今後は1対1がさらに激化!? 首位ターンの町田が福岡戦で露呈した攻略のヒント【コラム】
【カメラマンの目】町田は福岡の対策をかわそうとダイレクトプレーを活用
FC町田ゼルビアが6月22日にホームスタジアムにアビスパ福岡を迎えたJ1リーグ第19節は、両チームともにゴールを記録できず0-0の引き分けに終わった。だが、町田はJ1初参戦ながらリーグ前半戦を首位で折り返す好成績を挙げ、一躍、主役の座へと上り詰めた。
日本プロサッカー最高峰のリーグで旋風を巻き起こしている町田に、勝利するにはどういった戦い方が有効なのか。黒田剛監督を先導者として、ここまで強さを見せつけられると、この勝利の権化とも言えるチームの攻略方法に興味が沸く。
勝ち点1を獲得できたものの、町田にとって福岡戦は手痛い引き分けとなった。なぜなら、今後を見据えると、対戦相手に町田というチームの攻略のヒントを与えてしまう内容となってしまったからだ。
元々、福岡は攻撃を重視して戦うチームではない。展開するサッカーは安定した守備で失点を防ぎ、そこからゴールのチャンスを生み出していくスタイルは町田に近い。
この試合で町田の攻撃陣は、福岡のゴール中央を固める守備に手を焼くことになる。だが、そうした状況に置かれても、ただ手をこまねいていたわけではなかった。福岡の厳しい守備の前にボール供給が手詰まりになっても、攻撃の勢いを失わせる横に逃げるパスを多発しないのが町田の強みだ。
町田のDF陣は前線へのパスコースを塞がれても横に逃げるのではなく、仕掛けによって状況を打開し、なんとしても前線にいる味方へとボールをつなげようとする意識が高い。短い距離だがドリブルで前線へと進出するなど、アクションを起こして突破口を開き、より相手ゴールに近い味方選手へとボールをつないだ。
ボールを受ける中盤から前線の選手にも工夫が見られた。福岡の激しいマークを避けようとワンタッチダイレクトプレーで、さらに前線へとつなげていく。町田の選手たちは戦術をベースとしたピッチ内での味方の位置や動きを把握しているため、ミスの確率が高くなるダイレクトプレーでのつなぎでも大きなズレが生じない。流動的なサッカーにおいて、的確なポジショニングと戦術を遂行する意識の高さは流石と言える。
福岡に長所を消されて苦戦
しかし、試合後の記者会見で長谷部茂利監督が「町田はやりづらかったと思う」と語ったように、町田は強度を自慢にしている自らのスタイルを上回る福岡の激しいディフェンスに対して、さまざまな工夫を見せて突破を試みたが、その動きも実らず沈黙することになる。特に福岡のゴール前の守備は鉄壁で、町田の隙があれば前に行くぞという姿勢から生まれる素早い展開からの攻撃もゴールまでは届かなかった。
町田に限らず多くのチームに言えることだが、やはり自分たちの長所を消されては、よほどの対応力を持っていなければ二の矢、三の矢と状況を打開する手段を繰り出すことは難しい。そして、福岡の戦い方は町田攻略の1つの方向を示したと言える。それを実行するには選手たちの戦う強い意志と、肉体的な強靭さを必要とするため簡単ではないが、町田にはテクニックで対抗するのではなく、真っ向勝負のフィジカルで挑むのが勝利への有効な方法であることを実践して見せた。振り返れば、第6節で対戦したサンフレッチェ広島もフィジカル勝負に持ち込んで町田に黒星(1-2)を付けている。
これまでの町田の躍進は、勝負への飽くなき追及を根幹とするフィジカルを全面に出したプレーで、相手の長所を消す戦い方が功を奏してきたからだ。だが、福岡は町田の強さを認め、慎重に試合を進めて逆に町田の長所を消しにきた。町田にとって負けなかったとはいえ、内容で奮わなかった福岡戦は今後に向けた課題を浮き彫りにしたことになる。
これからはリーグ前半戦を首位で折り返した事実によって、対戦するどのチームも町田との試合では自らの長所を出すことに専念するのではなく、警戒心を持って慎重に挑んでくるはずだ。簡単には勝てないという思いから、試合を構成する最小の局面である1対1の場面でも、より激しく臨んでくるだろう。
得意のサッカーをやらせてもらえない試合が増えていくことも予想されるなか、町田はこれまでのように勝ち点を積み重ねていけるのか。リーグ後半戦は町田のサッカーの真価が問われることになる。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。