「審判は人間である」 巻き起こるジャッジ論争、把握しておきたい競技規則の10シチュエーション【コラム】

競技規則を誤解しているものも散見【写真:高橋 学】
競技規則を誤解しているものも散見【写真:高橋 学】

ジャッジに関する議論が過熱するなかで競技規則を誤解しているものも散見

 今シーズンもジャッジに関する話題や議論は活発に行われている。だが、その中には競技規則(ルール)を誤解しているものも散見される。

 例えば、「手に当たったらすべててハンドというわけではない」というのはかなり知られているが、「ボールやその進行方向に対して手や腕が動いているかどうか」「身体の高さや幅を広げるような位置に手や腕があるかどうか」「手や腕が自然な動きをしているかどうか」など、いろいろな要素が組み合わさらないとハンドにはならない。一度は覚えていたとしても、毎年の細かな改定で分からなくなってしまうこともあるだろう。

 そこで今回は、自分がどこまで今のルールを理解しているのか分かるクイズを用意した。まずはこの10問で何問正解できるかを試してほしい。全問正解した人は、すぐに次の講習会で資格認定を受けて、レフェリーとして活躍しましょう。もしかしたらレフェリーとして世界への道が開けるかもしれない。

   ◇   ◇   ◇   

【1】ペナルティエリアの中で、DFの目の前で相手FWが飛んだもののボールに触れず、死角から飛んできたボールがそのDFの身体から離れていた手に当たり、DFはそのボールをクリアした。
(A)ハンドとしてDFにレッドカード、PK
(B)ハンドとしてDFにイエローカード、PK
(C)ハンドだがDFにはノーカード、PK
(D)意図的に触ったのではないのでノーハンド

【2】J1の試合、ペナルティエリアの中で、FWの目の前で相手DFが飛んだもののボールに触れず、死角から飛んできたボールがそのFWの身体から離れていた手に当たり、FWはそのボールをゴールに蹴り込んだ。
(A)ハンドとしてFWにレッドカード
(B)ハンドとしてFWにイエローカード
(C)「直後」にゴールしたのでハンド
(C)意図的に触ったのではないのではないのでノーハンド

【3】J1の試合、ペナルティエリアの中でシュートがDFの手にボールが当たり、ゴールラインを割った。ゴールラインを割った後に主審は笛を吹き、一度PKと判定したものの、その後VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入してハンドが取り消された。その場合の再開方法は?
(A)CK(コーナーキック)
(B)ボールが当たった地点での攻撃側のFK(フリーキック)
(C)ボールが当たった地点での守備側のFK
(D)ボールが当たった地点でのドロップボール

【4】ペナルティエリアの中でシュートがDFの手にボールが当たり、ゴールラインを割った。ゴールラインを割った後に主審は笛を吹き、一度CKと判定したもののその後VARが介入。だが主審はハンドを取らなかった。その場合の再開方法は?
(A)CK
(B)ボールが当たった地点での攻撃側のFK
(C)ボールが当たった地点での守備側のFK
(D)ボールが当たった地点でのドロップボール

【5】オフサイドの疑いがあった攻撃がオフサイドディレイで流された。その後、ペナルティエリアの中でDFがFWを過度に暴力的なプレーで止めた。そこで主審は笛を鳴らしてDFにレッドカードを示しPKと判定したが、VARチェックの結果、最初のFWの位置はオフサイドだった。この場合の判定はどうなる?
(A)オフサイド地点での守備側の間接FKで再開し、PKとレッドカードは取り消し
(B)オフサイド地点での守備側の間接FKで再開し、PKは取り消し、レッドカードは有効
(C)オフサイド地点での守備側の間接FKで再開し、PKは取り消し、レッドカードはイエローカードに変更
(D)レッドカードは有効でPK

オフサイドやリスタートのシチュエーションも多岐にわたる

【6】オフサイドのポジションにいたFWの選手に対してパスが出た。DFはそのパスに対してその場で身体を精一杯伸ばして相手のパスをカットしようとした。だが、ボールに触れたものの、FWに渡って得点となった。この場合の判定として正しいのは?
(A)DFが触っているのでオフサイドがなくなりゴール
(B)オフサイドとなり、FWがプレーに関わった地点で守備側の間接FK
(C)オフサイドとなり、パスが出た地点で守備側の間接FK
(D)FWにパスが出た時点でオフサイドとなるためFWがいた地点で守備側の間接FK

【7】オフサイドのポジションにいたFWの選手に対してパスが出た。DFはそのパスをカットしようとしたがトラップが乱れ、ボールに触れたものの、FWに渡って得点となった。この場合の判定として正しいのは?
(A)DFが意図的にプレーしたのでオフサイドがなくなりゴール
(B)オフサイドとなり、FWがプレーに関わった地点で守備側の間接FK
(C)オフサイドとなり、パスが出た地点で守備側の間接FK
(D)FWにパスが出た時点でオフサイドとなるためFWがいた地点で守備側の間接FK

【8】オフサイドポジションにいることを認識していたFWが、味方から自分にパスが出そうになっているので自らタッチラインの外に出た。そのパスを走り込んだオンサイドの選手が戻し、タッチラインの外から戻ってきた選手が受けたもののタッチラインを割った。この場合の再開方法は?
(A)守備側のスローイン
(B)FWがピッチ外にいたとしても、オフサイドとしてFWがタッチラインを割ったところから守備側の間接FK
(C)FWは主審の許可なくピッチの外に出たのでイエローカードとなり、守備側のスローインで再開
(D)FWは主審の許可なくピッチの外に出たのでイエローカードとなり、FWがタッチラインを割ったところから守備側の間接FK

【9】ペナルティエリア内の接触でDFが倒れて起き上がれない。そこに上がってきたクロスをFWがキャッチし、レフェリーに対応を促した。再開の方法は?
(A)故意のハンドなのでFWにイエローカード、ボールをキャッチした地点から守備側の直接FK
(B)故意のハンドなのでFWにレッドカード、ボールをキャッチした地点から守備側の直接FK
(C)ボールをキャッチした地点から守備側の直接FK
(D)ボールをキャッチした地点でドロップボール

【10】ペナルティエリアの外のプレーで、両チームの選手が激しく接触し転倒した。主審はSPA(Stopping a Promising Attack:大きなチャンスとなる攻撃の阻止)だと判断し守備側の選手にイエローカードを出した。だが攻撃側の選手が「自分が先にファウルをした」と申告してきた。しかし、ピッチ上のレフェリーは誰も攻撃側のファウルを確認できていない。この場合、主審はどうするのが正しいのか。
(A)選手の申告に基づきイエローカードを取り消し、守備側の直接FK
(B)VARに確認した上でイエローカードを取り消し、守備側の直接FK
(C)イエローカードを取り消し、攻撃側の直接FK
(D)判定を変えず攻撃側の直接FK

サッカーの判定は「主観的な」判断を必要とするもの

<答え>
1:「D」
2:「C」
1と2とでは、守備側と攻撃側で同じように手に当たったとしても判定が違うので注意。

3:「D」
4:「A」
3は主審が判断を下したのは手に当たった場所なのでそこからドロップボール、4はCKという判断なのでCKから再開。ただし、3は日本ではそう運用されるが、ほかの国では別の解釈をすることもある。VARの手順だけが決められていて競技規則では決まっていないので、その国ごとの解釈が決められている。

5:「B」
オフサイドになるがレッドに当たる行為は取り消されない。

6:「B」
7:「A」
DFがその場でのギリギリのプレーで触ったときはオフサイドになるが、意図的にプレーできていたときはオフサイドにならない。また「プレーに関わった」というのは例えばGKの視野を防いだりすることも含み、ボールに対してプレーすること以外も含まれるので注意。

8:「C」
レフェリーの許可なくピッチから出るとイエローだが、ボールが遠くに飛んでいくのを防ごうとしてジャンプしてボールをキャッチする時に外に出ることもあって、そんな時は主審も意図が分かると反則を取らないこともある。

9:「C」
これはFWの称賛されるべきプレー。

10:「D」
イエローカードなのでVARは介入できず、審判団は自分たちが見えたとおりに判定しなければならないという事例。たぶん審判もつらいでしょう。

「サッカー競技規則」の最初の項目には、「サッカーの競技規則は、ほかの多くのチームスポーツのものと比べて比較的単純である。しかしながら多くの状況において『主観的な』判断を必要とし、審判は人間であるため、必然的にいくつかの判定が間違ったものになったり、論争や議論を引き起こすことになる」という一文がある。それを理解したうえで、大いに議論になるのがいいだろう。

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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