイツも3戦目はスイスを相手に90分の同点弾でようやくの引き分けだった。
もともとサッカーは得点が入りにくいのだが、フィジカルと守備組織力の向上によって強豪の圧力にも耐えられるようになっている。
パスワークで中央を崩し切るのは難しく、密集突破のスペシャリストであるロドリゴを擁するブラジルでもコスタリカの守備ブロックを前に得点できていない。ドイツもスイスにスペースを消され、同点ゴールはハイクロスからのヘディングだった。
強豪国にはサイドからドリブル突破のできる強力なウイングがいるが、それもダブルチームで封じられている。
そうなるとセットプレーとカウンターが鍵になるが、それについては中堅国も得意とするところで、むしろボールを保持できる強豪のほうがカウンターを食らいやすくなっている。
長期のリーグ戦ならば、自ずと実力差が結果に表れてくるが、短期的なトーナメントではその差が出にくい。今後も中堅国優位とまではいかなくても、それなりに強豪国を倒す試合は増えていくだろう。
日本代表にとって、この傾向はチャンスかもしれない。カタールW杯でも圧倒的にボールを支配されながらドイツ、スペインに勝利できたように、「良い守備からの良い攻撃」で強豪を倒すチャンスがある。一方で、アジア最終予選では僅差勝負に持ち込まれて苦戦する可能性も十分にある。よほど図抜けた攻撃力がないと守備を固めた相手から得点するのは難しく、伊東純也、三笘薫など日本の武器であるサイドアタックも封じられる二重のマークで封じ込まれるかもしれないのだ。
EUROとコパ・アメリカにおいて、食い下がる相手を強豪がどう制していくか、中堅国がいかに強国を打ち倒すか。どちらの面でも日本代表にとってかなり参考になりそうである。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。