EURO開催地のリアルな“今” 祭典を祝う国内…クラブとはひと味違うサッカー大国の盛り上がり【現地発コラム】

代表チームの活躍を受けドイツ国内は今どうなっている?【写真:ロイター】
代表チームの活躍を受けドイツ国内は今どうなっている?【写真:ロイター】

開幕前の盛り上がりは今一つだったドイツ国内

 EURO(欧州選手権)2024開幕1週間前のドイツはいたって平穏な雰囲気が漂っていた。町中を歩けば大会開催を知らせるバナーを見つけることができたが、それに注意を払う人々は見当たらない。

 ドイツ国内ではこれまで、チェーンのスーパーマーケットなどがワールドカップ(W杯)開催などに合わせてトレーディングカードや各種グッズを配ったりして宣伝と販促を行っていた。今回のEUROは地元開催ということもあって、同じように店内レジ近くの棚に大会グッズが陳列されていたが、その売れ行きはぼちぼちといった様子だった。

 ただし、大会マスコットである「アルベルト・ベア」は、テディベアを模したその愛らしさが好意的に受け止められて人気になっている。ドイツで生まれてきた各種大会の歴代マスコットはどうにも無骨で地味な傾向が強かったため、この点に関してはある程度マーケティングが成功しているようだ。

 大会が開催される週になると、日本領事館から筆者のようなドイツ在住者宛に注意喚起のメールが送られてきた。そこにはこんな文言が記されている。

「EUROは4年に一度の大規模サッカーイベントであるため、試合の組合せや結果によっては一部の熱狂したファン同士が衝突したり、試合開催に乗じて行われる抗議活動の参加者等が警察部隊と衝突したりする可能性があります。また、こうしたイベントがテロやその他の犯罪の標的となる可能性もありますので、試合会場やファンゾーン等への来場を予定されている方、観戦以外の用事で試合会場付近に行かれる方は、不測の事態に巻き込まれることがないよう、周囲の状況に注意を払うとともに、万が一、危険な状況に巻き込まれそうになった場合は、興味本位で近づくことなく、速やかにその場を離れるようにしてください」

 領事館からのこのようなメールは、ドイツ・ブンデスリーガやUEFAチャンピオンズリーグ(CL)、ヨーロッパリーグ(EL)などのゲームが当地で開催される度に送られてくる。仕事の関係でその場へ向かわねばならない筆者は都度、戦地に赴くような気分に駆られてしまう。ただ、実際にスタジアム周辺や中央駅、繁華街といった場所で暴力沙汰やスリなどの被害に遭われた方もいるため、用心に越したことはないのが実情だ。

フランクフルト市内で行われたパブリックビューイングの様子【写真:島崎英純】
フランクフルト市内で行われたパブリックビューイングの様子【写真:島崎英純】

代表の雄姿を見てさすがに興奮も…

 そんなこんなで迎えた大会開幕。6月14日の金曜日に開催国ドイツとスコットランドのオープニングマッチがミュンヘンで行われた。そこでフランクフルト在住の筆者は友人と市内中心部を貫くマイン川沿いに設営されたファンゾーンでのパブリックビューイングへ繰り出してみた。

 試合1時間前に到着すると、すでに多くの観衆が芝生にシートを敷いて大型ビジョンの前に陣取っている。ただ、その雰囲気はとても穏やかでフェスタのようなイベント感が漂っていた。年齢層は20代、30代あたりが中心だが、男女比はほぼ同等で、大会に合わせて観光目的でやってきたような方々も数多く見受けられた。

 そうこうしているうちに試合開始直前になると、いつしか一帯は立錐の余地もないほどの人数に膨れ上がり、ドイツ国歌を斉唱する際はさながらロックコンサートのような雰囲気になった。大会前は平静を装っていたドイツ国民も、代表の勇姿を眼前で目撃すれば興奮が喚起される。万国共通とも言えるこのムードもしかし、勝利という結果が伴わなければ、勢いが萎んでいく。

 筆者はスペイン・セビージャにて行われたEL決勝でアイントラハト・フランクフルトがグラスゴー・レンジャーズと対戦した際、同じ場所のパブリックビューイングを体験したことがある。その時の周囲の雰囲気は騒然としていて、まさしく戦場のような趣があった。ドイツのサッカーファンは愛するクラブと自身を一体化して捉える向きがあり、いわばライフワークとして当該クラブを支持している。すなわち、クラブの勝敗が自らの人生の成否をも左右するような感覚で捉えているため、その熱量も凄まじいのだと思う。

 一方で、W杯やEUROに出場する代表チームになると、若干フランクに対象を捉えているように思える。そもそも代表の試合をパブリックビューイングで観る方々は日常的にサッカーに高い関心を示しているわけではなかったりもする。先述したように大会というイベントを純粋に楽しみたい客層で、それがクラブ単位と国単位の大会を良い意味で棲み分けているように思えた。安全、安心にサッカーを観戦するなかで、その場にはお祭りのような華やかで心が沸き立つ空気が漂っている。これは「EURO」という国際大会がもたらすスポーツイベントの1つの理想の姿なのかもしれない。

決勝トーナメント進出を決め期待感が高まり始めた

 ドイツ対スコットランドは5-1でドイツが大勝した。開催国が好スタートを切ると否が応でも大会は盛り上がる。パブリックビューイングの場を離れて町中を歩いていると、そこかしこの居酒屋で祝杯を上げている姿が見受けられ、なかにはドイツとスコットランドのユニフォームが混ざり合う光景も目に入った。国・地域同士にはさまざまな関係性があるためにすべてを一括りにできないが、とりあえず両チームのファン・サポーターたちは良好な関係を築いているようだ。

 ドイツ代表のグループリーグ第2戦はハンガリーとの対戦となった。週中の水曜日に開催されるゲームで、舞台はドイツ南部のシュツットガルト。今回も再びマイン川沿いのパブリックビューイングを訪れたが、18時に開始された今試合も非常に多くの観衆が詰めかけて活況を呈していた。初夏を迎えたヨーロッパ地域は日没が遅く、試合が終了する20時頃でも太陽の光が燦々と降り注ぐ。

 ゲームはヤングスターのジャマル・ムシアラが先制点をマークし、33歳のキャプテン、イルカイ・ギュンドアンが2点目を決めてドイツが連勝を遂げ、グループリーグ1試合を残して早くも決勝トーナメント進出を決めた。若手とベテランが活躍する今大会のドイツ代表に、現地では期待感が高まっている。そして一時の低迷からチームを立て直したユリアン・ナーゲルスマン監督にも好意的な目が向けられ始めた。

 お洒落を自称するナーゲルスマン監督はハンガリー戦の間、全身黒ずくめの服装で指揮を執っていたものの、試合後のテレビインタビューでは代表のトレーニングシャツと短パンというラフな姿で現れた。インタビュアーを務めた元ドイツ代表のバスティアン・シュバインシュタイガー氏は「その格好、クールだね」と一言。これに対しナーゲルスマン監督が「ここは暑かったからね。汗をかいたから着替えちゃったよ」と返すと、パブリックビューイングでやり取りを見ていた観衆がどっと沸いた。

 パブリックビューイングの会場を離れて家路へ急ぐ。地下鉄に乗ると、余韻に浸るドイツのサッカーファンの横で、21時から始まったスコットランド対スイスの様子をスマートフォンでチェックしている人がいる。駅を降りて道を歩いていると、昼間にクロアチアと死闘を演じて2-2で引き分けたアルバニアの国旗を掲げた車の一団がクラクションを鳴らしながら通り過ぎていく。ベランダにスイス国旗を掲げた家の中から歓喜の雄叫びが聞こえた。この時、スコットランドに先制されてビハインドを負っていたスイスがジェルダン・シャキリのゴールで同点に追いついていた。

 ドイツを舞台に、ヨーロッパ全土が熱狂する大会は、盛夏を迎える7月14日まで続く。

(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)

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島崎英純

1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。

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