J1リーグ前半戦“驚きのコンバート”5選 鹿島29歳FW→ボランチ起用は“今季最大のヒット”【コラム】

J1前半戦で活躍が光った”コンバート”5選手を紹介(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
J1前半戦で活躍が光った”コンバート”5選手を紹介(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

今季“驚きのコンバート”で話題を集めた代表的な5選手をピックアップ

 後半戦へ突入した今季J1リーグでトピックの1つになっているのが、これまでの主戦ポジションを変えて臨む、いわゆるコンバート選手の存在だ。見慣れないポジションでの起用にもかかわらず、中には期待以上のパフォーマンスを示す者も。ここでは代表的な5選手をピックアップし、ここまでのパフォーマンスを査定する。

■知念 慶(鹿島アントラーズ)

 言わずと知れたFWの選手だったがおそらく、コンバート起用による今季最大のヒットと言える。ボランチのポジションに、昨季の主力選手の移籍やキャプテンに就任したMF柴崎岳の出遅れ、MF佐野海舟が日本代表の活動でキャンプに参加できないなど、いくつかのチーム事情が重なった結果であるかもしれない。それでも就任1年目のランコ・ポポヴィッチ監督が適性を見抜いたこと、少々のミスがあっても使い続けたことが、現在の成功につながっている。

 川崎フロンターレ時代に磨いた“止めて・蹴る”技術はどこのポジションでも応用できることを知念も主張していたが、この4か月で開幕から進化したのが、瞬発力と身体の強さを生かしてボールを奪う守備だ。圧倒的なデュエル勝利数が注目されているが、相棒の佐野は相手との距離の詰め方が一緒に組んでいても目を見張るものがあるという。29歳という年齢ながら、このパフォーマンスを継続していけば佐野とともに、日の丸をつけるチャンスが来てもおかしくない。

■宮代大聖(ヴィッセル神戸)

“川崎の大砲”と呼ばれたストライカーはFWから1つポジションを下げた4-3-3の左インサイドハーフで、覚醒的なブレイクを果たした。最前線ではシンプルなポストプレーからワンタッチでラストパスに合わせたり、ボールを受けて少ないタッチでシュートに持ち込むシーンが多かった。しかし、FW大迫勇也という格好のターゲットマンを擁する神戸で、前を向いてボールを持つシーンが増えたことがドリブル突破力と前向きなフィニッシュを目覚めさせたと言える。

 過去3シーズンは徳島ヴォルティスで7得点、サガン鳥栖と川崎で2年連続の8得点だった宮代。ここまで7得点を挙げており、早くもキャリアハイが近付いているが、直近の試合では足踏みしており、MF井出遥也にポジションを奪われる格好になっている。機動力が高く、パスセンスが高い井出とは持ち味が違うので、吉田孝行監督は今後もうまく併用しようと考えているはずだが、高いステージを目指す宮代としては主力としての地位をさらに固めていくためにも、神戸を勝利に導く明確な結果を求めていくはずだ。

磐田大卒ルーキーが右サイドバック起用で押しも押されもせぬ主力に

■植村洋斗(ジュビロ磐田)

 ボランチを本職とする大卒ルーキーはポリバレントな能力も評価されており、MF鈴木雄斗の湘南ベルマーレ移籍で固まっていなかった右サイドバックで、早い段階からチャンスを得ることはキャンプの段階から予想はできた。驚きだったのは開幕戦から同ポジションに定着して、押しも押されもせぬ主力として、ここまで17試合にスタメン起用されていることだ。一時期、怪我のDF松原后を埋める形で左サイドバックに回ったが、右サイドでの粘り強い守備とバランスワーク、高い技術を生かしたビルドアップは大卒ルーキーという事実を忘れさせるほどだ。

 シーズン開幕まで、ほぼ無名だった植村を全国区で知らしめたのは第2節の川崎戦でのスーパーゴールだが、ここのところは攻守の安定感と引き換えに、やや思い切りが失われてきている側面もある。安定感とダイナミズムの両方を発揮できるかどうかは後半戦のさらなる飛躍の鍵になりそうだ。今でもボランチに対するこだわりは強く、植村としてはこのまま右サイドバックを突き詰めるより、ゆくゆくボランチで主力を狙っていくはず。それでも1年目から公式戦で、多くの経験を積めていることは間違いなくプラスだろう。

■中野就斗(サンフレッチェ広島)

 3バックの右アウトサイドで躍動的なアップダウンを繰り出してきたが、リベロのDF荒木隼人を欠く状況で、ミヒャエル・スキッベ監督は他のセンターバックで埋めたり、左右から中央に移すのではなく、中野をコンバートする決断を下した。スピード面が強みになることは容易にイメージできたが、空中戦やロングボールのデュエルでも強さを発揮して、跳ね返す姿は本職顔負け。

 ビルドアップなど、試合を重ねることで良くなりそうな課題はあるが、ジュビロ磐田のFWマテウス・ペイショットや東京ヴェルディのFW木村勇大など、大型FWを潰すという仕事に関しては荒木の不在を感じさせないものがある。ここまで開幕戦からすべてスタメン出場している中野だが、右ウイングバックで9試合、3バックの中央では10試合で過半数に達する。2000年生まれでパリ五輪世代より1つ上だが、3バックを導入した日本代表で、ポリバレントな才能は招集のチャンスを高めているかもしれない。

■渡邊凌磨(浦和レッズ)

 憧れだった浦和のユニフォームに袖を通した最初のシーズンだが、想定されていた4-3-3のウイングではなく、左サイドバックという新たなポジションでのチャレンジになった。FC東京でもアルベル・プッチ・オルトネダ監督時代に右サイドバックを経験しているが、左サイドは視野や身体の向き、何よりボールタッチで使う左右の割合などが違ってくる。沖縄キャンプの練習試合で初めて起用された時はぎこちなかったが、みるみるうちにアップデートして、自分のポジションにしてしまった。

 攻撃面では持ち前の推進力や打開力を発揮できてきているが、本人も認めるように、守備面は向上の余地がある。シンプルな1対1よりも、一瞬の判断が求められる局面では不安があり、例えば鹿島戦の前半には反対側を起点とした攻撃から対面のFW師岡柊生に、左サイドバックのDFマリウス・ホイブラーテンとの間を破られて、シュートに持ち込まれた形から、GK西川周作が弾いたボールをFW鈴木優磨に押し込まれた。サッカーIQの高い選手であり、現在は怪我人が多発している左ウイングやインサイドハーフの起用も織り交ぜられているが、渡邊は左サイドバックにやりがいを感じている様子だ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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