Jクラブ視察で学び…超頭脳派軍団・東大サッカー部が挑むフィジカル改革とは? 「高度な戦術のためにも不可欠」【インタビュー】

ア式蹴球部が戦術とフィジカル融合のヒントを得るきっかけとなったJ2・いわきFCの視察の様子【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】
ア式蹴球部が戦術とフィジカル融合のヒントを得るきっかけとなったJ2・いわきFCの視察の様子【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】

フィジカル的課題を抱えていたア式蹴球部、いわきFCへの視察で得たもの

 ベルギー1部シント=トロイデンVVとの連携、8社とのスポンサー契約など、頭脳を生かした先進的な取り組みがたびたび話題となっている東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部。以下、ア式蹴球部)。林陵平前監督が退任し、新たに桑原徹氏を監督に迎えた今シーズンも、強豪ひしめく東京都一部リーグにて頭脳派の戦術的サッカーで健闘を続けている。

 そんな彼らが最近力を入れているのがフィジカル改革だ。一見、彼ららしくないとも思えるフィジカル改革の裏には、「日本のサッカーのフィジカルスタンダードを変える」をテーマに掲げるJ2・いわきFCの存在があった。ア式蹴球部の部員が同クラブを視察し、そこで彼らの戦術とフィジカルの融合のヒントを得たという。

 今回はア式蹴球部でフィジカル改革を主導する3名、高口英成さん(4年、学生ヘッドコーチ)、米田一稀さん(フィジカルコーチ)、川上大智さん(2年、学生フィジカルコーチ(にインタビューを行った。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 ア式蹴球部では、戦術的なサッカーを志向する一方で、その土台となる基礎的なフィジカルの部分に以前から課題を感じていたという。学生時代は東京学芸大学でフィジカルコーチを務め、昨年度からア式蹴球部のフィジカルコーチになった米田さんは次のように語る。

「ア式蹴球部ではボールを保持して戦術的な優位性を基に試合を支配するというゲームモデルを採用し、日々トレーニングに励んでいますが、それを頭では理解できていても身体で表現できないという身体的な課題を感じていました。実際にデータを見てもライバルの他大学と比べてフィジカルの差ははっきりと出ており、正直に言ってアスリートとしての土台がなっていないなと。このフィジカルの部分を改善しなければ、自分たちがやりたいサッカーを体現できる日はこないと考えたのがきっかけです。

 そういった思いから、昨年度はいわきFCでスプリントコーチを務めていらっしゃる秋本真吾さんをお迎えしフィジカル強化に取り組んできました。そのなかで、フィジカルについてのノウハウを持続的に部に蓄積し、今後永続的にフィジカル強化に取り組めるよう、秋本さんの力もお借りしながら部員3名が直接視察に行くことになったというのが今回の経緯です」

 そうして実現したいわきFCへの視察では、2泊3日の泊まり込みでノウハウを吸収してきた。学生フィジカルコーチを務める川上大智さんは、メニュー設計やサッカー以外の細かな配慮にも多くの学びがあったという。

「2泊3日の視察で2回の練習を見学することができました。その時はどちらも秋本さんがアップを担当されていて、すでに知っているメニューも多く、ア式でトレーニングを行っていただいている時とメニュー自体は変わらない部分も多いという印象を受けました。しかし、ハードルの幅であったり本数設定などはいわきのほうが数段上でした。また、練習前後の筋トレなども徹底されていて、そういった面でかなり刺激を受けました。

 メニューの内容以外にも刺激を受けたことがあって、例えば用具の整理整頓です。練習の前にコーンやマーカーなど練習で使う用具をスタッフの方がピッチ脇に綺麗に並べるのですが、その並べ方を見てもプロだなと感じました。視察が終わって部に帰ってからも、その置き方をア式でも真似して取り入れるようになりました」

ア式蹴球部でフィジカル改革を主導する米田一稀さん(左)、高口英成さん(中央)、川上大智さん(右)【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】
ア式蹴球部でフィジカル改革を主導する米田一稀さん(左)、高口英成さん(中央)、川上大智さん(右)【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】

視察を経てトレーニングも変化「戦術とフィジカルで優位性を取れるチームに」

 このいわきFCへの視察で得た経験は、早速ア式蹴球部にて生かされていると語るのは、学生ながらヘッドコーチを務める高口英成さんだ。

「いわきFCへの視察を通して得たいわきFCのエッセンスは、帰ってきてすぐア式でも取り入れました。スプリントの本数を意識的に増やすようなメニュー設計を行ったり、フィジカルに特化したトレーニングセッションを新たに追加したり、練習強度を以前よりも数段上げることができました。

 また、フィジカルトレーニングはただきついだけのものではなく、本質的には身体の使い方を学ぶトレーニングだということも知ることができました。どうすれば効率良く走れるのかという問題は、どうすれば身体に負担をかけず怪我をせずに走れるのかということにもつながってきます。そのため、クールダウンやリカバリーの日にもフィジカルトレーニングを散りばめて、障害予防にも役立てています。

 僕たちのサッカーは、戦術的には優れていると自信をもって言えます。その戦術的優位性を持ったまま、フィジカル的にも優位性を獲得できるような、他を圧倒するようなチーム作りを行っていきたいです」

 長年の課題に正面から向き合い、フィジカル改革に挑むア式蹴球部。今後の活躍に期待だ。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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