森保J、ミャンマー戦3バック採用“当日通達”…5発圧勝劇導く「新オプション」の裏側【現地発】
W杯アジア2次予選ミャンマー戦でスタートから3バックに初挑戦
森保一監督率いる日本代表は6月6日、2026年北中米共催ワールドカップ(W杯)アジア2次予選で敵地でのミャンマー戦に臨み、5-0で勝利を収めた。森保監督は初めてスタートからの3バックに挑戦。攻め上がる時はボランチのMF守田英正が残り、相棒のMF旗手怜央が前線で関与するという可変式のシステムが新たなオプションに加わった。森保監督が3バックのトライに踏み切った裏側に迫る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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断続的な雨が上がり、湿度80%を超える蒸し暑い気候のなか、第2次森保政権に新たな引き出しが増えた。指揮官はDF谷口彰悟、DF伊藤洋輝、DF橋岡大樹の3バックにMF中村敬斗、DF菅原由勢の両ウイングバックを配置した3-4-2-1システムの起用に踏み切った。ダブルボランチの守田と旗手、シャドーにはMF鎌田大地とMF堂安律、1トップには身体を張れるFW小川航基をスタメンに送り込んだ。
慣れない布陣と攻守のバランスで試合開始10分はミスも見られたが、徐々にペースを掴んでいく。前半17分にはハーフウェーライン付近でボールを受けた鎌田が左前方のスペースへボールを展開すると、走り込んだ中村がペナルティーエリア内まで切り込んで右足シュートを決めた。“敬斗ゾーン”からの先制ゴール、そこから堂安、小川が2ゴール、仕上げに中村がミドル弾でダメを押して5-0でのフィニッシュとなった。
正直言って、ミャンマー相手にはほとんど守備に回る時間もなかったため、仕掛けがうまくいったことは手放しに喜べる結果というわけでもないだろう。それは選手も口々に「レベルが上がった相手にどこまでできるか」と話している。それでも、自信になったことは確かでここから積み上げていくものだ。
そもそも、森保監督がなぜ3バック挑戦に踏み切ったのか。記憶に新しいアジアカップでは、ベスト8で対戦したイラン相手に痛恨の逆転負け(1-2)を喫した。
敗戦のなかで象徴的となったのが後半だった。押し込まれた展開で流れを切ることも、反撃することもなく、攻撃には手詰まり感が漂った。中盤から縦へボールも入らず、代わって入ったMF三笘薫とMF南野拓実はほとんど何もできず。チャンスを作ることができなかった。この時、指揮官は3バックに踏み切らなかった理由をこう明かしていた。
「3バックにすることやサイドバック(SB)を代えることは、相手のサイド攻撃が圧力になっていたので考えてはいた。耐えていって、できるだけ前線の交代カードを切りたかった。昨日の(準々決勝)韓国とオーストラリアも、オーストラリアが5-4-1にして下がりすぎて“ジリ貧”になった。3バックにしたからといって守備的なだけではないけど、今までは守備的に逃げ切る局面で使っていたので、攻撃の部分でシステムなどを変えたいと思った」
攻撃的3バック採用の絶好のチャンスで90分間フルテスト
これまでなかなか、攻撃的な3バックを合宿で練習する機会がなかった。そのため、すでに最終予選進出が決まっている6月は絶好のチャンス。正直、あくまで“オプション”だと受け止めていたので、スタートから90分間フルに試したのは意外だった。
指揮官は「両方とも考えていた」という。前日の会見では「試合途中から可変して」と話していただけに、「スタートからプレーしてもらうことで、よりチームとして形になるかなという判断をして、実は今日、選手たちに伝えました」と、当日に知らせたことを明かした。
もちろん相手のスカウティングもありながらだが、長い時間、すべての交代枠を使ってやり切ったことはピッチ内外の選手にとって収穫となっただろう。特に攻守の切り替え、攻めの時には守田が残り、旗手が前に出る。守備の時には旗手が戻って、固める。鎌田と旗手、堂安は入れ替わりながら柔軟に動いていた部分もあったなかで、基本の戦術は整理されていた。
指揮官は常日頃から臨機応変な対応を選手に求めているが「ポジショニングの立ち位置の基本的なところと誰と誰が基本的に変わっていいということは選手たちに伝えた」と、しっかりと土台を作り上げて臨んだ一戦だった。
実はこのシステム、昨年の9月ドイツ遠征の際に守田が提言していたものにも一致する。守田は「攻撃的な3バックの作り方は、僕は1つ持っておかないといけないと思う。うしろ3枚プラス、ボランチ1枚の4枚で守れるような形で、前に(3トップと両ウイングバックの)5枚プラス間に(ボランチの)1枚みたいなイメージがあれば」と話していた。要するにカタール・ワールドカップ(W杯)ドイツ戦で突如、森保監督が採用した三笘と伊東純也をウイングバックに置く、攻撃的な3バックだ。森保監督、選手ともにこの3バックはオプションで持っておくべきという共通意識が昨年からあった。
アジア杯の際に完成していたらベストだったが、最終予選はここから。攻撃的な3バックだけではなく、世界と戦える“引き出し”をもっともっと積み上げていかなければならない。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)