「香川真司に似た」日本代表の22歳新星に求める“2年でエース”の道 名門・市船出身の逞しさを【コラム】
鈴木唯人がミャンマー戦でA代表デビュー
「唯人(鈴木=ブレンビー)の起用についてですが、試合に出るのであれば、途中からになると思います」
日本代表の森保一監督が前日に公言していた通り、22歳の成長株・鈴木唯人が6月6日のミャンマー戦(ヤンゴン)で国際Aマッチデビューを果たすことが確実視されていた。
本人も「自分ができることを示せば、U-23の仲間たちもより自信を持って取り組める。自分がいいきっかけになれればいいかなと思います」と発言。パリ五輪世代底上げのけん引役になるべく、準備を進めていたという。
迎えた本番。前半のうちに中村敬斗(スタッド・ランス)と堂安律(フライブルク)の2ゴールが決まり、後半から鈴木が出るという期待が一気に高まった。
「いつものプレーしか出せないと思ったので、特別なことをせず、いつも通りのプレーを心掛けました」と彼自身は気負うことなく、あくまで自然体で堂安と交代。右シャドーに入った。
1トップに小川航基(NECナイメンヘン)、左シャドーに鎌田大地(ラツィオ)、右ウイングバック(WB)に菅原由勢(AZアルクマール)と周囲を取り巻く面々との共演は初めて。となれば、どうしても慎重に入らざるを得ない。正直、やりづらさもあっただろうが、瞬時に連携を構築できなければA代表に定着することはできない。厳しさを感じながら、鈴木は試合に入ったはずだ。
最初の見せ場は後半7分。ペナルティーエリア外側から思い切ったシュート放ち、ゴールへの意欲を鮮明にする。10分には川村拓夢(広島)からパスを受け、小川にスルーパスを供給。これは得点には至らなかったものの、鈴木らしい技術と創造性が垣間見えた。
後半17分に鎌田と菅原が下がり、前田大然(セルティック)と相馬勇紀(カーザ・ピア)が入ると、今度は中村とシャドーを組むことになる。これもまた初めての関係性だったが、1つ上の中村は1年半のA代表経験とフランス1部での実績があるせいか、余裕を持ったプレーができる。そういった点は鈴木も大いに学ぶべき部分ではないか。
この後、日本は小川が2点、中村が1点を追加し、合計5-0という圧倒的な強さを見せたが、鈴木がその得点シーンにダイレクトに絡むことはなかった。そこは、見る側からすると少し物足りなく映る部分もあった。
「結果は後からついてくると思うし、先に『結果、結果』となりすぎてもよくないと思う。自分としては悲観するような内容じゃなかったし、ボールに関わった時に見える景色もよかった。あとはその回数を増やしていくことかな。デビュー戦としてはよかったと思います」と本人は記念すべき一歩を踏み出せたことを前向きに捉えた様子。ここからどのように定着を図っていくかが肝心なのだ。
実際、鈴木が割って入ろうとしているポジションは日本代表最大の激戦区。今回の3-4-2-1の場合だと、シャドーの候補者はミャンマー戦でプレーした鎌田、堂安、中村に加え、ベンチにいた南野拓実(モナコ)、ベンチ外になった久保建英(レアル・ソシエダ)がいる。さらに言うと、旗手玲央(セルティック)も田中碧(デュッセルドルフ)もその仕事をこなすだけの能力を備えている。
4-2-3-1のトップ下にしても、久保と鎌田、南野がいて、鈴木は彼らに肩を並べる必要がある。欧州5大リーグで実績を残す面々との競争は熾烈を極めるが、ここでひるんでいるわけにはいかない。今季デンマークで積み重ねた公式戦11得点7アシストという実績を糧にして、さらなる高みを追い求めていく必要があるのだ。
「(A代表に来ると)こういう選手たちとやっていく中でいろいろ感じるものはある。日々、努力して自分のものにできればと思います。強度とか細かい部分はやるべきことがあるけど、いいきっかけにして、次はもうちょっと欲張っていきたい。ゴールというのがアピールできる一番わかりやすいものなので、狙っていきたいし、基本的な部分をもっとレベルアップしていきたいと思います」
W杯で鋭さ出す存在に
鈴木自身も次のチャンスでは明確な結果を残すことが重要だと強く認識している様子。今回、約30分にわたって2シャドーを形成した中村が9戦8発という驚異的な数字を残し、森保監督や名波浩コーチから「外せない存在」と位置づけられていったように、鈴木も強烈なインパクトを残し続ければ、久保や南野、鎌田の牙城を崩す時が来るかもしれない。それを信じて一歩一歩、前進していくしかないのだ。
さしあたって、11日のシリア戦(広島)にフォーカスすることが肝心。もちろん次戦はミャンマー戦に出なかった南野や久保が長い時間プレーするだろうから、鈴木に与えられる時間はわずかだろう。今回より少なくなる可能性が高い。そういう中で、短時間でも流れを引き寄せられる選手もA代表に必要。2022年カタールW杯ではそれを堂安や三笘薫(ブライトン)、浅野拓磨(ボーフム)が担ったわけだが、鈴木にもグッとギアを上げられる鋭さがほしいところ。最終予選のメンバー入りを果たすためにも、千載一遇の好機を逃す手はない。
パリ世代エースは創造性とアイデア、高度なテクニックを備えたアタッカーということで「香川真司(セレッソ大阪)に似た選手」と評されることが多い。今季限りで引退したかつての代表キャプテン・長谷部誠もそう語っているという。偉大な先人の22歳の頃を振り返ると、すでにザックジャパンのエースナンバー10を与えられ、ドルトムントでゴールを取りまくっていた。そう考えると、鈴木はもっともっと成長曲線を引き上げなければいけない。
今夏には欧州5大リーグへのステップアップも噂されるが、守備強度やハードワーク、運動量含めて、彼には克服しなければならない課題がいくつかある。それをクリアし、本来の卓越した攻撃センスを遺憾なく発揮できるようになれば、森保監督も鈴木を放っておくはずがない。その日ができるだけ早く来るのが望ましい。
とにかく、2026年W杯までの2年間でA代表のエースになるくらいの鼻息の荒さを見せてもらいたい。高校サッカーの名門・市立船橋高校出身というアドバンテージを生かし、強さと逞しさ、泥臭さを駆使して、ここから一気に這い上がっていく鈴木の姿を楽しみに待ちたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。